0-4 電車に乗って大きな駅へ
ちょっとでかけた、千本鳥居で有名な観光地で、俺はカワイイ女の子と出会った。
それでせっかく出会えたこのチャンスを逃すものかと、街の案内を申し出て見事にOKをもらえた。
しかも彼女の名前も聞けて、それで内心浮かれていたらさ。
「それじゃ、いまからどうしましょう?」
なんて、俺に聞いてくれるわけですよ。イイネ!
俺は頭の中であれこれ考えながら彼女を見て、
「ちょっと待ってて!」
駅前にあるコンビニに飛び込んだ。
「?」
彼女は素直に待っていてくれた。
「これ、つけて下さい」
俺はコンビニで買ってきたマスクを渡す。
彼女が不思議そうにキョトンとした顔で俺を見たから、
「やっぱりマスクはつけてないと変な顔をされちゃいますし、それに病気はやっぱり伝染さないようにするのが第一です」
正直断られたらどうやって説得したらいいのか、なんてちょっとシミュレーションしてたんだけど、
「なるほど、『郷に入れば郷に従え』ですね!」
彼女が素直にマスクを付けてくれて、俺はだいぶホッとした。
安心した俺がマスクを付けた彼女を見れば、マスクを付けた彼女も俺を見ている。
やっぱり、マスクのない方がカワイイな。
でも、これは俺が彼女の素顔を独占できたってことでいいよね?
なんだが自慢したい気分になりつつ。
見つめ合うことしばらく。
ごめんなさい、俺何だか照れてきました。どうして黙ってそんなに俺を見つめるんですか?
「えと、」
「はい。次、どうしましょうか?」
ああ、もしかして彼女、俺が今からどうするか言うのを待ってたの!?
「あー、そうですね。
そうだ!」
俺は今更ながらに慌てて頭を働かせ、
「まず、今日の予定を一通りザックリと整理してみましょう。
でもそれなら、こんなところで立ち話もなんですし……そう、そう! ちょっと電車に乗って移動しましょうか。
良いお店を知ってます。美味しいお茶でも飲みながらがいいんじゃないかと」
「美味しいお茶ですか? 飲んでみたいです!」
なかなかの勢いで食いついてきた彼女に。
「それじゃ、ついてきてください。
……っと、電車の乗り方、わかりますか?」
念のため確認すると。
「あはは。
実は、よくわかってません」
おおう、聞いておいてよかった!
「それじゃ、教えますから一緒に切符を買ってみましょう。
あ、電子マネー持ってたりします?」
持っているならチャージすればいいから楽なんだけど。
「あの。
これが使えるはずだと思うんですけれど……」
彼女が取り出したのは、古ぼけた革の財布。開いて見せてくれた中身は、たぶん……10万円くらいありそうだ。つまり、電子マネーはないのね。
でもひとまずこれだけあれば、まあ何するにも問題ないでしょう。
それはそうとして。いろいろ不用心だよなぁ、この娘。
それだけ信頼されてるのかな? まぁ、何だか心配で、どんどん目が離せなくなってくるよ。
「それじゃ。
この券売機のココに、これを入れて。
それで、この『150』を押します」
……
無事に切符が買えました。
手に持った切符を目の前にかざして、いかにも興味津々といったキラキラな眼で、それを見つめる彼女。
この子、表情豊かだよなぁ。だから、こっちも見てるだけで楽しくなってくる。
とはいえ。
「あの。そろそろ電車を逃さないよう中に入っておきましょう」
そして俺たちはホームで少し待つと、やってきた電車に乗る。
自動改札をおっかなびっくり通る彼女も可愛かったけれど、すごく警戒しながら電車に乗るのはサスガにやりすぎだとおもいます。
まさか、電車のない場所から来たわけでも無いでしょうに。
ともあれ、今は電車に揺られる俺たち。彼女はものすごく楽しそうに、車窓を見ている。
ああ、俺たまにテレビで海外の電車から見える風景とか色々放送してくれる番組を最後まで見ちゃうことあるけど、あんな気持ちなのかな?
そして見えてきた終点の駅ビルを見て、彼女が驚いたように目を見開いている。
いや、多分本当に驚いたんだろう。
「つきましたよ、ここで降ります」
ここはさすが街の玄関になるような駅だから、建物も大きいし乗降する人も多い。
離れ離れにならないようにと俺が手を握ったら、彼女がギュッと握り返してくれた。やっぱ、イイネ!
改札を抜けたら、駅を貫く大きな通路をたくさんの人があるいている。
人波のない場所で立ち止まり、ちょっと一息。
俺の前に立つ彼女はあちこち見てるかと思ったら、ワクワクと輝くような眼は想像した通りだったけれど、なんと俺のことをじっと見つめてる。
ドキン!
やばい、この眼は『魔眼』だ。ソシャゲで知ってる。
心を撃ち抜かれた俺のほうが、逆にキョロキョロと視線をさまよわせる。
……よし、落ち着けた。たぶん。
「それじゃ、俺おすすめの喫茶店に行きましょう。
これくらいのまだ朝早い時間からでもあいてるから、意外と重宝するんです」
そして、人混みではぐれないようにまた手を繋ぎ、彼女を先導する。
店はここからそんなに遠くはない。でも、黙って歩く理由もないよね。
それで、何気なく思い浮かんだ疑問を、本当に何気なく口にした。
「それにしても、さっきの財布ずいぶん年季がはいってましたね。お気に入りとかなんですか?」
そしたら、彼女は。
「……これは、パパが残してくれた財布なんです。
それで、一度これが使えるところを訪ねてみようかって思いついたので、こうしてきてみました」
ヤバい、地雷踏んだ!
うわー、俺のバカ。どうしてこんな事聞いちゃったんだ?
「そうですか……」
どう答えていいかわからずに、俺はただそれだけしか言えなかった。
でも、彼女はそのあとこう言ったんだ。
「だから、今日のこの素敵な出会いはパパがくれたのかもしれませんね!」
うわ、健気だ!
振り返ったら見えた、変わらない彼女の笑顔に。
お父さん、安心して下さい! いまから、彼女の笑顔は俺が守ります!!
思わずそんなことを誓ってしまったんだ。
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