カードを腰に貼る!それがダンジョン攻略法!?最強無双で成り上がり!をしたいと思うおっさんの話

三国洋田

第1話 居間にダンジョン

 寝て起きたら、見慣れた居間に見慣れない妙なものがあった。


 直径2メートルくらい、厚さは数ミリくらいの、真っ黒い色をした円だ。

 8畳の居間のド真ん中に存在している。


 アニメやゲームに出てくる、空間の裂け目のような見た目だな。


 ううむ、ハッキリ言って邪魔だな。

 もうちょっと端に寄って欲しいものだ。


 それで、これはいったいなんなのだろうか?


 35年ほど生きているが、こんなものは初めて見たぞ。


 もしかして、俺はまだ夢の中にいるのだろうか?


 とりあえず、顔でも洗ってこようかな。



 顔を洗ってきた。

 さっぱりして、目が覚めたぞ。


 さて、居間に戻ってみようか。


 そこには相変わらず、真っ黒い円が存在していた。

 どうやら夢ではないようだ。


 仕方ないなぁ、ちょっと調べてみようか。



 この黒い円は、ゲームに出てくるワープホールに似ているような気がする。


 まさかとは思うが、ここを通り抜けると他の場所に行けたりするとか?


 ハハハッ、そんなバカなことがあるわけないだろう!


 ……あるわけないよな?


 どうなのだろうか?


 ちょっと試しに入ってみようか?


 いや、ちょっと待てよ。


 いきなり俺自身が入るのは危険だな。


 まずはカメラだけを入れてみよう。


 家にあった旧式のデジタルカメラを動画撮影モードにして、トングで挟んで中に入れてみよう。


 これなら俺自身は安全だ。


 カメラはもう使ってないから、壊れようがなくなろうが、特に問題ないしな。


 我ながら名案だな!

 自画自賛しておこう!!


 では、実行しよう。


 トングを黒い円の中に入れてみた。


 おおっ!?

 トングが黒い円の反対側から出て来ないぞ!?


 やはりどこかに通じているのか!?


 トングを少しずつ動かして、黒い円の内部を撮影した。


 そろそろ良いかな。

 カメラを取り出して、動画を見てみよう。



 こ、これは!?


 そこには茶色の岩や土で囲まれている、広い空間が映っていた。


 もしかして、ここは洞窟の中なのか!?


 この向こうに、そんなものが広がっているというのか!?


 なんでこんなものがあるんだ!?


 訳が分からないぞ!?



 まさかこれはアニメやライトノベルの世界に存在する、ダンジョンだったりするのだろうか?


 俺の家の居間に、ダンジョンができてしまったということなのか!?


 どうなのだろうか?


 もしそうだとするのなら、これはチャンスなのかもしれないぞ!!


 黒い円の存在なんて聞いたこともないから、今すぐに調べれば俺がダンジョンの第一人者ということになる!


 利益を独占できて、大もうけできるかもしれない!!


 それにアニメやラノベでは、この手のダンジョンは最強、無双、成り上がり、大金稼いで人生一発逆転が定番みたいなイメージがあるしな!!



 だが、当然ながら危険でもあるよな。


 未知の世界なのだから、何があるのか分からない。


 凶悪なワナが仕掛けられているのかもしれない。

 情け容赦なく襲ってくる狂暴なモンスターが存在しているのかもしれない。

 まったく想像も付かない危険があるのかもしれない。


 それらのせいで命が危うくなるどころか、本当に死んでしまうかもしれない。


 その可能性は十分にあるだろう。



 さて、どうするか?


 ……行ってみようかな。


 正直、俺の人生はあまりうまくいっていない。


 給料は安いし、仕事ができるわけでもないし、独身で一人暮らしだし、彼女なしだし、だいぶ太っているしな。


 このまま何もしなかったら、たいしたことない人生を送って、ただ寿命で死ぬだけなのだろう。


 ここは命を賭けて行動してみた方が良いのかもしれない。


 よし、決めたぞ!!

 ダンジョンに入ってみよう!


 目指せダンジョン業界のトップランナーだな!!



 それでは突入の用意をしようか。


 動きやすい服装に着替えて、護身用に直径30センチくらいのフライパンを持った。


 そして、俺自身に気合を入れた!!!


 よし、準備完了だ!


 では、行くか!


 俺は黒い円の中に入ってみた。



 カメラに映っていたものが、俺の目にも映っている。


 本当に洞窟の中につながっていたんだな。

 カメラの誤作動ではなかったようだ。


 さて、とりあえず、周辺を調べてみようか。


 俺は周囲を見回してみた。


 ふむ、かなり広い部屋だな。


 広さはどのくらいあるのだろうか?

 普通住宅2軒分くらいの面積かな?


 遠くの方に通路が見える。

 1か所だけだがな。


 天井はかなり高くて、なぜか白く光っている。


 光る鉱物でもあるのだろうか?


 そういえば、ものすごく今更だが、変な臭いはしないうえに、呼吸もできるんだな。


 生息できる場所で良かった。



 おや?

 あれは?


 近くに何か落ちているぞ。


 青白い色のカードのようなものだな。


 あれはなんなのだろうか?


 調べてみよう。



 カードを3枚拾った。


 大きさは縦15センチくらい、横8センチくらい、厚さは1ミリくらいだ。


 触るとちょっと冷たいし、結構硬い。

 金属製のようだ。


 なんだこれは?

 なんでこんなところに落ちているんだ?


 おや?

 文字が書いてあるぞ。


 それも、なぜか日本語で表記してある。


 なんでだ?


 まあ、良いか。

 考えても分からないものを、いつまでも気にしていても仕方ないしな。


 とりあえず、読んでみよう。



 カードの1番上には『聖魔龍王院せいまりゅうおういん骸王がいおう』と書いてある。


 わざわざ振り仮名も振ってあるぞ。


 親切だな~。


 それにしても、この言葉って……


 その、なんというか、すさまじく迫力のある漢字が並んでいるなぁ~。


 いずれなかったことにしたい、恥ずかしい過去になってくれそうな言葉だよな。


 もしかして、これはこいつの名前なのか?


 聖魔龍王院・骸王と書かれた場所の、すぐ下には絵が描かれていた。


 腕を枕にして、横向きに寝転がっている人間の全身骨格の絵だ。


 ゲームとかに登場するスケルトンみたいだな。


 それにしても、このポーズって……


 なんだか休日のおっさんみたいだな!


 もちろん、俺のことでもあるぞ!!


 ハハハハハッ、って、自嘲している場合ではないよな。


 まだ何か書いてあるから、読んでみよう。



 さらにその下には、こう記載されていた。


 レベル  …… 悲しさで涙が込み上げてくる。


 強さ   …… こう書くのも申し訳ないが、ものすごく弱い。

 頭脳   …… 悪くないと思う、中の中の上の下って感じ。

 速さ   …… いやあ、とても残念ですねぇ!!

 幸運   …… 普通じゃないの?


 特殊   …… 残念ながらないのです!!


 特記事項 …… おおっと、書くことがありませんよ!!!


 なんだこりゃぁぁぁっ!?


 レベルだの、強さだのと、ゲームのステータスのような印象を受けるが、書いてあることがおかし過ぎるぞ!?


 ここは数字で書くものじゃないのかよっ!?


 これでは分かりづらいだろうが!?


 なんだよ!?

 このレベル『悲しさで涙が込み上げてくる』というのは!?


 なんとなく弱いというのは伝わってくるけど、分かりづら過ぎるぞっ!?



 カードに書いてあるのは、これだけのようだな。


 このカードはなんなんだ!?


 トレーディングカードゲームのカードみたいな見た目だが、いったい何に使うのだろうか?


 そういえば、カードの販売促進用のアニメでは、こういうカードからモンスターが出て来たりするんだよな。


 もしかして、このカードもそうだったりしてな!


 聖魔龍王院・骸王を召喚!!


 と叫んだら、このスケルトンが出て来たりするのか?


 ハハハッ、そんなまさか……


 えっ!?


 な、なんだこれは!?

 カードが青白く光り出したぞ!?


 うわっ、カードが消えた!?


 その代わりに描かれていたスケルトンが出て来たぞ!?


 身長は10センチくらいの、人体模型のミニチュアみたいだ。


 絵と同じポーズで地面に寝転がっている。


 まさか本当に召喚したのか!?


 心の中で『召喚』と思うと召喚できるカードなのか!?


 す、すごいカードだな……



「我を呼んだのは貴様か?」


 聞き覚えのない声が聞こえた。


「えっ!?な、なんだと!?この骨がしゃべったのか!?」


「質問に答えろ」


「ええと、おそらくそうだと思うぞ。召喚したのは俺だろうからな」


「そうか。我は聖魔龍王院・骸王だ!!最強のスケルトンである!!貴様は何者だ?」


 最強?

 ステータスの強さの欄に、まったく違うことが書いてあったのにか?


「あ、ああ、俺は角野かどの当也とうや。サラリーマンをしている。よろしく」


「うむ、よろしく頼む。我のことは骸王と呼べ」


「分かった。俺のことも、好きに呼んでもらって構わないぞ」


「承知した。では、トウヤと呼ばせてもらおう」


 名前で呼ばれるのは、なんだか久しぶりだな。


 社会人になってからは、苗字で呼ばれているからな。


 なんだか若返った気分だな。


「では、骸王。あんたは何者なんだ?カードから出て来たのか?」


「カード?なんのことだ?何者かと聞かれても、我は我だとしか言いようがない」


 何も知らないのか?


 骨に対して使うには妙な表現だが、生まれたばかりだとか?


 よく分からないな。


 まあ、良いか。


 さて、他のカードも見てみようかな。


「むっ!!トウヤ、何か来るぞ!!」


 骸王が突然通路の方を向いて、そう叫んだ。


「えっ!?」


 俺も通路の方を見た。


 その奥から大きなウサギのような生物が向かって来た。


 体高1メートルくらい。

 エメラルドグリーンの体毛をしている。


 目が大きくて、血のように赤い。


 見るからに恐ろしい生物だ。


 あれはまさかダンジョンのモンスターなのか!?


「我に向かって来るとは、良い度胸だ!!良かろう、勝負だ!!」


 骸王がそう言って、ウサギに向かって行った。


 おおっ!!

 頼もしいぞ、骸王!!


 任せたぞ、骸王!!

 がんばってくれ!!



 うげっ!?

 骸王が踏み潰されたぞ!?


 が、骸王さーーーん!?

 返事をしてくれーー!?

 大丈夫なのかーーー!?


 って、マズいことになったぞ!?


 今度はウサギが、俺の方に向かって来やがった!?


 というか、最初から俺の方に向かって来ていたのか!?


 まあ、そんなものはどうでもいいか!


 それよりも、あれをなんとかしなければ!!


 ウサギが体当たりをしてきた!


 俺は横に跳んで、なんとか回避した。


 だが、ウサギはすぐに方向転換して、再び体当たりをしてきた。


 今度は避け切れずに、腹に強烈な一撃をくらってしまった。 


 俺は衝撃で吹っ飛ばされ、壁に激突した。


 ぐああっ!!


 い、痛過ぎる……


 どうやら腰を強く打ってしまったようだ。


 満足に動けない。


 くっ、ウサギがまた来た!?


 まだ攻撃してくるつもりだ!?


 このままでは死ぬ!?

 こいつに殺される!?


 く、来るな!!


 こっちに来るなぁぁぁぁぁ!!!


 自棄になった俺は持っていたカードを投げた。


 なぜかそのカードはとんでもない速さで飛んで行き、ウサギの頭に深々と突き刺さった。


 ウサギはそのまま倒れて動かなくなった。



 ……えっ!?


 い、いったい何が起こったんだ!?

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