第23話 言葉が分かるってすばらしい
分かる。分かるぞおお。
ハスキーボイスが女海賊風の鍛冶屋の店主でそれより高い声色がベルヴァだな。ベルヴァも女の子にしては高い方ではないけど、店主が更に低い。
駄竜は頭の中に響いてくる言葉だからそもそも音が無いので、本来の声質は分からん。グルルルとかグガガガとかじゃないだろうか。
それはともかく、店主とベルヴァの喋っていることが全て日本語に聞こえて来る。
「ヨシタツ様に見てもらわないことには……困りました」
「なんだい。あの男、荷物持ちか何かじゃなかったのかい?」
「何と無礼なことを! 荷物持ちとおっしゃるのなら、私が……いえ、ヨシタツ様に全て持って頂いておりました……」
「コロコロとよく変わる子だね……」
かぶりをふって否定したかと思ったら、ずううんと落ち込むベルヴァであった。
彼女を一人で放置すると中々に危険だ。普段は物静かな彼女であるが、俺のこととなると途端に変わる。
この分だと俺のいない間にいろいろ喋っちゃっているかもしれない。
目立たぬよう、目立たぬようと思ってはいたけど、職人となれば悩む。彼女の気質が見えない中、喋ってしまうのは時期尚早かもしれないけど……武器、防具はなるべく良い物を持っておきたいんだよな。
今後、どんな奴から襲われるか不安だし。慎重に慎重を重ねる俺は、万全を期した上に石橋を叩き尽くしたい。
「ヨシタツ様! お戻りになられたのですね」
「うん」
「ひょっとして、手に入れられたのですか!」
「何も言ってないのに分かったの?」
「はい! いつもは一呼吸あってからお応えされるので」
いい笑顔で両手を合わし、尻尾をピンと立てるベルヴァに自然と頬が緩む。
あ……。
全部、店主に聞こえちゃってるじゃないかー。
問題の店主は首を傾け、腕を組み眉をハの字にする。
「イチャイチャするのは構わないけど、買うのか買わないのか、どっちだい?」
「買うよ。どんなのがいいんだろ」
「まず私に、とおっしゃるのですよね」
ベルヴァが何か思うところがあるようだ。
竜の巫女って魔法職ぽいから鎧を着ることができないとか、そんなのかな?
しかし、彼女の提言は意外なところだった。
「お預かりして頂いている盾を出していただけますか?」
「うん。ええと、これだな。駄竜の盾」
『そのような名ではないはずだ!』
すかさず駄竜が俺の脛をかじってくる。
そうだったな。アイテムボックスでのリスト表示名は「蒼竜鱗の盾」だったはず。まあ、どっちでもいいじゃないか。
説明は「蒼竜の鱗を貼り付けた盾」とそのまんまである。
「あ、あんた。それ、どこから……」
「あ、うん。まあ、そういう魔法みたいなもんがあるんだ」
し、しまったああ。つ、つい。
思慮深い俺としたことが……。ここは適当に誤魔化すしかない。
と内心ヒヤヒヤしていたら、店主がばあんとテーブルを叩いて物凄い勢いで立ち上がった。
「空間魔法かい! 失礼した。あんた、空間魔法使いだったのかい。なるほどねえ。どうりて」
「どうりて?」
「その子が主と仰ぐだけはあると思ってね。空間魔法と言えば、世を捨てた古代の大賢者が編み出したとか何とか。大陸で片手の指ほどしか使い手がいないとか聞くよ」
「へ、へえ……」
「初めてみたよ! もっと見せてもらえる?」
「あ、いや、余り知られたくないんだ」
「何言ってんだい。クライアントの秘密を守るのが店主ってもんだよ。心配しなさんな。ここだけの話さ」
本心で言っているのか、その場任せなのか……どっちだ。
いや、どっちでもいい。こうなりゃ毒食わば皿までといこうじゃないか。
「これ、武器にできるかな」
「角……かい。それにしても随分と大きい角だね」
アイテムボックスから取り出し、ガタリと壁に立てかけたるは駄竜の角である。
ぽきっと折った後、何か持っていけるものはないかと思ってさ。
武器はベルヴァの使っていたらしい槍があるんだけど、力加減を誤ると斧のように粉みじんになってしまう。
ひょっとしたら駄竜の角なら俺のパワーでも壊れない武器が作れるかもしれないと、ね。
光に吸い寄せられる虫のようにフラフラと角の前までにじり寄って来た店主に待ったをかける。
角に触れようとした彼女の腕を握り、「先にあっちだ」と顎を向けた。
「ヨシタツ様……」
俺の態度に対し、ベルヴァが胸の前で両手を組み目をキラキラさせてほうと息を吐く。
鱗は加工されておらず、一枚をそのまんま木の板に張り付けただけのものだった。駄竜の住処には加工できそうなものはなかったし、仕方ないよな。
お世辞にも良い見た目とは言えない盾を手に取った店主の眼光が途端に鋭くなる。
「な、何だい、この鱗。見たことのない素材だ。だけど、これほどの鱗は今まで見たことがない」
「なかなか硬いと思う」
「もう少し詳しく見させておくれ」
「もちろんだ」
店主がルーペを片手に、もう一方の手にハンマーのようなものを持ち、コンコンと鱗を叩く。
指先で触れ、何やら呟き、「お、おお」と感動していた。
待っているのもあれだし、見学でもするかと思ったら、またしても駄竜の邪魔が入る。
『お主、我の角を』
「もう抜けがらみたいなもんだよな。この角」
『そうだな。我の源だったが、我と切り離され魔力も失った』
「それでも何かに使えないかなって」
『好きにしろ。我はまた力を溜めるつもりだからな』
てっきりお怒りで抗議してくるのかと思ったが、意外にも角には未練が無いらしい。
好きに使えと言われたことだし、そうさせてもらおう。
お、ちょうど店主の鑑定も終わったようだぞ。彼女はとても興奮した様子だ。
「これは凄まじい一品だ! ミスリルより硬いかもしれない。柔軟性は言わずもがな。ドラゴンの鱗だと思うのだけど、このドラゴンの吐くブレスの種類に耐性があると思うよ」
「確か、炎系だったと思う。あと、稲妻みたいなのも」
「二重耐性かい! 素晴らしいね。これをどう加工するんだい?」
「ベルヴァさん?」
彼女に目を向けると、コクリと頷きがかえってきた。
「生憎、鱗はこの一枚のみなのです。抜け落ちたものを木の板に張り付けたのですが、加工して頂けるのでしたら、胸か腰か首を覆う防具にできないかと」
「そうだね。このサイズだったら、魔獣の革の上からポイントポイントで鱗を覆う感じにしようかね。それなら、袖無しで胸元は鱗で覆って……はできる」
「それでお願いします! あ、魔獣の革の手持ちがありません……」
「皮のままでもいいなら、ツインボアと熊の毛皮ならあるぞ」
食べたあとそのまんまだけどな。
それでいいのか分からないけど、一応補足しておいた。
「お」と反応した店主が尋ねて来る。
「熊って、アーマーベアかい?」
「それそれ。剥がしてそのまんまだけど、新鮮そのものだぞ」
「手持ちの革よりはアーマーベアの方が良いさね。加工はこっちでやっておく、素材持ち込みだから加工費だけ頂くけどいいかい?」
「いくらだ?」
「そうだねえ。革の加工と鎧作成……二週間くらいかねえ。3万ゴルダでどうだい?」
「問題ない。さっきいろいろ買い取ってくれたからな」
日本円にして30万ってところだ。二週間費やすことを考えたら、そう高くもない。皮を革にするのは大変そうだし。
お次は角をとなったところで、外から何かが崩れ落ちるような凄まじい音が聞こえてきた。
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