零の約束

神宮司マヒロ

第0話 開店

 朝。青年のいつものルーティーンが始まる。

 ふかふかの毛布をどけてベッドから下りるとカーテンを開ける。今日は日差しが差し込むいい朝だ。店の制服に着替えると、パンと牛乳で簡単に朝ご飯を済ませる。今日のジャムはブルーベリーにした。酸っぱさと甘さが丁度よい。同居人の猫と犬にもご飯をやる。このロシアンブルーは小さいときから犬と一緒にいるせいか、きちんと待てができるし、最近はお手も覚えた。賢い猫なのだろうが、時々それを疑ってしまうようなこともある。柴犬……という、この国ではあまり見ない珍しい犬はもっと賢い。警戒心は強いけれど、自分が心を許した相手にならすぐお腹を出す。この青年とはかなり長い付き合いだ、たまにからかわれる時もあるがよく言うことを聞く。


 歯磨きと顔を洗って軽く髪を整えたらもう出勤完了だ。出勤とは言ってもただ1階に降りるだけなので、いつもぎりぎりまで寝ていることが多い。

「ニャー」

 隣に座っていた猫が鳴く。

「行こうか」

 犬も後ろをついてきて下へと降りていく。首輪の鈴が一定のリズムで鳴る。

 店の中と外回りの掃除を済ませ、木のプレートの看板をひっくり返したら開店だ。

「今日はどんなお客がくるかな。楽しみだね」

「ワン!」

 今度は犬が鳴いた。

 鬱蒼とした、けれど穏やかな森にひとり佇む、1人と2匹の店が今日もまた始まる。

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