俺の部屋がクラスの女子に侵蝕されているんだが〜気弱な美少女にメンタルトレーニングをすることになった〜
神宮瞬
第1章
プロローグ
テーマ「生きていく上で最も大切なものは何だと思いますか」
作文タイトル「言うまでもなく金」
1年B組 大月慶斗
生きていく上で最も大切なものは、言うまでもなく金だ。
地獄の沙汰も金次第と言うように、この世界では金の力は絶対だ。
金さえ有れば手に入らないものはない。土地、知識、労働力、そして権力さえも金で買うことが出来る。選挙でよく政治資金の問題が噴出するように、民主主義とは言っても選挙で当選するかどうかは金次第であると思うからだ。
また、ここでの金は貨幣と資本のことを指す。
そもそも、この世界を急激に発展させてきたのは金の力である。初の近代的株式会社は1602年に設立されたオランダ東インド会社といわれるが、株式会社が誕生して以来、資本家は大規模な資金調達が可能になり……
担任教師のコメント
「勿論お金は大切ですが、お金に縛られた人生というのも虚しくはないでしょうか」
「大月って、結構あれだよね」
「あれって何だよ、あれって。てか勝手に俺の作文を読まないでくれる?」
「床に落としてる方が悪いんじゃないかなぁ」
「それはそうだね。でも、自分の作文を他人に読まれるのって結構恥ずかしいことくらいは想像力を働かして欲しいなぁ」
「大月君にも恥ずかしいことを書いてる自覚があったんだね」
「ねえよ! 俺、そんなに恥ずかしい事を書いてたっけ!?」
高梨ひなのの手から作文を奪う。
俺が高校一年の時に書いた作文だった。いや、まだ俺は高校一年生なんだけど、感覚的にはもう高校二年生なんだという話だ。
正しくいうと新高校ニ年生。今はちょうど春休みで、高一と高二の間の時期。この時期って、他人から自分の学年を聞かれた時に高一と言うか高二と答えるかで迷うよね。で、半分の確率で学年を誤解される。まあ、誤解されて支障があることはほとんど無いのだが。
「普通の作文じゃん」
「尖ってるよね」
「……まあ、少し尖ってるかもしれないな。あの時は少し厨二だったかもしれない」
「え、今は?」
「今は尖ってないですけど?」
俺はこだわりのデスクチェアから立ち上がり、冷蔵庫からお茶を取り出した。
ここは俺の家の、俺の部屋だ。ここで一人暮らしをしている。ここにある家具は全部俺が買ったものだった。家は借りている。
住所は兵庫県神戸市、阪急電鉄神戸線の最寄り駅から徒歩七分の場所にあるマンションの一室だ。
「先生からも、お金に縛られた人生は虚しいって言われてるけど」
「確かに中途半端に高収入だと一番多く税金をとられるからな。でも、めちゃくちゃ稼げば問題ない」
「その発想がお金に縛られてるってことなんじゃないかなぁ」
「なんだと……」
「それに、この作文のテーマは人生の考え方とか幸せについて書くものだと思うよ」
「でも、高梨もお金は好きだろ?」
「嫌いじゃないよ」
「へえー」
「で、大月はさっきから何してるの?」
「読書」
コップに緑茶を注ぎ、高梨が座っている側にある机に持っていく。
俺はソファーの脚に体重を預けて、コップを仰いだ。
ふわふわのカーペットが快感で、足を伸ばしたり畳んだりさせる。
「……いつもビジネス書を読んでるよね」
俺の方に身体を傾けてきた高梨は、俺のタブレットを覗き込んだ。
電子書籍だ。愛用しているうちにタブレットに入っている書籍の数は二百冊を超えている。
電子書籍と紙の本がよく比べられるけど、俺は圧倒的に電子書籍派だ。使う前は、俺も紙の本の方がコレクションとして持ってる気がして良いのではないかと思っていたのだが、電子書籍の方がすぐ買えるし、読み返したいところをスクショしてメモ出来たりと便利だった。
ていうか、高梨さん近い! なんか良い匂いがする気がする。
「金稼ぎも楽じゃないんだ」
「あっそう」
「反応薄!」
俺の趣味は株式投資だ。父の教育方針もあり、小学五年生から投資を始めた。そして、中学を卒業する時には、父から貰った初期資産二百万円を四億円までに増やすことに成功した。
これは俺の実力という訳ではない。運が良かっただけだ。二百万円丸々を使って、父のリストアップした「これから成長しそうなベンチャー企業ランキング」の最下位に載っていた会社の株を買っただけなのだから。
今から考えたら、投資というより投機だな。投棄になってた可能性すらある。
勿論、今はそのような冒険はせず、大部分は投資信託だ。もうそろそろ資産運用の仕方を変えようとは考えているが。
それはともかく。
「……あのー、近いんだけど」
「大月が離れたら良いんじゃないかなぁ」
「いや、今高梨が寄ってきたよね!」
「動きたくなーい」
「おい、ここで寝るなよ」
目を閉じかけている高梨を揺さぶる。
俺の家で寝られたら面倒すぎる。もう午後の五時だし。普段帰ってる時間に近付いてきている。
「寝てないよー」
「目を瞑って言っても説得力ないよ」
「あと五分だけ」
「俺は、朝にお前を起こす母親か」
「大月のけち」
そう言って、高梨は体勢を起こす。手で口元を隠して、可愛い欠伸をした。
高梨ひなの。
同じ学校の同級生で、高一の時のクラスメイト。中でも彼女は委員長をしていた。
黒髪のボブカットで、いつも気怠げで眠そうな感じが特徴だ。特徴がないのが特徴とも思ってる。本人にそんなこと言ったら殺されそうだから言わないけどね。ていうか、よく委員長に成れたよな。
学校にいる時も地味な女の子という感じで、華はない。でも、こうして近くで顔を見ると、顔立ちは結構整ってる。いや、普通に美少女だ。もっと笑う性格だったら、男子からの人気も出そうだった。
高梨は高一の一学期に俺の家に初めて来て、家でゴロゴロ過ごすようになり、頻度も徐々に上がり、今では毎日のように来るようになっていた。まあ、俺の家にはテレビやプレステ、漫画など暇を潰すものはたくさんあるからな。WiFiもあるし。
「そういえば、大月は生徒会とかしないの?」
「しないよ。時間が取られそうじゃん」
「でも、指定校推薦を狙ってるんだよね」
「え? 推薦に生徒会をやらないといけないとかいう条件あんの?」
高校生の一番の関心事といえば、進路だろう。俺はあまり勉強したくないというのと、楽して大学生になりたいという屑なので、指定校推薦を狙っているのだ。
指定校推薦というのは、私立大学の推薦入学において大学が指定する高校に一定の推薦枠を作る制度のことだ。評定とかの条件をクリアし高校から推薦枠に選ばれれば、ほぼ間違いなくその大学に合格する。
自分の通う私立高校は有名私立大学と経営が一緒であり、その大学の指定校推薦があった。
「特に決まった条件はないけど、推薦枠より希望者が多かった時、生徒会をしていた方が選ばれやすいよね」
「なるほど」
「それに、去年と一昨年の生徒会委員長は指定校推薦を使って、大学に入学したらしいよ」
「まじか」
生徒会か。
入りたいと考えたこともなかったから、何をしてるのか分からないんだよな。
まあ、俺は部活もやっていないし、時間はあるんだけど。
「高梨は生徒会をしてたんだよな。大変だった?」
「基本は昼休みに集まるから、そこまで大変じゃなかったよ。学校行事がある時は仕事があるけど、それは生徒皆そうだし」
高梨は委員長だったので、生徒会に入った経験がある。委員長と副委員長は生徒会に入る決まりになっているのだ。クラスから委員長と副委員長、そして別枠の生徒会委員二名で合計四人が生徒会委員になる。
「……生徒会、やるか」
「おおー」
高梨がぱちぱちと非常に軽い拍手をする。
俺はついでに高梨も巻き込むことを決めた。そっちの方が面白そうだ。
「どうせやるからにはクラス委員長やるわ」
「何時になくやる気だね」
「そして、高梨は副委員長をやろう」
「……え?」
「あ、もう帰る時間だ。またな」
「いや、ちょっと待って。嫌だよ! 去年も委員長をしたのに」
「大丈夫大丈夫」
「大丈夫じゃないよ。なんで私が副委員長をする必要があるの?」
「俺が委員長になって、副委員長が知らない人だったら嫌じゃん。高梨、お願い」
「イヤ」
「お願い」
「イヤ」
「ケーキ買ってやるから」
「……ゲーム」
「分かった。お前のゲームに付き合ってやるよ」
「……漫画」
「買う買う」
「……」
「ということで、副委員長よろしくな」
間髪開けず、俺は言う。あまり時間を高梨に与えると際限なくおねだりされそうだった。
「……はあ。大月が委員長になれたらの話だからね」
「ははは、そうだな」
そりゃそうだ。俺が委員長に必ずしもなれる訳ではない。
対立候補がいれば、自己アピールからの投票で選ばれることになるだろう。
だが。
「どんな手を使ってでも委員長になるよ」
俺はこういうのに負けず嫌いなんだよね。
だって、立候補して負けたら恥ずかしいじゃん。
俺は二年生も高梨と同じクラスになることを前提に話していたことに、後で気付くのであった。
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1章が終わるまで、毎日投稿する予定です。
よろしくお願いします。
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