第5話 売却店

  

「おう! あんちゃん! 今日も薬草取り上手くいったか? って、おいおいおい! なんだよその汚れた服! 何かあったのか!?」


 門番のおっちゃんは俺の服装を見て、目をまん丸くして聞いてきた。


 ははは……。心配してもらえるのは嬉しいんだけど、なんで俺が毎日薬草採取してるのがバレてるんだ?


「いや、ちょっと冒険しただけさ」


 俺はそう言って、門をくぐってたいった。

 やべ……。ちょっと気取り過ぎた気がする。だって後ろから異常なほどの視線を感じるんだもん。

 

 絶対、振り返らない。

 だって振り返ったら超恥かしいじゃん。



  *



「――コンコン」


 俺は路地裏にある、古びれた木でできている扉にノックをした。


 ここは俺が毎日通っている売却店。主に冒険者たちの戦利品を買ってくれる場所。なんで俺がこんな、目立たなくて怪しそうな路地裏にある売却店に通っているのかというと、たまたま最初にフラっと立ち寄った場所がここだったっていうだけ。


「冒険者は?」

「愚者」


「カリミシアの森は?」

「幻想」


「夢は?」

「真実」


 ちなみにこれは、この売却店に入る前にする合言葉。最初来たとき、合言葉を言わずに勝手に入ったらこてんぱんにされたのはいい思い出だ。


「お? ロンベルトか。ちょっとまて」


「ん?」


「お前さん、そんな汚れた服で入って来るのは勘弁してくれよ……。今、代わりの服をもってくる。いいかそこから一ミリも動くなよ?」


 売却店の店主であるおじちゃんは、足早に後ろに下がっていった。


 それから店主のおじちゃんに貸してもらった服に着替えた俺は、売却するときに座る椅子に座った。それに合わせておじちゃんも対面に座った。


「で、今日お前さんが売ってくれるのはなんだ? まさかまた薬草じゃないだろうね?」


「今日は違う。まず、これを見てくれないか?」


 俺はそう言ってバックから魔石を取り出した。

 そして、テーブルに置くとおじちゃんは楽しそうに

「ほほう……」と見た。

 いつも疑問なんだけどこのおじちゃん、俺が持ってきたものを見ただけでなんなのかわかるんだよな……。一切、見分けがつかない薬草だってすぐなにかわかるし。

 

 このおじちゃんは、そういうたぐいのスキルを持っているのだろうか?


「これ、ドラゴンの魔石だな……。お前さんが倒したのか?」


「あぁ……。まぁね」


 俺は反応に困った。

 だって、ここで声を大にして「倒した!」なんて言ったら変人みたいに聞こえちゃうと思う。いや、思うというよりかはもし俺がおじちゃんの立場だったらそう思う。


「1000万リースだ」


 おじちゃんは机の下から、魔石と同じくらいのどっさりとした袋をおいてきた。


「え!?」


 1000万リース!? 今、おじちゃんはそう言ったよな……。俺の一日の生活費が1000リースだから……1000万リースってやばくない!? そんなにもらえるの!?!?


「さすがにこれ以上はあげられん!」


「なんでこんなにもらえるんですか?」


 俺はついつい聞いた。

 するとおじちゃんは呆れたような顔をして、


「そりぁお前……こんなにきれいなドラゴンの魔石なんて早々手に入るもんじゃねぇ。俺でも30年商売をしてて初めて見たぐらいだ」


 と言ってきた。

 へ、へぇ〜……。ドラゴンの魔石ってそんなに貴重なのか……。俺、そんなものをなんの個装もしないでそのまま薄汚れたバックの中に入れてたのか〜……。

 

 バカか俺!!

 ちゃんと保管してたらもっと買取価格が高くなってたかもしれないのに……。


「ほけぇ〜……」


「まさかお前さん、これの価値を知らなかったのか!?」


 おじちゃんは「バンッ!」と勢いよく椅子から立ち上がって言ってきた。


 もうなんなんだ?

 急に興奮しちゃって……。まぁ、30年商売しててドラゴンの魔石を見たから嬉しいのはわかるんだけどさ……。


「ん? まぁ、初めて魔石を売ったものなんで……。相場なんて何も知らないんですよ」


「初めての討伐でドラゴンの魔石って……。いや詮索するのはよそう。俺とお前は買い手と売りてだからな」


「そうですよね……。では、俺はそろそろ行きます」


「また来いよ!」


 俺はその言葉を聞いて、自分が誰かに必要とされていることに少し嬉しくなりながら扉を締めた。


  

  *



「いやぁ〜すげぇな」

   

 俺は改めて、もらった1000万リースが入っている袋の中を覗き込む。すると、太陽の光で反射している黄金に輝くコインが……。


 ウヒヒヒ……。

 こんなに金があるんなら何でもできるな……。


 俺はこの1000万リースで何をしようかと悩んでいると、


「は、離してくださいッ!!」


 突然奥の方から女の子の声が聞こえてきた。

 

「女の子の……悲鳴!?」


 俺は、男としてするべきことをするために声がした方に走っていった。

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