2022年8月
「セックスなんかできて当たり前」という認識、「別に俺は今までたくさんセックスしてきたからお前とできなくても構わないけどなんなら抱いてやってもいいよ」という余裕、それらによって築き上げられる内から滲み出る強オス感。中位上位の女から空気扱いされてきた非モテが非モテ状態から這い上がるために必要な経験と自信の礎はブスとのセックスによって築き上げるしかない。モテる男は今頃水着美女の焼けた肌を舐め回しチンポで頬をはたき倒すことによって征服欲を満たし尽くし、俺には計り知れないほどの優越感と経験値を得ていることだろう。そこで得た自信が次の女を惹き寄せる。再びチンポビンタをかまして自信を得、また次の女が寄って来る。俺がいつも参考にしている恋愛コンサルYoutuberは「女性からモテる男とは、女性からモテてきた男、たくさんの女性とセックスしてきた男です」と断言していた。グッピーのメスは他のメスと交尾しているオスに群がるという実験結果を人間に当てはめたこの説を俺は強く支持する。モテがモテを呼ぶ「モテ・スパイラル」を作り出すために今の俺ができること。それはブスの穴にチンポをぶち込みまくることだ。どんな低空でもいい。とにかく絶え間なくセックスをすることで螺旋の渦を生じさせ、その勢いで上に昇っていく。俺はミヅキとの忌まわしいセックスを繰り返しセックスの回数を稼ぎつつ、マッチングアプリでアポを取り続けていた。
マナには軽い気持ちでいいねをした。
片目だけのプロフ写真。28歳。マッチして挨拶を交わした直後のメッセージのやり取り。
「マッチングアプリって初めてでどうしていいかわからなくて」
「じゃあ俺が教えますよ」
「ありがとう!」
「実はPairsはマッチした相手とおててつないでデートしなきゃいけないきまりがあるんですよ…怖いですね…」
「嘘でしょ?笑」
「ばれたか笑」
俺はこの五ヶ月で学んだ。お互いが恋愛や性愛を目的地とする会話において女性が求めているのは、ウキウキやドキドキといった形で感情を揺さぶられることであり、真面目な返答など1ミクロンも求めていない。
ノリが軽そうなのですぐにLINEに場所を移して電話をした。
「なんかすごい慣れてるね笑」
「そんなことないって。俺童貞だから笑」
「チャラ笑」
これもこの五ヶ月で学んだことだ。第一印象「優しいね」「真面目だね」は、「冴えないから近寄んな。これ以上距離縮めてきたらぶち殺すぞ」の意味。女からの最低評価である。第一印象「チャラいね」は「これからセックスする可能性のある男としてお前を認める」の意味。女からの高評価である。脈アリだ。
相手の顔が見えないことにより緊張が緩和されるせいか、メッセージのやり取りや電話は五ヶ月前と比べて格段に上手くなったと思う。マナとの電話はこれまでのどの女よりも盛り上がった。友人から紹介されて半年ほど連絡を取っている男がいるらしく、私も彼のことが気になっているとのことだ。
「半年もビビってまごついてる男にマナを満足させられるとは思えねーな。俺にしなよ」
「えーなにそれ笑」
集団内恋愛のように他者からの評価が存在しない1on1のマッチングアプリにおいて大事なのは、極論を言えば強いオスであること、自信があること、モテていることではない。強いオスであり自信がありモテてきた「ように見える」ことである。俺は自身の引っ込み思案な性格を逆手に取り、鼻につかない程度に強オスアピールをしていった。
俺はこれまでに得た経験と知識を総動員してマナとの会話を慎重かつ大胆に進め、スムーズに夜の居酒屋アポを取り付けた。ここで嬉しい誤算が二つあった。一つは、電話した次の日からマナが積極的にLINEをしてくるようになったこと。もう一つは、マナがエロ話に乗ってきたこと。恋人との体の相性の話をしている際にマナから、「私、のどの奥突かれるのが好き」というセリフが飛び出した瞬間、俺は勝利を確信した。どんなツラか知らないがお前も俺のチンポの戦闘力を上げるための糧となってくれ。
夜八時、船橋駅の東口でマナを待つ。LINEと電話で「チャラそう」「モテそう」を印象付けることに成功していると思われるので、仲の良い地元の古着屋の店長に相談し、積極的にホテルに誘っても「まあそうだろうな」と思われるクズ感溢れるファッションにしてもらった。オーバーサイズの黄色いTシャツにギラギラのネックレス、黒い短パン、ノースフェイスの小さいポーチ、白黒オレンジのエアマックス。これで髪型を整えればいかにも夜の街に入り浸っている軽薄な歩くチンポといった風情だ。今日は俺史上最高のクズとなり人生初の20代素人女とのセックスを満喫する。
「ヒロ?」
声を掛けられて前を向くと紺色のワンピースを着た女が立っていた
「…マナ?」
「そうだよ!はじめまして!」
そんなはずない そんなはずは
「…あ、えーと…はじめまして…ヒロ…です」
だって 俺は なんで
「ちょっとなんなの、『ヒロです』って笑」
動揺して視線が泳いでいる俺を見かねてか、マナがクスクスと笑っている。
一瞬にして悟った。絶望的なまでの戦闘力の差。
人生で初めて対峙したSクラスの女。それがマナだった。
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