第68話

 朝を迎え、いよいよ森に入る。今までの旅路では僕とサーロスは横並びで歩いていたけど森に入ってからは縦並びでサーロスが前、その後ろに僕がついて行く形で進んでいた。


 メルルは定位置だったサーロスの抱っこから僕と手を繋いで歩いている。道幅は広くほぼ真っ直ぐなので見晴らしがいいけど森の中を伸びる道はいつ魔物が飛び出してくるか分からないので先導するサーロスが警戒しつつ先へ進んだ。なんか緊張するなぁ。


 そんな僕の気持ちに気づいてかいつも通り話かけてくれるけどサーロスの背中からはいつもと違う雰囲気が伝わってきていた。


 時間っていうのは誰がどう感じようが過ぎ去るもので、早朝に森に入ってから気づけば陽が真上に登っていた。


 サーロスが立ち止まり、後ろを歩く僕とメルルの歩みを手で制した。すると道沿いの森の際から無造作に伸びた草がゴソゴソと揺れ、その中からゆっくりと魔物が姿を表した。

 

 ギャギャ、と鳴きながら現れた三体の、小柄で醜悪な顔つき。ま、まさか!?




トルキンズゴブリン

二足歩行人型の魔物

レア度E

雑食で繁殖力も高い

邪悪な妖精の成れの果て

-ステータス詳細略-




 ゴブリンだ!ゴブリンが、きたっ!おぉ、ファンタジー定番の魔物がまさに目の前に!と、ついつい初めて見たゴブリンにテンションが上がってしまったけど、ゴブリンって妖精だったの?成れの果てって、一体何があったんだろって鑑定結果を見て疑問に思った。


 道の真ん中に僕らを遮るように三体のゴブリンが並んだ。なんか三体とも僕の事見てない?


 僕と目が合ったゴブリンは醜悪な顔を歪めギャギャギャ!と叫びながらその場でジタバタし出した。踊ってる?にしてはめっちゃふらついていてバランス悪いなぁ。


 てか、さっきから悪寒が止まらない。メルルを見ると眉毛をハの字に、口をへの字に曲げて苦々しい顔をしてたけど、気持ちは分かる。出会えた感動は一瞬で、ゴブリン達を見ていると身の毛がよ立ってしまう。


 これは、あれだ。ゴキブリとかゲジゲジ見た時の感覚にそっくりだ。別に何かされた訳じゃないけど心の奥底にある何かが拒絶してる感覚。


 見た目や印象だけで判断しちゃダメだけど、抗えない事ってあると思うんだ、ゴメン。サーロスの振るう剣で真っ二つにされていくゴブリン達を見ながら心の中で謝った。



 ゴブリンが登場した後は特に魔物が出てくる事はなかった。山に近づくにつれ魔物が強くなると聞いていたので緊張で気が休まる事はなかったけどね。



 道はひたすら真っ直ぐに伸びていて向かう先にある山の姿が近づくにつれどんどん大きくなっていくのが見てとれた。


 途中に幾つか道が分岐する所があって、一方は王都に続く道で、一方は獣人の国へ続く道だとサーロスが教えてくれた。


 王都へと続く道を眺めた。もちろんここから王都の姿が見える筈もなく、だけど朧げに王都の影を想像した。


 『デムナ戦記』は王都が序盤のメインステージとなる。主人公の物語が本格的に始まる場所だ。


 「頼んだよ、デムナ。世界を早く救ってくれよ」


 なんとなく呟いた。



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