腹ペコエルフの美食道-リルとルラの秘密-

さいとう みさき

第1話:食材確保ぉー!


 「お姉ちゃん、そっち行ったよ!」


 「はいはい~。うーん、頭だけうまく消し去れるかな?」



 私はこっちへ突っ込んで来るコカトリスに手を向ける。

 そしてチートスキル、「消し去る」を発動させる。



 『ごげぇええええぇぇぇぇっ!!』



 さっきまでルラにボコボコに殴られて流石に敵わないと思ったのか、このコカトリスは私の方へ向かって逃げて来ている。


 コカトリスの嘴には「石化」の毒があるけど、それはさっき私の能力で「消し去る」をした。



 私リルはエルフだ。



 いや、こっちの世界ではそうなんだけど、もともと女子高生で異世界からの転生者である。

 そしてこちらの世界に来る時にギフトをもらって何でも「消し去る」能力を与えられた。


 だからこんな東のイージム大陸にいきなり転移で飛ばされてもなんとかやっていけるのだけど……



 ざんっ!


 ぶしゅぅ~っ!

 


 「うわっひゃっ!」



 頭を消し去ったはいいけどそこから血が飛び散る。

 慌てて血を「消し去る」けどその巨体がそのまま私に飛び込んでくる!?



 なんで首失って走れるのよ!!



 このまま突っ込まれたらきゃしゃなエルフの身体なんてひとたまりもない。

 せっかくの獲物だけど命には代えられない。

 

 私は仕方なく残りの身体も消し去ろうとすると私の前にいつの間にかルラが飛び込んでいた。



 「よっと!」



 ばごぉんっ!!



 ルラはその細い腕で首無しのコカトリスをぶん殴り吹き飛ばす。

 哀れコカトリスの身体は向こうの森に突っこみ動かなくなる。



 「ふう、やっと捕まえられた。ねえ、お姉ちゃん、これで照り焼きが食べれるね!!」


 「あんた、まさかこれ全部食べるつもり?」



 この世界で「最強」のチートスキルを与えられた双子の妹、ルラ。

 彼女も元は異世界から私と一緒に転生をした元小学生の男の子。

 でもこちらに転生して今はしっかりと私の妹として慣れてしまたった。



 それで良いのか拓人たくと君?



 あ、拓人ってのはルラの元の名前。

 赤城拓人あかぎたくと、小学一年生の半ズボンの似合う男の子だった。

 


 お姉さんとしては半ズボンの似合う男の子のほうが好きなんだけどなぁ~。



 今は完全に女の子のエルフになっている。

 ちなみに私たちは現在十六歳。

 人間にしたらではなく、本当にこちらの世界に来て十六年しか経っていない。


 いや、十六年もか。


 

 エルフは良く誤解されるけど体の成長は人間で言う十五歳くらいまでは人間と同じくらいの速度で成長する。

 どうもこれは鹿とかが生まれてすぐに立てるのと同じく支障ない大きさまで体が成長をするからみたいだ。


 おかげであちらの世界にいた時の感覚でこの十六年間はやってこれた。


 ただし私たちくらいになるとその後は大人の女性になるのに千年くらいかかるらしい。

 そして皆様ご存じ、死ぬまで若い容姿を保っていると。



 そしてもう一つ誤解がエルフは肉も魚も食べられると言う事。


 中には昆虫も食べる人もいるけど流石に私たちはえんがちょーって感じで食べる気はしない。

 ただ、エルフは肉や魚の消化が弱くあまり量を食べられない。

 植物だったら結構食べられるんだけどね。


 その辺は村にいた年上のエルフに聞いたときに「私たちの半分は植物から出来ているらしいわね、私たちを創造した女神様が精霊と植物からエルフを作り上げたと言われているからね」などと言っていた。

  

 食虫植物ってのがあるように植物だって動物を捕食して栄養素にしている。

 だからエルフも肉や魚を食べられるのだ。

 


 と、ルラは首なしのコカトリスを引きずって来る。


 「お姉ちゃん、早くこれさばいてよ! あたし照り焼きが食べたい!!」


 「あのねルラ、ちょっと前に町でいろいろ仕入れたけど流石にお醤油とかってこっちの世界じゃ見当たらないから照り焼きは無理」


 「え~、お姉ちゃん料理上手だから何とかしてよ! あたしたまにはしっかりとお肉食べたい!!」


 ルラはそう言って手足をバタバタさせる。

 

 見た目に反して精神年齢があまり成長していない。

 まあ、エルフの村にいると私たちなんか子供も子供、三歳児くらいの扱いにされてしまう。


 私はため息をつきながらコカトリスに手を向けて先ずは体内の血を「消し去る」。


 「っと、これで血抜きはいいけど、どう解体したものか……」


 正直自分の身体より大きな鶏肉なんて何時になったら食べ終わる事やら。

 それにエルフになってからはあっちの世界にいた時の三分の一も肉類が食べられなくなった。


 生前に飽食の国、日本なんて所にいたからこちらに来てからエルフのマズ飯にどれだけ悩まされた事か。

 毎日毎日エルフ豆って言う枝豆そっくりな豆の塩茹でだけとか、こっちの世界のイケメンパパなんか虫のさなぎの油揚げをおいしそうに食べたりしてんだもん!!

   

 しかし外の世界に転移で飛ばされて村に帰る為には私たちは生き残らなくてはならない。


 と言う事で生前の趣味であったお料理の技を駆使してこちらの世界でも美味しくいろいろと食べたいのよね。


 「とは言え、こんなに要らないからなぁ。この辺の胸肉あたりがいいかな?」


 私は毛と表皮を消し去り胸肉あたりの欲しい分の肉を肉と肉の間に「消し去る」空間を微調整して作りそぎ取る。



 「これだけあれば十分ね?」


 「え~? それっぽっち?」


 「あのね、今の私たちはエルフなの。無理してお肉沢山食べたらお腹壊すわよ?」


 ルラは流石に元男の子、お肉が大好きだ。

 ただ、毎回食べ過ぎてお腹を壊す。

 その都度ルラのお腹の中身を消し去り助けるのも面倒になって来た。


 「とにかく食べて足らなかったらその時にまた作ってあげるから」


 「分かったよ、お姉ちゃん」


 言いながら私は腰に付けている魔法のポーチから道具を出し始める。


 あ、このポーチはエルフ族が作った便利な道具。

 転移で飛ばされる前にたまたま預かったものがこうして役立つのは僥倖だった。



 

 さて、何作ろうかな? 

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