第78話
翌朝目を覚ますと部屋には誰もおらず、窓の外を見ると朝日は登りきっていた。どうやら随分寝ちゃってたみたいだ。
「やぁ、おはよう」
部屋の扉が開き食事を手に持つフロウが昨日と変わらない笑顔で僕に近づいてきた。おはようございますと返事をしてから食事を受けとり口にした。
「さて、今からの予定だけど伯爵との面会だね。だけどその前にその服に着替えてね」
フロウの視線を追うと枕元に服が一式畳んであった。食事を終え服にを手に取り簡素だけどしっかりとした生地で、これ高いだろうなと感じながら袖を通した。
「よし、それじゃあ早速伯爵の所に行こう。ついて来てね」
部屋を出て廊下を歩く。階段を登り二階奥の部屋で、そこは昨日館に来てから初めて通された部屋と同じ場所だった。
「騎士団所属フロウ・ゲイル、マチカネ村農民の子ネールを連れて参りました」
フロウは扉をノックし扉の向こう側に告げた。入れ、とゴーティの声だろうか短い返事が返って来てから扉を開けた。
フロウに続き部屋に入るとそこには騎士団長アティラ・ポーニー、副団長ゴーティ・ダキタヌの姿があった。
そしてもう一人、椅子に腰掛ける細身の男性の姿があった。フロウに促され男性の前に立つ。
「君がネールだな。私はマーウェル家当主シュフテン・マーウェルだ」
屈強な男性、そう勝手に想像していたけど、それに反して目の前の男性は小柄で細身、色白く、ひ弱な容姿をしていた。側に佇むアティラやゴーティが自然と比較対象となり、余計にそう感じた。
だけど目があった瞬間、恐怖を感じた。深く暗い瞳は、まるで全てを吸い込んでしまいそうな程、不気味に澄んでいた。まるで魔物みたいな目だった。
「君の騎士団入団を認める。騎士見習いとし、その命をもって仕えよ。以上だ」
シュフテンは短く話すとゴーティに視線を向け、視線を受け取ったゴーティはうなずき口を開いた。
研鑽を積み騎士としての矜持を身につけ、身命を賭してマーウェル伯爵家に仕えよ、と形式ばった口上だった。
「以上だ。これからの事について詳細は後ほど説明する。退室したまえ」
ゴーティからそう促され、頭を下げ素直に従った。扉に向かう際、アティラの様子をチラッと見たが無表情で視線は合わなかった。
身構えていたけど拍子抜けするぐらい何も起きなかった。僕自身も何か思ったり心が騒つく事なく、何だか昨日の事が他人事に感じるぐらい静かな気持ちだった。
昨日ゴーティから騎士団入団が正式に決まったという言葉を聞いてからだと思う。
僕にはやらなければならない事がある。今の僕には騎士団で見習いとなる事しか選択肢がない事を理解したからだと思う。
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