第16話

「……まぁ、こんな感じでしょうか?」

 イネスがそう言うと、エリザはコクリと頷いて、

「大変だったんですね」

「いや、体は丈夫ですし、傭兵としての腕も認められていましたから性に合ってたんだと思います。ただ、村を出る時は寂しかったですね……」

 そう話すイネスに、エリザは自分の皿から焼き菓子を一つ手に取ってイネスに差し出す。

「思い出したくない事言わせちゃってごめんなさい」

「あ、いや、気にしないでください」

「気にするので、これお詫びです」

 と差し出してくる焼き菓子を受け取ると、イネスは苦笑しながらパクリと頬張った。

「ん、美味しいです」

「それなら良かったです」

 そうして茶を飲み、一息つくと、イネスは、

「エリザ様、他に聞きたいことはありますか?」

「さっき言いかけたゼノタイムでの事、教えてくれますか?」

「はい、分かりました」

 そう言ってイネスはもう一口茶を飲むと、エリザが、

「ゼノタイム……東の小さな国ですね」

「よくご存知で」

「地理の勉強は得意です」

 それにイネスは頷くと、今度はゼノタイムでの出来事を話し始めるのだった。


 そうしてそれから毎日、朝から夕方までお茶をしながらイネスはエリザに自分が旅してきた事を話すようになった。

 それを興味深気に聞いては、なにやらノートにメモをとるエリザ。何が書かれているのか気になるイネスだったが、勝手に見る訳にもいかないと我慢をするのだった。

 イネスは様々な事を話した。

 汚染されていない海の広がるトパゾラ国で見た、どこまでも広がる青い海と青い空。ヒデナ国で見た先の大戦の大量の残骸とその兵器によって丸く削られた、今は汚染された湖にななってしまった文明の足跡。ワイラケ国で大量の汚染物質により沢山の人たちがクロト病に罹っている、けれども懸命に生きようとしている様。

 そんな話を話せるだけ話した。


 そんな日が数日続いた頃、温室で茶を飲みながらエリザと話していると、

「神殺しさん、騎士団見に行きませんか?」

「騎士団?急ですね」

「今日は姉様が稽古に出ているんです、他の騎士団の人達も神殺しさんがどれくらい強いのか知りたいって言っていました」

 そんな事を言い出すエリザに特に断る理由もなかったので、イネスは、

「それじゃあ、今日は騎士団の見学に行きましょうか」

「はい!神殺しさんの強さが分かりますね」

「いやーそんなにプレッシャーを掛けないでくださいよ」

 と困った表情を浮かべながら茶を飲み干した。

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