第10話
「…………と、いう感じだよ。で約束の日は十六月十五日。その日にヤツはやって来る」
「『神』をも恐れぬとは無謀ですね」
イネスはそう言うとマフラーが少々暑いのか首を拭いながら随分とぬるくなった茶を飲んだ。そうして菓子を口に入れると幸せそうな顔をする。
「姉様は『神』に狙われているんです、神殺しさん、姉様を助けください」
「それは勿論。その為にここに居るのですから」
「それじゃあ」
エリザの目がキラキラと輝き出したが、イネスはそれを制す様に、
「僕が戦った『神』はペントランド神、パラテルル神とは力が違う可能性があります。なので絶対に倒せる確証はありません」
「そう……ですか」
しゅんと落ち込むように俯くエリザに、シャーリーはその頭を撫でて、
「私とて何も考えていない訳ではない、きっと大丈夫だ」
「……姉様」
エリザはじっとシャーリーを見つめる。
仲の良い姉妹なのだなと思うが、シャーリーとエリザの見た目の違いが色々気になってしまうのだった。それは後でシャーリーに尋ねるとして、
「パラテルル神に関する資料が欲しいところですね、対策を練りたいです」
「そう言うと思って持ってきているよ」
とシャーリーが取り出した分厚い紙束を手に取ると、パラリと捲る。けれども情報が多すぎて今は頭に入れるのは困難だと判断したイネスは、それを膝に乗せて、
「後でゆっくり見させて貰います」
「そうだな。さて、茶会も終わるか。エリザはこれから勉強もあるだろう?」
「はい、姉さま。今日は歴史の勉強です」
「それじゃ、お開きにしますかね」
そう言って立ち上がるシャーリーに合わせてイネスも立ち上がると、エリザも立ち上がり、温室から三人は出ていくのだった。温かい温室を出ると急に寒さが身に沁みてくる。扉の前に控えていた女性使用人に「片付けを頼む」とシャーリーが言えば「かしこまりました」と礼をするのだった。
そうして紙束を手に自室に戻ろうとするイネスなのだが、迷路のような城の中をどう進んだらいいものかと考えていると、シャーリーが、
「どうした?」
「……部屋にはどうやって戻ったらいいんですかね?」
とマフラーを整えながら困ったように首をかしげるのだった。それがおかしいのか笑みを浮かべながら、
「ははっ、案内するよ」
「どうもありがとうございます、シャーリー様」
そう言って二人はイネスの部屋へと向かいながら、色々と話す。
「……どうしてこんな入り組んでるんです?」
「城は要塞だからな、敵が攻めてきた時にそう簡単に攻略されたら困るだろう?」
「……なるほど」
イネスの部屋の前には使用人のソーマスが立っており、イネスが戻ってきたのを確認すると鍵を掛けた扉を開いた。そうして部屋に入ると、ソーマスが、
「何か御用がございましたら何なりとお申し付けください」
「それじゃ、何か飲み物をお願いできますか?」
「かしこまりました」
ソーマスはそう言って部屋を出て行くと、イネスは柔らかなソファに座ってシャーリーから受け取った紙束に目を通していくと、ソーマスが戻ってきて茶一式を持ってきた。香りが先程と違っているところをみると、どうやら茶葉が違うらしい事が詳しくないイネスでも分かった。
「ありがとうございます」
「いえ、他に御用がありましたら何なりとお申し付けください」
「はい、ありがとうございます」
ソーマスはそう言うと部屋から出ていった。
イネスは茶をカップに注ぎながら、少し飲んでは、一人きりになった部屋で分厚い紙束に目を通していくのだった。
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