後編


 …あら、お茶請けが少なくなってしまいましたわね。新しい菓子を持ってきてもらうついでに、紅茶の茶葉も変えてもらいましょう。私付きのメイドは魔属のトレント族ですので、お茶の葉にとてもこだわりがあり、彼女に淹れてもらったお茶を飲むととても心が落ち着きますの。そうしてゆっくりお茶を飲んでいる内に、友人達の話題が変わっていくのがまた楽しいのです。



「…そうそう、聞いて下さる? 私、先日婚約者と町デートと言うモノをしてみたの。町中を馬車で移動するではなく、徒歩で移動して店を巡ったりしてデートするのが最近の流行りなんですって。そのようなデートは今回が初めてでしたけれど、ただ歩くだけでもとても楽しくて、私ったらついつい気持ちが高ぶってしまい、道の途中でうっかり足元を疎かにしてしまったのよ。そうしたら、婚約者が躓きかけた私をさっと片腕で支えて、そのまま抱き上げて下さったの!」


「まぁ、素敵! 人属のオーガ族の中でも一際大きい貴方を颯爽と抱き上げるなんて、素晴らしい殿方だわ!」


「うふふ、私の婚約者は力自慢で有名な人属のミノタウロス族ですもの。オーガ族は頑丈さで有名で、私自身地面に倒れた所で地面の方が割れるくらいですけど…、守ろうとして下さったその行為と想いがもう…! ときめきで胸が張り裂けそうになりましたわ!!」


「羨ましいですわ~。私の婚約者は人属のホビット族ですから~、小柄な彼を尾で支えて抱き上げるのは私になりますもの~…。魔属のラミア族の私では下半身が蛇の形なので躓く事は難しいですし~」


「あら、私、知ってますのよ? 今身に着けておいでの、その頭飾りも腕輪も胸飾りも尾飾りも、ぜ~んぶ、その婚約者の作品で、会う度に新しい作品を贈られている事を…」


「そ、それは~…そうなのですけれども~」


「まぁ、どれもとてもお似合いで素敵ですわ! 確かホビット族は手先の器用さと芸術家気質で有名ですが、愛しい相手を手作りの作品で飾り立てる習慣がありましたわね」


「たっぷり愛されておりますわねぇ?」


「も、もう~! からかわないで下さいな~!」



 お二人のご様子を聞いておりますと、私も新たな婚約者を急いで見つけるべきかもしれないように思えてきましたわ。百年くらい後でいいかとのんびり考えておりましたが…エルフ族は他の種族より時間の感覚がのんびりしがちと言われておりますから、うっかり忘れて千年くらい過ぎてしまいそうですし…。真実の愛を見つけた義妹と彼の様に、私も愛ある結婚が出来ればいいのですが。…って、あら?



「……そう言えば、ミミック族の擬態が愛の証という事は、嫁入り後は彼の姿を擬態するのかしら? 義妹の性別は列記とした女性ですけど、彼に擬態すると義妹は男性の姿になるでしょうし…もしかしてこれからは義弟と呼ぶべきなのかしら…?」


「…気になるところはなのかしら~?」


「ちょっとずれている所もエルフ族らしいと言えますけど、この子の場合それが顕著だからもう本人の性格ですわね…。ねぇ、貴方の義妹さんは伴侶となる方には本来の姿を見せる事が出来るのでしょう? なら、子作りも問題ないでしょうし、子を産むのは義妹さんの方でしょう。呼び方は慣れている義妹のままでいいのではないかしら。あの伯爵令息の一族はどんな種族とも馴染みやすく相性が良いと言われる人属のニンゲン族ですし、きっと子沢山な家庭になりますわね」


「ええ、その通りですわね。うふふ、姪っ子や甥っ子と会える日が今から楽しみですわ」



 やっぱり、友人達を招いたお茶会をして正解でしたわ。可愛い義妹が嫁入りした後は寂しくなるだけだと思っておりましたが、こうして今後の楽しみを気付かせてもらえたもの。それなら私の婚約者探しについては、今後産まれてくるだろう姪っ子と甥っ子達が成人してからでも全く問題ないですわね。



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