第32話 ティラちゃんは男慣れしてません!
私は賢者の集いのパーティーメンバーの、ティラ。
色々あって、私のせいでロンベルトさんと一緒に迷宮の地下に落っこちてしまいました。そしてまたもや色々あって今、私はロンベルトさんと一緒にスライムを倒すために移動中です。
移動中なんですが……
「あの……私もなにか手伝います」
ロンベルトさんが私たちに向かってくる魔物を倒しています。ロンベルトさんは、ずっと息切れをしているのでもう体力が少そう……。
私は小さいので、何もできないように見えますが一応魔法大学で主席です! とのことをロンベルトさんに一度伝えたのですが、何もしなくていいと言われました。
ここに落ちてきたのは私の責任。
なのに、なにもしないでただ守られているだけというのは納得できません!!
「いや、大丈夫……。ティラは何もしなくていいよ?」
またこの言葉。
体力がなくて笑顔がもう、ぎこちないことをわかっているんでしょうか? そんな笑顔では一切、説得力がないです。
「ティラ!」
「きゃ!?」
私の体は急に、後ろから抱きしめられました!
不意打ちだったので変な声を出してしまいました……。恥ずかしいッ!!
「抱きついてごめん……。だけどもう少しだけ我慢してほしい」
「わ、わかりました……」
私は耳元で話される、吐息混じりの声を聞いて体に力が入らなくなった。
初めてこんな近くで男の人の声聞いたな……。って、今まで魔法ばっかりで男っ気がなかったからってなんで浮かれてるんだ!! しっかりしろ私!!
「
黒く小さな球体を操って、魔物のことを一撃で倒しているところを見てかっこいい〜!! などと思ってしまった。
だめだ私……。これまで、男の人と二人っきりにもなったことないからこんな状況でも浮かれちゃう……。
「ごめん終わったよ?」
ロンベルトさんはそう言って私の体から腕を離した。
もうちょっと抱きついてほしかった! と思っていたんだけど、そんな気持ち頭の隅においやる。なぜならそんなことよりも、今ロンベルトさんが言った言葉に気になることがあったから。
「わ、私のことを助けてくださっているのに謝らないでください」
おかしい。謝るべきなのはこんな場所に、落っことしてしまった私なのに。ロンベルトさんはなんにも悪いことをしていない。
「えっと……ティラが嫌ならそうするけど……」
「嫌です!」
「……わかったよ」
ロンベルトさんは私の言葉に、渋々納得してくれた。
とか思ってたとき。
奥になにか見えた気がした。私は、目を凝らしてそのなにかを目視しようとする。
「う〜ん……」
ここは、ロンベルトさんがもっている電灯だけで明かりが少ない。なので、どれだけ目を凝らしても奥にいる黒くて近づいてきているのは何なのかわからない。
うん。多分ロンベルトさんは、後ろだからなにかが近づいてきているなんて気づけていないよね。そう思った私は、服の下に隠してあった杖を取り出す。
なんか、何も知らないロンベルトさんからしたらただただ下着を晒した変質者に見える気がするな……。
いや、今はそんなことどうでもいいか。
「
「へっ!?」
私が放った魔法で、奥にあった黒いのはなくなった。これで一件落着……なのだが、ロンベルトさんが私から距離を取って様子をうかがっている。
あっ……これ完全に誤解されているな……。
「う、後ろに魔物がいたので倒しておきました!」
私は両手をわしゃわしゃと慌てて動かしながら、弁明する。もしこんなことで、誤解されたら嫌だ!
「あ? あぁ。そういうことが良かった……」
ロンベルトさんは「ふぅ〜……」と肩をおろしながら私のもとに戻ってきた。
「何が良かったんですか?」
「いや、もしかして勝手に抱きついた俺のことを殺そうとして
ロンベルトさんは、両腕で自分の体を抱きしめながら顔を真っ青にしながら言ってきた。それも、どこか私が怒っているのか伺いながら。
「そ、そんなことロンベルトさんに向かってしません!!」
ひどい!
一体ロンベルトさんは私のことをどう思っているの!
「いやぁ〜……。1回してきたからそうとは限らないぞ……?」
「あれはスライムのことを倒そうとして打ったんです!! ロンベルトさんに向かって放ったものじゃないです!! あと、私はそんな非道な人間ではないです!!」
「そ、そうだよね……」
ロンベルトさんは、完全に私の言葉に押されて納得した。
……私は、こんな状況なのにロンベルトさんに怒鳴ったりして一体何をしているだ。
我に返ると、魔法は並大抵の人たちより上なのだが、自分の心の未熟さが浮き彫りになっているのを実感する。
「――すいません。ここに落ちてきたのは全部、私のせいなのに……」
「あんまり自分のことを責めなくていいよ……。何度目かわからないけど、ティラは俺のことを助けようとして
「はい……そうです」
こうやって言い詰められるように聞かれると、昔親に説教されていたのを思い出す……。まぁ、もう親なんてとっくの昔に死んでるんだけど。
親が死んでから私の周りの人たちは見向きもしなかった。無関心なんだ。ある意味、誰かに叱られるっていうのは周りの人たちに恵まれているかもしれない。そういうのは、失ってからしか気づけないのがまた世知がない。
「なら、そんなに引きずらないでくれ。俺はもしティラに助けられていなかったら今頃、死んでいたかもしれないんだ」
ロンベルトさんは、私の目線に合わせてしゃがみこんで言ってきた。目と目が合って、ちょっと気恥ずかしい。
「ロンベルトさんは強いので、スライムから逃げるのに私みたいなバカの手助けなんて必要なかったんですよね?」
「いやいや……。あのとき、俺はもうスライムのことを圧倒するようなスキルを使う体力が残っていなくて唯一助けてくれたのがティラ。君だけだよ」
「ロットだって助けようとしていたじゃないですか……」
「でも、スライムから助けてくれなかった。なんか、弾かれてたじゃないか」
「そう……ですけど……」
ロンベルトさんが言っている通り、私があのとき我武者羅にスライムに向かって
あぁ〜!! もうわかんない!!
私の脳内が毛糸のようにこんがらがっていたとき、ロンベルトさんの目線が少しだけ外れた気がした。
いや、少し目が合わなかっただけでなに気にしてるの私……。
「
ロンベルトさんはそう呟いたらまた目線が戻ってきた。どうやら、スキルを打つために相手のいる場所を確認したようだ。
「――カチッ」
魔石が地下に落ちた音が聞こえる。そしてそれと同時に、
「はぁ……はぁ……」
ロンベルトさんの乱れている息が聞こえてきた。
これは別に、ロンベルトさんが興奮しているわけじゃないと思う。さっき、スライムに掴まれていたときに体力がなかったと言っていた。ということは、今もギリギリの状態で戦ってくれているってこと。
「大丈夫ですか?」
なんでこの人は、こんなに必死になっているんだ?
なんでこの人は、私に戦ってほしくないんだ?
私はそんなことを疑問に思いながら声をかけた。
「さすがにこのままだと、体力がもたないな……。ティラ」
「はいっ!」
私は、急にロンベルトさんから耳元で名前を呼ばれて反射的に裏声で返事をしてしまった。
変なふうに思われていなければいいんだけど……。
「あんなこと言った手前言いづらいけど、一緒に戦ってくれないか?」
それって、文字通り一緒に戦うってことであってるよね……?
なんだ、そんなことなら……。
「喜んで!」
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