第8話 姫とギャルと知略

・現在のプレイヤーの状態

レベル:7

HP:100/100

MP:60/60

最大スタミナ:150

武器:右手【ロングソード】、左手【ナイトシールド】

防具:頭【なし】胴体【姫のドレス】腕【姫の手袋】足【姫の靴】

アクセサリー:【逆転の指輪】

所持アイテム:【エンチャント・雷×3】、【木の矢×5】、【ショートボウ】、【強化石・小×10】、【強化石・中×5】

攻撃力:110

防御力:ダメージ5%カット

所持金:18,893G

保持経験値:100,053デッド



 〈八岐大蛇〉を倒した事で、ボス戦フィールドの中にある閉鎖されていた檻型の扉がガチャンと開く音を立て、通路が開通した。

 そこを通っていくと目の前には鎖で宙吊りになった半径1m程の奥行きがある大きな鳥籠が開いた状態で鎮座していた。


 鳥籠の床部分は埋め立てられたものになっていて、その中央には足踏み型のボタンがある。

 私はそこへと入りボタンを踏んずけた。


 すると、鳥籠の扉が閉鎖し、鎖がジャラジャラと音を立てながらグルグル動き出すと自然に鳥籠は上へ上へと引っ張られていった。

 これは、“リビコン”シリーズ恒例の“アナログ式エレベーター”と呼ばれるモノで、正直仕組みがよくわからないんだけど、奴隷か何かが最下層で鎖を引っ張っているとファンは解釈しているシロモノ。


 しばらくしてエレベーターが最上部に到達すると、鳥籠は開き外に出ることができた。



〈雪の城〉


 

 視界に映ったその景色は……ダンジョン名の通り何故か雪が降り積もる極寒の地であり、少し先にはあらゆる屋根や外廊下が雪を被った真っ白な城だった。



「肌寒い程度に抑えられてるけど寒さは感じるわね」


「多分ゲーム内にデバフとかペナルティがかからないコトは無理に再現しない方向性なんじゃね? あっ、ウチも特に寒さとかは感じてないよ☆」



 本来なら塔の上から繋がるエレベーターに乗るといつの間にか雪の城に辿り着くっていう異様なダンジョン間の繋がりに驚愕すべきなのだけど、私達は既プレイであるせいで大して気にならないのよね。


 ただでさえゲーム内での世界観解説が中途半端でユーザーへの想像任せな部分が強いゲームなのもあって、こればかりは考察勢も匙を投げている意味不明なスポット。なので、あまり意識を回したくはない。


 また、周囲にはエネミーが配置されておらず、城の門の前に“屍石”が配置されていた。

 そろそろ精神的にも休憩したいので、それに触れることにした。

 触れている間はエネミーがいても一切気付かれず攻撃もされず、それどころか初期配置に戻る仕様なので、ここは完全なセーフハウスとなる。



「そうだ、そろそろレベルを上げるべきよね」


「次のボス、結構強いからねー☆」



 もちろん、休む間にもやることがある。

 100,000デッドという大量の経験値の消費だ。

 なまじ“4つの試練”の中で本来は最後に挑むはずのダンジョンなため中ボス大蛇ボス八岐大蛇を倒すだけでもかなりの経験値が手に入った。

 なので、レベルが高ければ高いほどレベルアップに必要な経験値が増える関係上、逆に要求経験値の少ない1桁レベルの今なら40と大幅にレベルを上げられてしまう。豪快過ぎてちょっと楽しい。



「そういえば魔法は使う予定なの?」


「将来的にはちょっとだけ。MAGは14ぐらい欲しいかな」


「わかったわ。あとは前と同じように私の意思でやるわね」



HP(ヒットポイント):12

MP(マジックポイント):8

ST(スタミナ):13+13=26

STR(筋力):12+12=24

DEX(器用):15+9=24

MAG(魔法適性):8+6=14



 ということで、レベルアップによるステ振りはこんな感じにした。

 当然HPは伸ばさないとして、スタミナはより長く走って回避してダメージを食らわない立ち回りができるように最優先で伸ばしつつ、武器の【ロングソード】のダメージ補正にも関わるSTRとDEXはバランス良く、MAGは言われた通りに伸ばしてみた。


 記憶の限りだと〈ナイト〉の初期装備である【ロングソード】は聖剣と呼ばれるほど無難で使い勝手が良い武器で、クリアするまで使い潰せる万能武器だったはず。

 なら、今後はこの武器を意識したステ振りをすべきよね。



「OK。いい感じのステ振り☆」


「そう。なら良かったわ」


「【ロングソード】も強化しちゃって大丈夫?」


「そりゃもちろん。聖剣だから最後まで使うよー☆」



 次に、“屍石”に触れている間に可能なもう1つの事がある。それは武器強化だ。

 つまり、〈蛇ノ巣塔〉攻略の際に集まった強化石という素材を使って、【ロングソード】の攻撃力を上げる事ができる。



『【強化石・小】を2個消費、武器を強化しました』


『【強化石・小】を3個消費、武器を強化しました』


『【強化石・小】を5個消費、武器を強化しました』


『【強化石・中】を2個消費、武器を強化しました』


『【強化石・中】を3個消費、武器を強化しました』


『強化完了:【ロングソード+5】』


『現在攻撃力:300』



 小であれば10個消費して+3まで、そこからは要求強化石が中に変わるので+5まで。

 これで少なくともステータス補正から大体の敵へのダメージは150前後まで強化されたわ。



***


 こうして〈蛇ノ巣塔〉クリア後の調整を終えた後は、ダンジョンを攻略を進行していくことにした。


 

「ここ、普通に歩いたら危険だから安全策でいっくよー」


「またバグ?」



 なんていうか、風川の言う「安全」や「安定」の言葉に何ひとつとして信用がなくなっている。

 バグを使うということは人間の理解を超える現象をこの目で受け止めなければならないということを意味するので、あまり気持ちよくないのよね。



「あ、今回はバグ技ナシだから。そのために買った武器もあるし」


「えっ」



 けど、その不安に不要なものだったた。

 ワァ……『バグ技ナシ』……なんていい響きの言葉なのかしら。



「じゃあ、門をくぐってすぐのところまで歩いたら立ち止まってちょ」


「はいはい」



 その言葉から覚えた安心感の中、私は彼女の指示に従う。

 すると、右手で握っていた【ロングソード】がいつの間にか木で造られた簡素な弓【ショートボウ】に変わっていた。



「〈雪の城〉は最初の門から直進した大扉を開けるとすぐにボス戦なんだけど、その進行を雑魚が邪魔してくるってダンジョンだから、お邪魔役の〈雪の騎士・弓持ち〉を倒すために使うよー☆」



 凄い、実行する前からこれまでの変な挙動からは考えられないぐらいまともな絵面なのが容易に想像できちゃう! 何か楽しみになってきた!



「じゃあ弓構えちゃって」


「こう?」


「それで、そうそう、その方向に向けて矢を放てばいいよ」



 今回の敵は雪を被った城の屋根で大弓を構えている全身甲冑フルアーマーな騎士。それが4体もいるって構成。

 私がプレイしていたときもやけに正確な遠距離攻撃で移動を邪魔されまくって、何回か死んじゃったのを覚えてる。


 最悪ボス戦まで全て走り抜けてもいいのだけど、それだと不要な被弾で死亡するリスクもあるし、なら、全て弓で射抜いて倒してしまうということなんでしょうね。

 その理解の元、彼女が指差す位置に向けて矢を放つ。



「アレ?」



 ……いや、そんな短絡的な予想が的中するほど風川の安定チャートはまともなはずがなかった。

 放った矢は、狙いをつけていた〈雪の騎士・弓持ち〉が立つ屋根から少しズレた窓付近に命中したのだ。



「もしかして外しちゃった……?」


「まあまあ見てなって」



 すると、〈雪の騎士・弓持ち〉は持ち前の弓を背中にしまい込み、腰の剣を抜いたかと思えば矢が刺さった方向へと走り出したのだ。

 しかも、屋根から床まで20mはある中で立ち止まる事なく走り去り、スルッと持ち場から落下していった。



『入手:1,000デッド、200G』


「えぇ……」


「これは仕様だからね」



 所詮現代技術のゲームのエネミー、決められたルーチンに落下死対策が無ければ自分の近くの物音にだけ反応し、そのまま自殺してしまったというカラクリらしい。



「あいつらは弓で1匹ずつ射抜くんじゃないの?」


「いやいや、まともに攻撃当てると全員同時に気づいて蜂の巣にしてくるからこれでちょうどいいのいいの」



 話の通りなら本当にこれが最適解のようね。

 そもそも考えてみたら弓は敵を即死させる火力なんてないし、【木の矢】自体5本しか買ってないんだからこういう使い方しかありえないでしょうが! 何興奮してたのよ私!?


 それからは、同じように残り3体の〈雪の騎士・弓持ち〉の足元より少し下の壁に矢を放ち、剣を構えて走り出してからの強制自殺を誘導、そして成功させた。

 全員が全員、存在しない標的に向かって走り、落下死していった。



『入手:1,000デッド、200G』


『入手:1,000デッド、200G』


『入手:1,000デッド、200G』


「もう呪殺の域よね、これ」


「闇を祓わなきゃ」


「ところで1本だけ余った【木の矢】って何か使い道あるの?」


「それはそのときのお楽しみってことで☆」

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