悪役令嬢ランナウェイ その1

 突然現れた少女に向けられているものは、悪意なんかではない……明確な敵意。貴族子息でもある騎士団員を二人も殴り飛ばした。極刑は免れない。そもそも、貴族云々の手前に、誰であろうともいきなり殴られたのなら、敵とみなされて当然。

 広場は騒然としていたけれど、そんなことはどうでもよかった。

 視線はただただ一点に。顔は見えなくったって、シルエットと声。その二つがあれば十二分。


「なず、先輩……?」


 思考回路が起動するよりも前に、喉が一人でに動き出していた。刃を掲げていた少女はピクリ、肩を跳ねてから、ゆっくり振り返った。


「えっ、もしかして、芹……?」


 芹。瞬間、頭の中を埋め尽くしていたモヤモヤ。それら全部全部が吹き飛んで、皴一つ、染み一つついていないまっさらな自分の心が戻ってくる。遠く遠く、果てまで見渡すことができた。


「なず先輩!!」


 そう、芹。私の名前は、葛代芹。

 全てがカッチリとハマり、バラバラだったピースが一つとなる。頭の中、鍵の掛かっていた記憶の箱が全て開く。別れる寸前までなず先輩と一緒に居たことや、ナニカが迫ってくるのが一瞬だけ見えたことを。

 環境も、記憶も。全てに突き放されていた孤独感の中で現れたなず先輩。

 救いとしてこれ以上のモノは無い。勢いで抱きついた。全身は謎装備のお陰で、ゴツゴツしていたけれど、匂いだけは確かに、なず先輩の良い匂いがした。


「勢いで手を出しちゃったけれど、結果オーライってことね」


 刃を掲げた逆の手で、優しく抱き寄せてくれるなず先輩。ずっと、この腕の中、包まれていたかった。前が見えなかった不安も、責められ裁かれる恐怖も、瞬く間に溶解していく。


「芹、帰ろっか」


 そう。なず先輩と帰っている途中だった。

 帰る途中で楽しかったことを思い出すつもりだった。

 お風呂に入りながら憧れの先輩とお茶をしたことにジタバタと身もだえる予定だった。

 また逢えるのを楽しみにしてお布団でぐっすりと眠るはずだった。

 そうやって、少しだけ変わり始めた毎日を、一緒に歩いて行きたいと心が教えてくれた。

 そのためには、ここじゃ、ダメなんだ。今度こそ、きちんと帰らないと。既に、頭と心の中はなず先輩一色。とはいえ、夢から醒めるように状況が変わったわけでは無い。周りの貴族達は今尚存在して、芹たちを怪訝に見つめていた。棘のような全身を刺す視線。でも、全然、怖くない。


「貴様が悪魔なのか、それ以外の何者なのかは知らんが貴族に対しての暴力……何より、俺の部下を傷付けてタダで帰れると思うなよ」

「殺してないから、感謝して欲しい位なんだけど」


 なず先輩の気のない返答に、空気が揺らめくような怒気が。ノールドア副団長が腰の剣を抜き放ち、切っ先を向ける。揺れ一つ、ブレ一つ、存在しない。百のテキストで表現されるよりも、ただ武器を構えている姿一つ見ただけで、手練れだと伝わってくるのだから本物は凄まじい。

 対するなず先輩は至って自然体。焦っても居ない様子に安心感を抱くと同時、なず先輩は一体全体、何者なんだろう、と疑問が追いついてきた。多分、心に余裕が出来たから。

 一触即発、今にも、弾けそうな空気。


「ノール、剣を引いてくれ」

「クレィス!? だが……!!」

「そうして貰えるとありがたいわね。赤子の手を捻って喜ぶような悪趣味は持ち合わせてないから」

「貴様ッ」

「ノール!!」


 踏み出そうとしたノールドアを手で遮って抑えるクレィス王子。流れるようななず先輩の挑発には、流石に眉を顰めていたけれど。それから、なず先輩の変わりっぷりが凄い。堂々としているというか、し過ぎているというか。

 あわや、血で血を洗うデスマッチが開催……という事態はクレィス王子のお陰で避けられはした。だが、芹たちの状況は非常によろしくない。騎士団員二人が錐揉み回転しながら花壇へとダイブし、更には王子達にまで武器を向けていることから、周りを取り囲む貴族が騎士団に所属していたり、杖や剣を持っている武闘派ばかりになっている。

 王子は毅然とした態度を崩さず、一歩踏み出した。


「もう一度問う、キミは何者だ?」


 言葉は重たかった。ただの、思い込みと言われたらそれまでだけれど、上に立つモノとしての芯からの声は、聞くだけで背筋が伸びる……ただ一人を除いて。


「早く家に帰りたいだけの人間よ」


 面倒くさそうに答えるなず先輩。王子に対して不躾すぎる物言い。

 この国の法に則れば不敬罪か何かで厳罰に処される行い。事実、周りのなず先輩に向ける色合いは、徐々に変わり始めている。困惑から、敵意へと。


「あくまで、悪魔ではない、と」

「悪魔だけに、って」


 なず先輩が再び戯ける。同時、身を焼く熱量が一気に跳ね上がった。


「ふざけるのも大概にしろッ!!」


 視界の端、一人の貴族の周りで空気が渦巻き、光の粒子が漏れ出た。

 瞬間。

 炸裂音。鼓膜を殴る。怒号も、熱量も、全てを真っ平らに均して。


「次は頭を脳漿にぶちまけるわよ」

「ガッ、アアア!?」

「何を言ったところで、連行するのが関の山。難癖つけて処刑か、穏便に済ますにしてもタダではないんでしょ? 話をする気が無いって滲み出てるのよ」


 貴族が使おうとしていた魔法が発動するよりも早く駆け抜けた衝撃は……その貴族の右耳たぶを引きちぎって、抜けていった。

 いつの間にか鋸剣から、小さい方の銃へ持ち替えたなず先輩の低い声が絶叫と一緒に、場を支配。怒声も敵意も殺意も。蒼天を突き抜けた銃声が、踏み荒らしていた。


「今度は聞こえるように言ってあげるから、よーく聞きなさい」


 小機関銃で肩をトントンと叩くのがやたらと様になっている。この世界には存在しない武器に誰もが警戒を顕わにしている。剣と魔法のファンタジーな世界にやたらと物々しい重火器を引っ提げて割り込んできたなず先輩。シンデレラという童話に、F1カーが出てくるかのように場違い。


「あなたたちを相手にしているほど、暇じゃないの」

「ひゃっ……!!」


 グイッとなず先輩に、更に強く抱き寄せられた。


「だから、私達の事は放っておいて何も無かったことにしてくれない? こっちからは手を出さないから」


 不遜な物言い。けれど、場のイニシアチブは、誰も理解できない力を振りかざしているなず先輩が殆ど握っていた。それでも、王子達だけは揺らいでいない。


「そんな道理が通ると思うのかい?」

「あなたたちの道理は私の道理じゃ無い」


 交渉決裂以前の問題。話し合いという土俵に立つつもりがない……主に、なず先輩が。


「よいしょ、と」

「な、なななな……!!」


 突然、ふわり、と身体が浮いた。地から離れた脚、傾く身体……なにより、なず先輩のツインテールが揺れた時に発生する芳香が鼻腔をくすぐるような近さ。

 俗に言う、お姫様抱っこをされて、思考回路が黄色信号。あわあわと、声にならない声。更には、ゆっくり近づいてくる整った顔立ち。染み一つ無い肌。長い睫毛。深い色をした瞳……そして、薄桃色の唇。フェイスシールドはしているけれど、芹には関係ない。なず先輩の顔は網膜に焼き付いていたから。

 もしかしたらに身を備え、なず先輩に身体を委ねた。


「芹、思いっきり目を瞑って、私に顔を埋めて。それから、口を開けながら両手で耳を塞いで。おっきな音が聞こえたら今度は、口を思い切り閉じるの、いい?」


 委ねたのも束の間、やってきたのは柔らかな接触では無くて、切羽詰まったような囁き声。面食らったモノで、閉じた瞼を開く、多分、目が合った。

 付き合いは短い……でも、何も言わずに従って欲しい、と、抱き寄せてくれている腕の機微一つ一つから伝わってくる。こくりと頷いて、言われたとおりに。

 すぐに、囁き声の『ありがとう』が、芹を撫でてくれた。


「それじゃ、ごきげんようっと」

「……逃がすか!!」


 手で塞いでいても怒号はお腹にまで届いてきた。けれどほぼ同時に、それら全部が塗りつぶされた。全部が全部、爆裂音に。

 先ほどの銃声なんて比べものにならない。耳を塞いでも尚、鼓膜を貫通。耳奥が痛くなる轟音。今も鼓膜の中、頭の中、何度も何度も反響。中耳も内耳も、悲鳴を上げている。


「よっ、と」

「ひっ!?」


 グンッ、と身体に掛かるGが加速度的に増して身体が持って行かれそうになる。全身に叩きつけられる空気。ジェットコースターに乗っているかのような風圧と重力。瞼を開いて状況を確かめたい気持ちに駆られるが、なず先輩に言いつけられた言葉を覚えていたから……ギュッと、目を瞑って、ゴテゴテしたなず先輩に思い切り身体を寄せ続けた。

 右へ、左へ。上へ、下へ。

 何度も緩急をつけて身体に掛かる重力が加速しては傾く。二本の腕という安全ベルトは頼りなくか細いように見えていたけれど、小揺るぎもしない。

 徐々に戻っていく聴力。耳を塞いでいても風を切る音。揺れる身体。時折顔に触れる、なず先輩の髪の柔らかさが心を落ち着かせた。


 一体、どれくらいそうしていただろうか。いつの間にか揺れも、耳の痛みも治まっていた。もういいのだろうか。ギブアップ寸前の三半規管に鞭を打ち、そろりそろりと、耳を塞いでいた手を外す。


「芹、もう大丈夫」


 何がどうなったのかは全く、これっぽっちも分からない。でも、芹の心は現金なモノで声が聞けただけで心は凪いでいく。自分自身の単純さに感謝。

 瞼を開いて、顔を上げる。凜とした鳥居菜沙先輩。

 同時、フェイスシールドがひとりでに外れ、勝手に収納されていた。と、なると目の前には生のなず先輩が居るわけで。


「か、か、かか、ぉ……ッ」

「カカオ……?」


 あまりの近さに、頭が沸騰しそうになっている芹とは正反対、なず先輩は至って落ち着いていた。


「下ろすから、気をつけてね」


 何を言えばいいのか迷っていると、抱きかかえられていた身体が離されていく。少名残惜しさを感じながら、地に足をつけて二本の足で立とうとした……のだけれど。


「わっ……!?」

「だから、言ったでしょう」


 ぐらり、転びそうになる身体。支えてくれたのはやっぱり、なず先輩。地面に足を着いているはずなのに、ぐらぐら、揺れて、真っ直ぐ立てない。目を閉じていたけれど、三半規管はキッチリ、ダメージを受けていた。

 なんとか、自分自身の足で立てるようになって周りを見渡す。薄汚れた石畳に、転がる木箱……それから、周りは石造りの建物の袋小路。


「ここ、は?」

「さぁ……? とりあえず、街っぽいところの人通りが少ないところまで走ってきたけど、どこなんだか」

「あんなに、囲まれてたのに逃げられたんですね……」


 もっと、聞きたいことはあるはずなのに、ドッと、身体から緊張感が抜けて頭が休憩モードに。なず先輩が転がっている木箱二つを乱雑に置いて、その片方に腰掛けた。真似をするように、芹もまた腰を下ろす。


「ちょっとしたフラッシュバンを炊いて、その隙にね」

「ふらっしゅ、ばん……?」


 聞き慣れない単語。心と直感は、目の前に居るのが間違いなくなず先輩だと答えを出しているけれど、頭の理性が本当にそうだろうかと疑問符を提示。少なくとも、芹の記憶にあるなず先輩は、確かに腕っ節は強いけれど、こんな傭兵だとか特殊部隊だとかに入っていそうな格好はしていない。ちょっと変わり者の女子高生なだけ。


「それよりも、もう一度だけ確認するわよ。あなた、本当に芹なの?」


 芹がそれを確認するよりも先に、同じような疑問が飛んできた。


「そう、ですけど」

「……じゃあ、一つ質問」


 なず先輩は唇に人差し指を当てて、瞼を閉じる。数秒間、沈黙が二人の間を歩く。遠くから聞こえてくる喧噪の欠片が、確かに此処が街の片隅であることを教えてくれる。


「私の髪型、似合ってる?」

「そりゃもうっ!! だって、なず先輩のツインテ、むぐっ」


 脊髄からの即答。如何に、なず先輩が理想のツインテールをしているのかを説こうと思った瞬間、片手で両頬を挟まれて間抜けに唇が歪む。ひょっとこみたいな口になっていることだろう。


「間違いなく芹ね」

「なふへんはいほふひんへーふはへふね」

「この状態でも続けるの……」


 どんだけツインテールが好きなのだと呆れられるけれど、このリビドーは止められない。止めてはいけない。


「あいたっ!?」


 その素晴らしさを熱弁しようとした矢先に、おでこを駆け抜けた衝撃。ただのデコピンの筈なのに、首が持って行かれそうになる。


「後で聞いてあげるから、一先ず、帰るわよ」

「帰る?」


 一体どこへ。なんて言葉は出てくる前に引っ込んだ。轢かれる前の記憶では、一緒に帰っている途中だったから。なず先輩は腰背部から、リモコンサイズの小箱を幾つか取り出した。

 一々疑問を憶えるのにも疲れてきたものだから、黙って、見つめていた。何らかの操作をしてから、それらを適当に地面へと転がす。

 シュウシュウ、とタイヤから空気が漏れるような音が、転がった小箱から聞こえてくる。


「こんなものね」


 今度は、背中から鋸剣を引き抜く。更には、刀身が青白い光を走らせると同時、モーター音が響く。左足を前、右足を後ろ。半身になるとそのまま流れるように手に持った刃を水平倒しながら、持ち手を顔の右側面に。近寄ったが最後、鋭い一突きの元、葬られることだろう。


「おぉ、侍、みたい」

「見た目はSFだけど、ねッ」


 残像すら見えないほど、鋭い突きが中空に向かって放たれ、金属音とともに、突き刺さった。何もない、空間に。


「な、なして……!?」


 異世界に来てたった一晩でも驚くことは山ほど有ったものの……一番のビックリドッキリ玉手箱がこの世界の住人では無いなず先輩だなんて誰が予想できただろうか。そもそも、どうやってココに居るのかも分からない。

 ギャリギャリギャリ。グラインダーで鉄を削るような高音が耳を劈く。青白い色の火花が飛び散っていて目が焼けるように眩しい。町工場の中にでも踏み入れたかのよう。

 どれくらい高音が鳴り響いただろうか、途端にその音が止んだ。後を追うように、ぼんやりと光を走らせていた刃からも輝きが失せる。


「ダメか……あと一歩足りない……?」


 大きな大きな溜め息とともに、木箱に座り直した。がっくり、肩の力が抜けたように。

 なず先輩が何をしているかは分からない。ただ、帰ろうとしたけれど上手くいかなかったことだけは伝わってきた……その時。


『人を起こすのならもう少しマシな目覚ましを用意した方がよろしくてよ』

「えっ?」


 誰かの声が聞こえてきた。それも、凄く凄く、近くから。


「だ、誰!?」


 耳元で囁かれる……それよりも、もっと近い。まるで、内側から声がしたみたいに。骨伝導イヤホンをつけた時みたいに。

 意識した瞬間、後ろから思い切り、引っ張られみたい。


「中から時折見えていましたが……なるほど。何も分からないことが、よく分かりましたわ」

『ちょっ、これ、どういうこと!?』


 ぐいっと、尋常じゃない力で襟首を掴まれたような感覚に襲われたにも関わらず、景色は変わっていない。けれど、喉から紡がれる言葉は芹が発話している内容では無い。その上、手も足も、声を出すのも自分の意識で出来ないのが気持ち悪くて、必死にもがいてもがいて……何かを掴んで、割り込んだ。


「あ、あなた誰っ。っていうか、身体を勝手にっ……!?」


 再び、自分の意志で声帯が動く、手をブンブンと振り回し、纏わり付く……いや、内側に巣くう誰かを追い払おうと暴れる……が、再びソレが力尽くで主導権を奪うモノだから、ピタリ、身体の動きが止まる。


「わたくしの身体を勝手に……とは大きく出ましたわね? 盗人猛々しいという慣用句はこういう風に使うのですわね。知らない言葉を教えてくれるだけではなく、使い方までレクチャーしてくださるなんてとても親切なこそ泥ですこと」


 随分偉そうな物言い。突然出てきたクセにほんっとに偉そう。何より、自分の身体の筈なのに、自分の意志で動かせないのが気持ち悪くて腹が立つ。


「いきなり出てきてチクチクチク……偉そうに言わないでよっ!!」

「偉そうではなくて、偉いのですわ。そんなことも知らないのかしら……一体、どんな田舎から来たことやら」

「自分が誰かも名乗らないのに知らないのかって、分かるわけないでしょっ。相手に察して貰わないと自己紹介も出来ない方が、よっぽど捻くれた育ったんだなって思うけど!!」

「はぁ!? 育ちに関しては、誰一人にさえ文句をつけさせませんわよ!? お望みとあれば、音楽、炊事、魔法、美術、武芸、なんでも披露しますわよっ」

「出来ることが多いことと、真っ直ぐ育ってることは論点が違いますぅー。論点のすり替えをやめて……魔法? 魔法って言った?」

「えぇ、言いましたわ。魔法が扱えると言いました。よろしければもう一度言って差し上げましょうか?」

「……いちいち嫌みったらしいなぁ」


 引っ切りなしに、主導権がグルグルと入れ替わる。まるで、一操作、一ボタン押す毎に、コントローラーを奪い合っているような。偉そうな物言い、圧倒的な上から目線、悪びれる様子もゼロ……清々しい前での嫌なヤツ。だけれど、一つの言葉が引っかかり……次には『私の身体』と、言っていたことが合わさり……ドラムロールが頭で鳴り響いた末。

 答えが出た。


「もしかして、あなた……カトレア?」

「ハァ……ようやく気付きましたのね」


 自分の口が交互に動いて、会話が成立。全く同じ声の筈なのに、主導権が変わると声色まで変わったように聞こえるのだから、不思議。


「……っていうか、なんで、カトレアの意識が戻ってるの!?」

「わたくしだって知りませんわよ、そんなこと」


 互いが互いのことを認識しているけれど……全く以て、理解できていない状況。同じ身体に二つの意識。二重人格的なこの状況は、嘘から出た実。それ以外の何ものでも無かった。

 身体を共有しているからか、なんとなく互いの意識も流れ込んでくる。一体全体、分からない状況を理解するため……同時、振り向いた。身体は一つだけれど。


「……あー」


 木箱に座っていたなず先輩は、額に手を当てて、天を仰いでいた。

 アテレコをするとしたら『あちゃー』とか『めんどくさ』とか。そういう感じだと思う。

 再び、大きな溜め息を吐くなず先輩は、力なく、片手を上げた。


「状況を整理する、に一票」


 その言葉に、すぐに、追加で二票。満場一致だった。

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