第13話 姫とギャルと安全地帯
・現在のプレイヤーの状態
レベル:57
HP:100/100
MP:20/60
最大スタミナ:300
武器:右手【ロングソード+5】、左手【ナイトシールド】
防具:頭【なし】胴体【姫のドレス】腕【姫の手袋】足【姫の靴】
アクセサリー:【逆転の指輪】
所持アイテム:【エンチャント・雷×2】【ショートボウ】【自血刀】【火炎爆薬×48】
装備重量:28%
攻撃力:250
防御力:ダメージ5%カット
所持金:21,193G
保持経験値:16,423デッド
「もしかして、ここに入るとボス戦になるの?」
「そーだよー、本当に中途半端な道中にだけ設置された隠し機能だからね」
ここのボスは……とにかく遠距離攻撃が豊富でめんどくさかった記憶があるわね。気を引き締めていかなきゃ。
「今回も楽な戦いになるから、安心しちゃって」
「その言葉、ホントどこまで信用していいのやら」
神殿へと足を踏み入れると、私の視界の自由が効かなくなり始めた。ムービーの時間だ。
ここは〈大天使〉のいた広く長い、白く輝く神聖な大広間。
真っ直ぐな通路を作るかのように並ぶ何十柱という石柱には、9本の尻尾を持つ狐が象られている。
その奥に佇んでいるのが……巨大な九尾の……純白な毛に覆われた狐〈
ここで、視界の自由は戻る。
ボスとしてのHPゲージも見えるため、ムービーが終わりボス戦が正式に始まった。
ちなみに、なぜ聖書のような天使の世界に九尾の狐がいるのかと疑問に思ってしまうプレイヤーも多いけど、それは開発者インタビューで「なんかギャップで面白いと思った」という一言でまとめられてしまっていて、批判も多いボスだったりするのよね。
考察勢的曰く、聖書由来な神話の世界すらも“屍人”にとっては敵であるとすれば、日本の伝承ネタをその中に入れるとあらゆる国の神秘が敵に回っているのだと理解させるって解釈が主流みたいだけど。
「そういえば【自血刀】使ってないけど、こいつはどう倒すの」
なお、このボスは縦に長いフィールド最奥からずっと遠距離攻撃を行ってくるため、タイミングを読んで前へと
近距離戦だとモーションが単純で、ガードなり
だけど同時に、近づくまでの回避タイミングを覚えのが大変で初心者に嫌われがちなボスでもある。
対して風川は、やはりと言うべきか私の知らない攻略法を提示し始めた。
「このボス戦はちょっとした工夫で超安全に倒せるから、とりま指示にしたがってちょ」
まず、プレイヤーから距離を離して最奥に待機している〈玉藻の後〉を無視するかのように、風川は神殿内に配置されている登り階段に指を指す。
「攻撃が来たらすぐに回避で避けられるよ」
とのアドバイスのセットだ。
真っ直ぐ近付くどころか別の方向に移動しているが、私は気にせずそこへ向かって走った。
同時に、戦闘が開始したことで〈玉藻の後〉は尻尾を前に突き出す動作をすると、それぞれの尖端から光に覆われた熱線を放つ。
真っ直ぐ、それでいで一定時間の伸び続けるビームはまるで映画の世界の怪獣だ。有象無象に相手を照射するような動きにまでなっていて、ただでは近付かせないという意思の表れすら感じられる。
「危ないわねェ!」
「上手上手ッ」
階段の前まで来たところで熱線に直撃しかけた。ダッシュだけで回避できない攻撃というのは“リビコン”においてもよくある。なので、即座に
「あとは真っ直ぐ奥の壁1m手前まで走っちゃって」
階段で昇った先は、〈玉藻の後〉がいる大広間に直接繋がった柵のある細い通路だった。早い話、体育館のギャラリーみたいな作り。
私は風川の指示通りに移動する。
その過程で、この2階通路に向けて〈玉藻の後〉が尻尾からの熱線を放ってくるんだけど、とにかく前へ前へと
極振りしたスタミナが確実に生命線を伸ばしている実感がある。こうやって成功体験を重ねていくことで、昔よりも確実に“リビコン”そのものに慣れてきた感覚が自分の中に生まれてきたぐらいには。
「到着したわ!」
「それじゃ、何も考えないで残った火炎爆薬を下にいる〈玉藻の後〉に向かって投げつけてやって!」
風川が指示した地点から見て真下に、丁度〈玉藻の後〉がいた。神殿の最奥という定位置から一切の移動をしていない様子。
位置取りが終わった以上は、指示通りに火炎爆薬をぶん投げてやるまでよ。
54ダメージ!
ボスなだけあって怯むような動きは見せないものの、それなりに、というか1/40ぐらいHPゲージを小さく削れている。
このままひたすら投げ続ければ勝てるって感じね。
この2階ギャラリーは早い話魔法とか弓がメインの遠距離キャラが有利に戦えるように配置した場所ってところなんでしょうね。
一方で、ダメージを受けたことでか私の移動位置を特定した〈玉藻の後〉は、2階に向けて尻尾を突き出する。
「そこから移動したらダメだよ姫チー」
「ええ、それぐらいなら理解してるわよ」
なんとなくながら、この壁際から1m離れた地点には意味があるのはわかる。
それから直ぐに、〈玉藻の後〉は突き出した尻尾から9本の熱線を放った。
「やっぱりそういうことなのね」
だけど、全てが壁際と私を繋ぐ1mの間に対して放物線を描くように飛んでいく一方で、私には一切命中しない。
微妙に腕等の体の側面にカスりそうになつたけど、それも全てノーダメージで終わる。
「これなら投げ放題ね」
「そーゆーこと☆」
つまり、今の私は完全な安全地帯から
それに甘んじて、見境なく残りの在庫を投げ尽くす。
53ダメージ!
49ダメージ!
52ダメージ!
51ダメージ!
一方的、あまりにも一方的! 気持ちよくて堪らないわ!
どれだけダメージを受けても〈玉藻の後〉は無意味に私と奥壁の間を攻撃し続けている。
思い返せば初見プレイの時は近づき方を理解するまでに何度も何度も負けて、いざ接敵できても2回ぐらい攻撃を読み切れないで負けたりもしてて、その恨みが【火炎爆薬】を投げる私の腕に籠ってとてつもない脳内麻薬を生み出していく。
51ダメージ!
50ダメージ!
54ダメージ!
(以下省略!)
52ダメージ!
あっという間に、〈玉藻の後〉の残りHPが1/5にまで減った。
……が、少し問題が起きる。
「待って、【火炎爆薬】が切れたんだけど」
投擲アイテムの在庫がなくなってしまった。
てっきりギリキリ使い切るぐらいの数だと思っていたものの、それは私の思い込みだった。
「大丈夫大丈夫、ここからが本番だから」
「さっさといいなさいよ!」
「今からスリーカウントをするから、ゼロって言ったタイミングで奥の壁まで走って
そのままこのギャラリーから落下しつつ攻撃しちゃってくんない?」
そういえば、〈玉藻の後〉が攻撃し続ける私と1m空いた壁までの通路には柵が設置されていない。
落下位置をそこから逆算しても何か攻撃が当たりそうな気がする。なら、やってやろうじゃないの。
「スリー、ツー、ワン、ゼロ!」
「おりゃあ!」
ゼロカウントに合わせて走り、すぐ様に柵の無い通路から落下する。
右手に持つ【ロングソード】を構え、思いっきり下から攻撃を備える〈玉藻の後〉の頭へと一直線にぶっ刺してやったわ!
524ダメージ!
この落下の勢いの一撃は特殊モーションとなりダメージが跳ね上がる。あの〈大蛇〉と違い強制即死では無いようだけど、それでもごっそりと残りHPを削りきっていた。
『撃破:〈玉藻の後〉』
『入手:25,000デッド、5,000G、大神殿の鍵』
仕様なのか落下ダメージによる等もなく自然と〈玉藻の後〉から剣を抜きつつ地上へと降り、体の肉が腐食していく姿を見届ける。
「姫チーおつかー」
「なんか息が合っててきたわね私達」
「うんうん、いい傾向いい傾向」
〈玉藻の後〉の背後にあった壁をよく見てみると、3mという高さを誇る大扉になっていた。
鍵が必要みたいだけど、ちょうどドロップした大神殿の鍵で通る事ができるようなのでさっさと開けて入った。
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