真実について
今日、テレビ番組がやらせであったと騒がれていた。
僕の好きなドキュメンタリーだ。
あんな感動的な話が嘘だったなんて。
僕は何も信じたくない気持ちになった。
仕方がないので、町の歯医者さん、白瀬先生と話すことにしよう。
「先生、僕はもう何が正しいのかわからないよ」
僕が肩を落とすと、先生は僕に笑いかける。
「完全に正しいことはないのだよ。僕が信じている科学という考え方からですらね」
僕は不思議に思った。
正しくない科学とは何なのだろう。
「少し難しいかもしれないね。科学によって導きだされた結論というのは、どこか間違えているかもしれないんだ。科学ではそんな可能性を認めて、正しいことと考えるんだ。僕はそれを誠実だと思って信じているんだよ」
僕は少し考えた。
「正しいけど、間違えているかもしれないってこと?」
先生は大きくうなずく。
「そう。僕は、いや僕たち科学者は絶対に正しいことは、おそらくないだろうと思っているんだ。つまり、君の何が正しいかわからないという疑問は正解なのかも知れないね」
今日の先生はためになる。
そして僕はもしかしたら科学者に向いているのかもしれない。
そう思っていると、先生の電話がけたたましく鳴った。
電話の向こうから、男の人の怒鳴り声が聞こえる。
だけど先生は落ち着いていた。
「君は僕が借金を返すと思っているようだが、絶対に返すとは限らない。そもそも、借りたということが確かでない可能性だって、いくらかあるのだよ」
はははと先生は笑って電話を切った。
僕も科学を勉強しよう。
〜絶対的な真実があるなら、ある一定のところで科学の進歩は止まっている〜
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