あの日、私は「魔女」になった

海林檎

第1話 フィクション 1

世界に溢れている、愛や恋の話。

老若男女関係なくその甘いフィクションに浸れるのは、皆酔いしれてしまっているからだろう。

──度数の強い、甘くて悪酔いするお酒のような、その言葉に。


「はぁ〜……マジクソ、有り得ない」


深ぁく息を吐きながら、スカートがはだけるのも構わず足を開いて座り込んだ。

周囲には誰もいない。居るのは私だけで、あるのは散らばったゴミと倒れたゴミ箱だ。

抱えていたゴミ箱が、手をすり抜けてしまったのだ。自然の摂理に従って落ち、倒れ、中のゴミを地面にぶちまけたゴミ箱を目の前にして、悪態を吐かない人間はそうそう居ないだろう。

そもそも、何故私1人でこんな大きなゴミ箱を抱えて歩かねばならないのか!

掃除当番は私1人じゃあないはずなのに!


「……って言っても、なぁ」


そもそも言える訳もない。

同じ掃除グループのクラスメイト達は、私1人に掃除当番を押しつけてさっさとカラオケに行ってしまったのだから。

本当に有り得ない。責任感のカケラもない陽キャ達め!

いやいや、あんな奴ら陽キャと言うのも烏滸がましい。陽キャに失礼だ、あいつらはただのクズである。


「あ"〜ぁぁ……クッソくだらない……」


恨み言でも言わないとやってられないのだ。深くため息をつきつつ倒れたゴミ箱を起こし、ぶちまけたゴミを拾う。ひとつ、ふたつ──

何個目かに手を伸ばした時、近くにスニーカーが目に入った。

誰かが、立っている。

ぼけーっと突っ立っているだけなら、ゴミを拾うのを手伝ってくれてもいいのに、なんて考えながらスニーカー横のゴミを拾い、ゴミ箱に向かって投げる。

ぱすっ、という軽い音と共にゴミ箱に落ちていく誰かの小テストだった紙ゴミ。


「……」


「……」


無言のスニーカーの主を無視して、またゴミを拾う。あと、数個。


「なに、してるの……?」


上から降ってくる声に、顔を上げた。

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