第7話 デザートイーグル
差し伸ばした手を拒絶されたの、そーいや初めてかもしんない。
その光景を見た途端、アキラはそんな場違いなことを考えていた。
自分よりも年下の少年の頭が食われた。ワームの口には鋭利な歯が数え切れないほど二重に並んでいる。その歯はどんなに固い金属でも噛み砕くと言われており……つまりカルシウムの塊である人間の頭蓋骨だって、簡単に噛み砕けるということだ。
頭の半分のところで食われたのは、幸だったのか、不幸だったのか。少なくとも、ギリギリまで避けようとした彼の努力が目に見えて。
その瞬間、アキラは思わず顔を背けた。短い付き合いだったとはいえ――自分が手を差し伸べた人間の頭から脳みそが飛び出る瞬間など、直視する度胸はなくて。もっと強く彼の手を掴めていたら。その後悔ばかりが脳裏を駆け巡る。
「――ちっ!」
背後からは、ゼータの舌打ちと共にライフルの発砲音が聴こえた。動かなきゃ。囮になって死んでった見習いのためにも、自分は生きて仕事を完遂しなければならない。そしてまた、誰かの靴の代わりに荷物を運ぶのが――〈
ゼータの一撃で、デスワームは大きく仰け反っていた。頭部を撃ち抜いたのだろう。だけど、ワームの本当の急所は背後にある。頭部と胴体の分かりづらい継ぎ目。その間にある核を仕留めない限り、ワームは永遠に動き続ける。ゼータお得意の遠距離射撃じゃ、高低差がない限りとてもじゃないが狙えない位置。こんな砂漠じゃ、ワームを滝の下に落とせでもしない限りは無理だろう。
――それを撃ち抜くのは、オレの役目だ。
アキラも黙って、大きく迂回する。背中をとったアキラは、ワームの動きが鈍いうちにその身体をよじ登ろうとするも。ワームが再び、大きく頭を動かす。
「ちょっ、もっとゆっくり休んでろって――」
落ちないように胴体の節目をなんとか掴むも、
「え?」
その光景に、アキラは思わず目を見開いた。
眼下では、頭を半分失くしたフェイが、今もワームの激昂から逃げ回っているから。アキラは特別視力が良いわけではない。それでも、フェイの頭は明らかに頭の上半分が欠けていて。その中に見えるのは、色とりどりのコード……?
「ふ、副長⁉」
「見てる! とりあえず――撃て!」
「あーいあいさっ」
――あーもう、何がなんなんだか。
アキラは思わず口角をあげて、その手に力を込める。「よっ」と反動でワームの背中を登っていき、節の間に埋まったこぶし大の赤い鉱石を確認して。
「見ーっけ!」
ヒップホルスターから
「おぉーっと」
とっさにトリガーを引くも、着弾はわずか右に逸れた。しかも爆撃の反動でアキラも飛び降りざる得ない始末。それでも、目の前ではフェイが砂に足を取られていたから。アキラはがむしゃらにマグナムを全部ぶっ飛ばしてから、フェイに駆け寄る。
「もーっ、大丈夫っすか⁉」
アキラは再び手を差し出す。フェイの頭からは、やっぱりカラフルなコードが伸びだしていた。その奥には、たまにチカチカと光るスイッチのようなものなりメモリ的なものなりの機械構造が覗いていて。
――おおう……。
とは思うけれど、だからといって一度出した手を引っ込めるつもりはない。
そんなアキラに、片足が砂に埋まったフェイは無表情で尋ねてきた。
「あの……これ、怖くないんですか?」
「そりゃあ、不気味っすよ……てか、何その無愛想」
顔どーしたの? と訊けば、「電脳部分は身体のあちこちにスペアがあるんですけど、表情筋動かす部分が完全にやられちゃいまして」とまったく隠す気のない答えが返ってくる。ま、今更誤魔化されてもこっちが困るってなもんだけど。
「ふ~ん」
人間だろうが、なかろうが。そこは大した問題じゃないようだ。……そんな自分に感心しながら。アキラは今度こそ問答無用で、フェイの腕を引っ張る。
「オレねぇ、一度懐に入れた相手は嫌でも守りたくなっちゃうんすよ。だから……死ぬことも壊れることも許さないっすよ、
アキラが初めて名前を呼んだことに、彼は気がついたのだろうか。
頭を半分失くした新人は無表情ながらも、敬礼する姿が嬉しそうに見えた。
「了解しました、先輩っ!」
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