第22話 とある馬車での不穏すぎる会話
私は獣人の族長であり、シアとミラという可愛い二人娘の父。シミアというものだ。
奴隷となっていた我々獣人20人は、助けられ牢屋から出てさらにお金を頂いたのだが……。
「こんなの、あんまりだ……」
馬車で移動中。
隣りに、下を向いて座っている男。私と、幼少期から一緒にいるヨラッヅがそう呟いた。
ヨラッヅが言いたいことも理解できる。
だって我々はなんの見返りも求められず、助けられさらに200万リースもの大金を受け取り故郷に帰ろうとしているんだから。
我々、獣人は恩を返さないと気がすまないんだ。
「でも、これが助けられた我々のすべきことなんじゃないか?」
「いいや。俺はこのまま何もしないで帰れねぇ……。ロンベルト様は俺たちの救世主様だ。なぁ、みんなもそうだろ!」
ヨラッヅは立ち上がって、その場にいる同胞に問いかけた。
「あぁ……救世主様だ」
「私の子供も一緒に助けてもらったのに、なんのお礼もできていないの……」
同胞はみんな、力が抜けた声を出して言った。
「な? シミア。決断するできときだぞ?」
「うぅ〜ん。そう言ってもな……」
こいつらの訴えはよく理解できる。
正直我々は、生きることを諦めていた。
首に分厚い輪っかをつけられ、牢屋の中に閉じ込められたときから。我々獣人は奴隷となってしまったらもう、死んだも同然なのだ。
「頼むよ」
「命を助けてもらったのにお礼ができないなんてあんまりよ……」
同胞はみんな私の許可を求めてくる。
私は族長。ここにいる獣人がすることは全て私の許可がいる。
くそ。こういう訴えかけてくる目には弱いんだ……。
「よし、わかった」
「お! 行き先変更か?」
ヨラッヅは顔を明るくして嬉しそうに聞いてきた。
まったく、こいつってやつは。私が同胞の訴えかけてくる目に弱いことを知っていて利用したな……?
「あぁ、変更する。だが後ろには戻らない」
「な、なぜだ!? それでどうやってお礼をすることができるんだ!?」
ヨラッヅは私の言葉が予想外だったのか、腰を抜かしてものすごく慌てた。
いや別に、利用されいいように話が持っていかれそうになったから意地悪をしたわけではない。ちゃんと考えがあってのことだ。まぁ、少しくらいは意地悪をしたかったという気持ちがあったかもしれないが。
「焦るな。お礼といっても色々なものがある。たとえば直接言葉でいったり、間接的にお礼をするとか」
「間接的??」
ヨラッヅは、俺が聞き返してほしいところを的確に聞き返してくれた。
こいつはたまに私を説得させようと同胞のことを利用してくる。だけど、流れを考える速度は一級品だな。
正直、同胞たちは混乱しているがヨラッヅがいると助かる。あとで個人的になんかごちそうでもしてあげようかな。
「そうだ。直接、言葉で伝えるよりかはスピードの面では遅れてしまうかもしれないが、間接的のほうが喜んでもらえると思う」
「おお。そりゃあいいな。で、どうやって間接的にお礼するんだ?」
ヨラッヅは、私の言っていることをすぐ理解したのか聞き返してきた。
「そうだな……」
間接的……間接的……。
我々がロンベルト様に助けられたところを絵本にして、世界に売るとかどうだろう? 実際、ロンベルト様が知るのはある程度世界に認知された頃。
その頃には、ロンベルト様の評価がうなぎのぼりになるから丁度いいアクセントになると思う。うん。突発的に考えたことだけど結構いけそうだな。
「ロンベルト様が我々のことを助けてくれたように、優しい心の持ち主だということをこの世界の住民に布教するなんてどうかしら?」
「布教? それだと、新しい宗教を作るように聞こえるんだが?」
うぅ〜ん……。本を作ることとにているようにも思えるんだけどそれはちょっとやりすぎな気がする。もしロンベルト様のことを布教する宗教が事件を起こしたら、ロンベルト様のせいにされそうだ。
そうなったら恩を仇で返す形になってしまう。
「シミア。俺もその意見に賛同する」
「ヨラッヅ……」
ヨラッヅは人差し指で前髪をいじりながら言ってきた。これは、よく見る楽しくなりそうだとワクワクするときの仕草だ。
「だってよく考えてみろ。あの方は、我々のことをいともたやすく暗い鉄格子の中から救ってくださった救世主様なんだぞ? そんな偉大な方の優しさや強さを伝えないで、なぜ我々が救われたんだッ!」
「そうだ!」
「族長! 決断を!」
同胞たちはヨラッヅの言葉に同調した。そして同胞たちは俺の目の前で、口から発せられる「よし」という言葉を待っていた。
もうこうなったら止めることができなさそうだな。ヨラッヅにまんまと乗せられた気がするけどまぁいい。
それよりも、間接的なお礼が宗教か……。なんか大変なことになりそうだけど、気おつければなんの問題もないだろう。
「……よし。じゃあ作るか。ロンベルト様のことを神とした新しい宗教を」
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