第22話◆冒険者ギルド職員ユーグランスは定時で帰りたい

 Dランクのダンジョンに新しく見つかった階層は、調査の結果Bランクに制定さた。

 ダンジョン自体はDランクのままだが、そのエリアの入り口には警備が置かれ、そこから先への進入は制限される事になった。もともと、Cランク以下の冒険者向けの依頼が多いダンジョンだった為、ダンジョンのランクを上げてしまうと依頼が回らなくなるからだ。


 新しく見つかったエリアは、Bランク以上の冒険者のみ立ち入れる場所となる。

 あのエリアは、今のところそれ以上先はないようで、俺達が遭遇したレッドドレイクは、あの階層のボスだったと断定された。

 亜竜種と竜種ばかりのエリアで、雑魚はDからCランクが中心だが、BランクのアントロデムスやAランクの魔物であるレッドドレイクが徘徊型のボスで不意に遭遇する事がある為、高めのランク設定である。


 竜系の魔物中心のBランクエリアが発見された事で、素材目的の高ランク冒険者がラウルスに増える事が予想される。

 冒険者が増えるという事は、ギルドの仕事も増える。ギルドの仕事が増えれば、それだけ冒険者ギルドは儲かる。冒険者で町が賑わえば、町の景気もよくなる。

 そして、職員は忙殺される。






 ラウルスのダンジョンで、Bランクの階層が見つかったという噂はすぐに広まり、見慣れない冒険者がギルドを訪れる事も増えた。

 Bランクのダンジョン目的の為、高ランクの冒険者が多い。

 おかげで高ランクの依頼に引っ張りだこだった、エリュオンやキルキル、ラウルス唯一のAランクのテロスは時間に余裕ができ、楽しそうにあのBランクの階層に通っている。

 羨ましいな、おい!

 俺は、冒険者が増えたせいでクソ忙しい。



 んん? いい大人が依頼の取り合いで、くだらないケンカしてんじゃねえ!!

 あ"ぁ"? 素行評価にマイナス棒を付けるぞ!?


 あ? あそこの階層はBランク以下はダメ! パーティーの平均がBでも本人がBじゃないとダメ!! ごねてもダメなもんはダメだ!!


 ん? ダンジョンで野営していたら首なしの騎士を見た? ああ、それはラウルス名物の妖精さんだ気にするな。そのうち慣れる。


 うん、竜の素材の買い取り? すぐに査定するよ。え? 一週間籠もっていた? は? レッドドレイク五匹ここで出していいかって? いいわけねーだろ!! 解体場へ行け!! 解体場へ!!

 ああ、うん。自分で解体するなら、解体場の使用料だけでいいよ。

 ところで、五匹ってどういうこと? へぇ、すごくたくさん入る収納道具だね。これからもよろしく。


 え? ダンジョンで魔物集めて引っ張り回して纏め狩りしている奴がいる? そんな危険な事しているのは、どこのどいつだ!! 特徴を教えてくれ。後で厳重注意しておく。



 とまぁ、人も増えた分受付の仕事も忙しい。持ち込まれる素材も増えて、てんてこ舞いである。

「こんにちは、ユーグさん。ちょっといいですか?」

 そして、最近忙しいのはコイツのせいでもある。

「また、君か。全然よくないから、そろそろ諦めたまえ」

「えー、今日こそはいける気がするんです。昇級試験お願いします」

 あの魔物使いの少年である。


 あれ以来、あのパーティーはラウルスを拠点にするようになり、毎日ギルドの依頼を複数こなしてくれるDランク帯の稼ぎ頭で非常に重宝している。

 重宝しているのだが、あの少年、ことあるごとに昇級試験と言って俺に挑んでくる。

 クソ忙しいのに、仕事を増やさないでくれるかな!?

 最初のうちは瞬殺だったのだが、だんだん腕を上げてしぶとくなり始め、時間もかかって面倒くさい。

 面倒くさいからもうCにしちまうか? いや、もうちょっと鍛えてやるか。



 以前より輪をかけて忙しいのだが、これもギルド職員の宿命だと思うしかない。

 はー、早く管理職になって奥に引っ込んでふんぞり返っていられるようになりたい。

 いや、それよりもまずは仕事を片付けて、今日こそ定時に帰るのが目標だな。



「ユーグさーん、役所からハトが来てますよー」

 ん? この時間に? 明日分の人員は全部埋めて、午前中に名簿は送っただろ?

 明日以降の依頼かな?


 は?


 明日Dランク以上十五人追加!?!?!?

 ふざけんな!! どこにそんなに人がいると思ってるんだ!?!?


 あー、片っ端から冒険者に声をかけるしかないな。

 今日も定時上がりは無理かもしれない。

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