第99話

 廃坑道から村へと急ぐ中、すぐに陽が沈み辺りは暗くなった。視界の悪い中ではなかなか先へ進めない。


 少しでも兵士達の身体を軽くしようと身に付けている鎧を全て剥がすとなんとか僕でも一人で担ぐ事が出来たけど進行が遅くなる為、途中で僕が担いでいた兵士をガルグが背負いガルグ一人で二人を担いで進んだ。


 村に近づくとすっかり夜になっていて村は真っ暗だったけど騎士団が野営地とした場所には焚火の光が灯っていた。


 ガルグに兵士達を任せ先行して僕は一人野営地に走った。焚火の光目指して野営地に到着すると焚火の辺りには村に残ったアドル、フロウと兵士二人の姿があったけど、それだけじゃなく数十人ぐらいの人達が一箇所に固まり座っていた。どうやら村の人達みたいだ。


 「あっ!ネールおかえり!」


 「ただいま戻りました。すいません。すぐにフロウさんに治療をお願いしたいのですが」


 笑顔で迎えてくれたアドルがどこか怪我したの?と聞いて来たので治療が必要なのは調査隊の護衛として村を離れた兵士達で今ガルグが二人を運んでいる事を伝えた。


 それは急がないといけないねと言ってフロウは僕が指し示すガルグのいる辺りに向かって小走りで向かった。


 ほっと一息つくと座っている村人達が視界に入った。よく見れば全員後ろ手に縛られていて身動き出来ない様になっていた。


 「彼等は僕らを襲って来たんだよ」


 なんでも村に残った調査隊の一人に扇動されてアドル達に襲い掛かったらしい。アドルが何の躊躇いもなく剣の一撃で調査隊の一人の命を断った姿を見て怯んだ隙に全員を捕縛したそうだ。


 よく見ると村人達のすぐそばに調査隊の一人が死体となって置かれていた。村長さんがこっちをめっちゃ睨んでいた。


 昼間に会った時以上に、暗い中で照らされる焚火の揺らめく灯りのせいか、目つきがギラついて見えた。村長さんだけじゃなく村人全員の眼がそうだった。その目の集まりには負の感情が満ちている様に感じられなんだか不気味で気持ち悪く思った。


 アドルに調査隊から襲われ、それを退ける事が出来た事を伝えた。よくやったね、と一言声をかけて貰ったけど、アドルからは起きた出来事への驚きだったりの感情を感じられない。随分あっさりしてるなぁ、とか思いながらアドルを見つめていると何か感じたのか口を開いた。


 「実を言うと、さ。こういう事が起こるのは事前に想定済みだったんだ」


 え?どういう事?と思う反面、なんとなく今回の調査隊護衛の遠征については不審な点をちょいちょい感じていたから、あぁやっぱりなんか騎士団側にも思惑があっての事だったんだと思った。


 そもそも伯爵とダグダ教の関係はあまり良くないって聞いてたのにダグダ教の調査隊を騎士団が護衛する事になったって所から違和感ありありだったんだけどね。


 詳しい話はガルグが戻ってからと言われてからすぐに兵士達を連れたガルグとフロウが戻って来た。


 なんとか兵士達の命は繋ぎ止められたみたいだけど、あともう少しで間に合わなかったぐらい重症だったみたいだ。


 回復魔法で怪我の治療は完了しているけど当分兵士二人とも自分一人で歩いたりするのは難しい状況だそうだ。


 村には二、三日滞在予定だったけど明日にはサインズへ向け村を発つ運びとなった。まぁ、調査の為の滞在予定だったのが調査の必要がなくなったんだから村にいる必要はないよね。ガルグも村に戻り一息付く事ができた。


 アドルは今回の遠征の経緯を僕とガルグに説明してくれた。今回の遠征はマーウェル伯爵とゴーティ副隊長の意向で行われたそうだ。


 団長の意向は?と尋ねるとアドルは苦笑いして、アティラ団長は今回の遠征を反対していたから団長の前ではその件を触れないように、と言われた。団長を出来るだけ避けるようにしてるからそこら辺は大丈夫だと思う、うん。


 「取り敢えず二人とも良くやってくれた。今回の調査隊の襲撃については予め情報があってね。調査隊隊長のロバト・サラセンが何やら画策してるって情報だったんだ」


 情報元に関する詳細は話せない、というか知らないとの事だった。


 どっからか情報を得たゴーティが伯爵に伝達していたらしいけど、その時には伯爵のもとにダクダ教からのダンジョン調査の護衛依頼が既に届いていたそうだ。


 護衛に騎士団を指名してきた事について教会側は、ダンジョン発見時に教会の情報をもとにダンジョン発見に辿り着く事が出来た事を貴族である騎士に立ち合ってもらい証明して欲しいとの理由だったらしい。


 伯爵はダンジョン発見に繋がる情報をダクダ教が握っているって話は寝耳に水でかなり驚いたらしい。


 わざわざ騎士を立てて証明したいって事はダンジョンの存在にかなり信憑性があるって事と、ダンジョンの利権に教会側がガッツリ絡んでいきたいって意図が見えてたらしい。


 ダクダ教に利権を与えたくない伯爵は影でダンジョンの情報を探って教会より先にダンジョンを見つけたいと思ってたようだけど情報が全く見つからなかったみたいで、どうしたものか悩んでいたそうだ。


 そんな時、ゴーティからの情報でロバト・サラセンというダクダ教の人間が何やら騎士団に対して良からぬ事を企てていると聞いた。


 更に、ダンジョンの調査隊の隊長がロバト・サラセンだと知り、遠征中に何か仕掛けてくるだろうと予想した。


 ロバトが仕掛けて来やすい様な状況を作り、更にダンジョン発見時にはそれを教会側への糾弾材料にして教会をダンジョンの利権から排除しようとの考えだったらしい。


 ダクダ教側は知ってか知らずか、結局ダンジョンの情報はロバトの妄言でダンジョンなんか無かったんだけどね。


 ロバトが仕掛けしやすい状況っていうのが騎士見習いの帯同、つまり僕とガルグ、そして領軍の兵士達を遠征のメンバーに組み込んだってことの様だ。


 騎士と比べて戦闘力の劣る僕らに対してならアクションを起こさせやすい。ようは僕らを囮に使ったってわけだ。ふざけるな、と言いたい。


 「......ではアドルさんは襲われる可能性があると知っていて、俺やネール、兵士二人にロバトに付いて行くよう指示したのですか?」


 「あぁ、そうだよ」


 ガルグはそれ以上何も言わなかったけど怒りの感情が体から滲み出ている様に感じた。

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