300字の物語(短編集)

井上 幸

第1話 雪が降る

 寒さ厳しい冬の空。木々の隙間から漏れるのは、雲を透かして届く弱くて儚い陽の光。

 落ち葉の上に体を投げ出して、はぁっと大きく溜息ひとつ。つられたようにふわりと光が落ちてきた。天使の涙か、なんてひとりごと。

 空に伸ばした手を逸れて、光は袖へと着地した。見ればそれは小さな雪の結晶で。涙じゃなくてほっとする。地上は空より暖かい。見る間に溶けて消えていく。

 今度は安堵の溜息零す。すると大きな結晶が、空からふわりぽとりと舞い降りて。見上げる僕の心は舞い上がる。

 雪に心躍るのなんていつ振りだろう。けれど立ち上がりはせず、この身に降り積もる雪の冷たさ感じてる。

 寒さに震え、けれど心のどこかは温かく。僕はそっと微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る