「ゴキブリと悲しき悪役」みたいな、あらすじ・予告風ストーリー
頭脳明晰、才色兼備な生徒会長「太郎」は、全学年の女子のみならず、多くの男子からもただならぬ熱い視線を注がれていた。しかし彼は誰にも靡かない、謎多き男であった。
実は彼には、ゴキブリしか愛せないという秘密があった。ちなみにゴキブリでさえあれば種類・性別は問わない。
そんな彼は校内の全ゴキブリを救おうと、時折密かにゴキブリを模した仮面を被っては「ゴキ仮面」として活動していた。極悪非道な生徒たちの目から校内のゴキブリを隠し通していたのだ。そのため、生徒だけでなく教師まで、この学校にはゴキブリが生息していないと信じて疑わなかった。
太郎はゴキブリの存在を表の世界から隠すとともに、自身がゴキ仮面であることも完璧に隠しており、生徒会長としての信頼と人気が揺らぐことはなかった。
生徒たちの間では、ゴキブリを救うゴキ仮面の噂が流れていたが、「どうせ都市伝説の類だろう」とみんなほとんど本気にしていなかった。
そんなある夜、太郎はうっかり徹夜でゴキブリ動画を見てしまい、次の日の授業をうとうとと過ごしていた。そのとき教科書を音読しているクラスメートが発した「語気を弱めて……」という言葉に反応して、激しいジャーキング現象を起こし、机を蹴ってしまった。
前の席の生徒は休みだったため、幸い誰にも当たらなかったが、机が倒れ中身が散らばり、机に忍ばせていたゴキブリの仮面とゴキブリ写真集(手作り)が人々の眼前に晒された。
教室中に響き渡る悲鳴。どよめくクラスメートたち。
「ゴキ仮面……そんな……生徒会長が……!?」
「まさか……! あの清潔そうな彼が……!」
「いやあぁぁ!!」
太郎ファンの数人の女子は、あまりのショックに泣き出してしまった。
太郎はクラスメートに背を向け、窓から顔を出して空を仰ぐと、束の間、自らの人生について思考を巡らせた。眠すぎてあんまり頭は回らなかった。
「僕は今までゴキブリたちを皆の目から隠し続け、自身のゴキブリ愛をも隠し通してきた。まるで僕やゴキブリの生き様を恥じるかのように。しかしこんな態度で、本当にゴキブリを愛していると言えるのか?」
「否。僕でない僕を演じ続けて、一体何になるというんだ! ……僕は本当の自分を人々に知られることを恐れていた。自尊心を守るため、完璧な自分を演じてきた」
「今までの表の人生こそが仮面だった。ゴキ仮面でいるときの方が素顔だったんだ。……僕はもう、逃げも隠れもしない!」
太郎はゴキブリの仮面を装着し、ゴキブリ写真集を開いて頭に乗せた。そして高らかに名乗った。
「そうだ。僕がゴキ仮面だ!」
そのとき、校舎のあちこちからゴキブリが現れ、太郎の元へカサカサと集まり始めた。そして太郎を守るかのようにまわりを囲った。
さっきまでとは比べ物にならないほど大きくなる人々の悲鳴。
「ゴキブリたち……! 人前に出てきたら、皆殺しにされてしまうぞ……!」
太郎は焦ったが、考え直す。
「そうか、君たちももう、逃げも隠れもしないのか……!」
そのとき、太郎の体が焦げたべっこう飴色に輝き始めた。
太郎は力が漲るのを感じた。今までゴキブリを守ってきたお礼に、ゴキブリたちからゴキブリパワーを授かったのだ。
「ありがとう、みんな。僕はこれからも君たちを守る!」
人間界に完璧に馴染んでいたかのように見えた彼は突如、人間界を裏切り、世界のゴキブリを守ることを誓った。そしてゴキブリたちと共に窓から飛び出し、姿を消した。
心から愛してしまったもの、愛さずにはいられないものがゴキブリであったが故の悲しみ。世間から忌み嫌われるゴキブリを愛してしまったことを誰にも打ち明けられず、好きなものを誰にも受け入れてもらえずに生きてきた、今までの葛藤と抑圧感情。彼が悪の道に堕ちるのにそう時間はかからなかった。
いや……「ゴキブリを守る彼の正義は歪んでいる」「彼は悪の味方である」と人々の間で囁かれるようになったが、果たしてそうなのか?
良くも悪くも、彼はただ……惚れ込んだ者を全力で守ろうとしただけなのだ。
ゴキがゴキを呼ぶ超問題作、全編フルモザイクで絶賛上映中!(嘘)
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