23話-1 ターニングポイント(優真side)

 研修旅行最終日、早々にお土産を買った俺たちは飛行機に乗り、空港に戻ってきた。

 三日月さんとは昨日の出来事があったため、一言もしゃべっていない。

 バスの中や、飛行機の時も蓮に隣に来てもらった。


 みんなと別れ、ロータリーに向かう。

 昨日の内にとある人に連絡していたので、準備は終わっていると思うのだが……


「おかえりなさいませ、佐藤様、咲様」

「ただいま帰りました。

 とりあえずお家に帰りましょうか優真くん」

「おや? 佐藤様から婚約は解消となったため、これからは別居することになると聞いているのですが……」

「え……?」


 昨日、三日月さんと離れた後に木下さんに連絡しておいた。

 正直ありえないから聞き直してみてはというメールは帰ってきたが、そんなこと出来る気がしなかった。

 

 木下さんが言うには万が一、最初の2週間で別れていた時用に準備していた家が残っているらしい。

 そこに住ませてもらうことになった。


「なんで…… なんでですか!?」

「なぜと言われましても……

 佐藤様が、咲様に婚約を解消してくれと言われたという旨のメールが来ましたので。

 大旦那様方にも昨日の内に許可はとりましたから……」


 こうなってしまったのは俺のせいだ。

 ただもう取り返しはつかない。

 

「それでは、咲様のご自宅へ先にお送りさせていただきます」

「分かりました」


 三日月さんは下を向いたまま何も言わない。

 このまま関係は終わってしまうのだろう。


 

 そうして三日月さんの家に着き、家に送り届けたので、俺の家に向かうことになった。

 信号待ちの間に、木下さんが少しこちらに体を向けて口を開いた。


「佐藤様にお聞きしたいことが一つあります」

「どうしましたか?」

「佐藤様はこの婚約解消に納得していらっしゃるのですか?

 本当に咲様と別れても悔いが残らないのですか?」


 俺と関わる人は全員心を読めるのだろうか。

 悔いが残らないなんて言ったら嘘になる。


「そりゃあ悔いはあります。

 でも、俺は三日月さんにフラれたんです。

 俺にどうこう出来る問題ではないですよ」

「そうですか……

 僭越ながら言わせていただきますが、咲様はこの婚約解消を知らないような反応をしていらっしゃいました。

 喧嘩なさった後の気の迷いなどではないのですか?」


 本当にそうなのだろうか。

 昨日以来三日月さんとは話していないため真偽は分からない。

 

「もうこうなってしまった以上、俺は諦めるしかありません。

 夢でも見ていたのだと思うことにします」

「そうですか……」


 そこで信号は青になった。

 車はまた進んでいく。


 その後、家に着くまで俺は一言も話すことはなかった……

 

「ここが佐藤様のご自宅でございます。

 何かあった時はご連絡ください」

「分かりました。

 お迎えありがとうございました」


 そう言って、俺は自宅へと入っていく。

 

「ただいまー…… そっか、今日からは一人暮らしだから挨拶の必要がないんだった」

 

 家の内装は三日月さんの家とあまり変わらないみたいだ。

 設備もほとんど変わらないため、困ることはないだろう。


 時間は夕暮れ時、そろそろお腹がすいてくる頃だ。

 

「三日月さん、今日のご飯は何に……」


 って、そういえばもう三日月さんはいないんだった。

 声がむなしく鳴り響く。


 お土産でカレーを買っていたし、今日はそれを食べることにしよう。


 電子レンジで温めて、一人で机に座り、何も話さずに黙々と食べる。


 三日月さんと住んでいたのが本当に夢のように思えてきた。

 

 一人で過ごすことには正直慣れていない。

 家族で食べるなり、三日月さんと食べるなり、いつも誰かと楽しく食べていた。

 想像以上に一人で過ごすのは悲しいものなのだと感じた。 


 ご飯を食べ、一人で皿を洗ってお風呂を沸かした。

 

「三日月さん、今日も一緒に……」


 ったく、三日月さんはもういないってさっきも思ったじゃないか。


 久々に水着なしでの自宅風呂。

 何も身に付けていないことが、逆に違和感を感じるようになってしまったみたいだ。


 お風呂からあがって、一人でテレビを見ているといつの間にか夜遅くなっていた。

 疲れているだろうし、そろそろ寝ることにしよう。


「三日月さん、今日も俺は奥で……」


 (はぁ…… 俺は本当に三日月さんに依存していたんだな……

 もうこれで4回目じゃないか)


 失って初めて気づくことがあるとは言うが、本当にそう思う。


 冷たい布団に入って、布団の真ん中でひとりで眠る。

 抱きついてくる温もりも、寝息の音もなにもかもがない。


 (こんな感じでこの先やっていけるのだろうか……)

 

 そんな不安を抱いていても、体の疲労には逆らえない。

 瞼が重くなってくる。

 

 そうして俺は、大切な人を失った初日を終えたのだった……



――――――――――――――――――――



 お読みいただきありがとうございました!


 本当は優真partと咲partを両方投稿したかったのですが、忙しかったためこれが限界でした。 明日は咲partを投稿する予定です。


 それにしても、友達とのトラブルは本当に大変なことです。

 失うのは一瞬、それを優真たちも実感してくれるはず。

 みなさんも、どうかお気をつけて。


 最後に、前回もお読みいただきありがとうございました!

 星もだんだんと増えてきました。

 皆様のおかげです。

 良ければ次回もよろしくお願いします。

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