第48話
「今日はドラゴンいないんだな……!」
俺はミノタウロスの胸に刀を突き刺し、死んだのを確認するとそう言った。
昨日中野区に発生した大型モンスターはあらかた倒したはずだったが、中野区には再び大型モンスターが発生していた。
昨日ほど数はいないので、早めに新宿区に向かえそうな雰囲気ではあるんだが。
「みんな!もうすぐ新宿区に入る!装備品の最終確認を済ませてくれ!」
新庄は隊員に装備の確認をさせるためにそう言った。
出発して1時間になるが、もう新宿区に入るのか。
「昨日のドラゴンのように何が出るかわからない!みんな気を引き締めていけよ!」
昨日のドラゴンには苦戦したし、他にも俺たちが想像できない攻撃を繰り出してくるモンスターもいるかもしれない。俺は隊員たちにもより一層気を引き締めてもらうように伝えた。
新宿区の方ではすでに煙が上がっているのが見えた。かなり大型モンスターが暴れ回っているのだろう。
「またドラゴンが出たら大変ですね……」
俺が新宿方面を見ていると、弓部隊の早瀬が声をかけてきた。
「それでも俺たちは倒すしかない。昨日もなんとか倒せたんだ。落ち着いて対処すればきっと大丈夫さ」
早瀬は不安そうな顔をしていたので、俺はその不安を払拭したいと考え気にしないように伝えた。
実際、俺もドラゴンと戦うのは避けたい。
炎のブレスなんてなかなか防ぎようもないからな。
俺たちは装備の確認を終え、大至急新宿区に向かうことになった。
◇
新宿区ではかなりの数の大型モンスターがうろついていた。
しかし発生したモンスターは中野区のモンスターと大した変わらない様子なのでそれなりに安定して討伐していくことができた。
中野区にいるときに見えた火災も、ドラゴンがブレスを吐いて発生した火災ではなく、違う大型モンスターの攻撃で火災が起きたものだった。
「ドラゴンはいないけど数多すぎだろ!」
安定して討伐できているとはいえ、大型モンスターの数が異常だった。新宿区に入って1キロほどの地点で身動きが取れないほど、大型モンスターが近くに寄ってきた。
まだ囲まれてはいないが、討伐が追いつかなくなるとその可能性があり、かなり危険だった。
「省吾!一旦中野区に撤退しよう!数が多すぎる!」
「そうだな!全隊員撤退の準備!トラックの方の大型モンスターを中心に倒して退路を開け!」
俺の合図と共に、隊員たちは後方に集まってきた大型モンスターを次々に討伐した。
なんとか幌付きトラックまで辿り着くことができた俺たちは、中野区まで一旦移動することにした。
「みんな無事か?」
「生きてはいます……。ただ、少しずつ傷は増えてきています」
俺が隊員に声をかけたが、みんなあちこちに擦り傷などを負っていた。命に別状はないが心身共に疲弊しているようだった。
「さすがにきついな。治療が必要な隊員は今治療してくれ。少し休んだらもう一度新宿に入る。次からはいつでも撤退できるように退路を確保した上で討伐を行なう」
隊員たちは水分補給などを済ませ、少し休んでもらった。それから10分ほど休憩して、再び新宿区に向かう準備をする。
「省吾、こんな状態なのって東京だけじゃないよね?大丈夫かな?」
「……まあどこも厳しい戦いにはなってるだろうな。隊員数が一番多いうちの支部でもこの様だからな。まあ田舎にはそんなに発生していないはずだから、ひどいのは街中だけだろう」
自然の少ない街中に多くモンスターが発生する仕組みらしいので、大型モンスターでも大した変わらないだろうと考えていた。
「そうだよね……他の部隊を気にしてもしょうがないか。今日できれば新宿も終わらせたいね」
「気持ちを切り替えてまた頑張ろう。みんな!そろそろ行くぞ!」
そうして俺たちは再び新宿区へ出発した。
今度はモンスターに囲まれないように常に退路を確保しつつ討伐を続けた。
危ない場面になったらすぐに撤退しながら、少しずつ大型モンスターを討伐しているのでかなり討伐ペースが落ちてしまった。
こうなったのも俺のせいだった。
中野区の討伐が上手くいっていたせいで新宿区も同じものだと考えていた。その考えが裏目に出て、新宿区のモンスターが一斉に俺たちを襲う格好になってしまった。
「そんなに甘くは行かないよな……!」
中野区に撤退した後は最初より安全に討伐ができていたのでそこは安心したが、最初の討伐は本当にヒヤヒヤした。危うく誰かが犠牲になってしまう可能性もあった。
俺たちはその後、日が暮れる直前まで大型モンスターを討伐し続けたが、その数をあまり減らすことができずに撤退を余儀なくされた。
新宿区は下手したら中野区の10倍はいるかもしれない。いくら討伐しても大型モンスターが減る様子はなかった。
俺は帰りのトラックの中で少し考えていた。
ルーチェの言っていたことに少し疑問を感じたからだ。
新宿区がこんなに多いのはなぜなんだ?
中野区にそれほど大型モンスターがいないのも不自然だろう。別に自然が多いわけでもないんだし、逆に新宿に全く緑がないと言うわけでもない。
大型モンスターの分布には街によってかなりばらつきがあるようだった。
「まさかまた色々間違えてるんじゃないだろうな……」
あの神様のことだからこの前変なところをいじってモンスターが発生する場所を変えてしまったんじゃないだろうかと俺はかなり心配になってきた。
ルーチェには悪いが、仕事ができるような人物には全く見えなかったし。
こんなことを思っていたら次呼び出されたとき何を言われるかわからないな。
「隊長、あの大型モンスターの数は異常でしたね。数を減らせた気は全くしませんし……」
俺が色々考えていると、岡が話しかけてきた。
「まあ少しは減ってるんだろうけど、俺たちに集まるモンスターの勢いが衰えないから余計そう感じるのかもな。どれくらいの日数がかかるかはわからないが、結局は全部討伐するしかないんだ。がむしゃらに頑張るしかない」
「そう……ですよね。また明日から頑張ります」
岡は今日も第一線で活躍してくれた。
そんな岡でも、今日の討伐は堪えたようでかなり疲れている様子だった。
わずか2日で隊員たちの疲労もピークに達してしまった。特に今日の討伐でかなり疲弊した様子だった。
明日も全員無事で帰って来れるのだろうか。
そんなことを思いながら俺は帰りのトラックに揺られ、駐屯地へ向かっていた。
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