第34話 白と黒 〚守護霊〛

 


 昨夜は、堀の件で邪念が入ったのか、似顔絵を見ても犯人の男の素性はわからなかった。

 ただ、山城が細かく描いた特徴――ほくろ、痣、そして高そうな腕時計は俺の記憶にもハッキリ残っている。


 文字盤に【HUBLOT】というロゴ。

 なんて読むのか。

 ネットで検索したらビッグバンという時計で、蛇柄が特徴のそれは、9年前に本数限定で発売されたようだった。

 それを持っているということは、よほどの金持ちかコネがある人間か。

 滋岡が言っていた“身内に大物”はほぼ間違いなさそうだ。


 学校へ行くと、三年生の間では、堀が行方不明だとして皆が噂していた。


「弓道部の堀って、確か、長野朝美のことが好きだっただろ?」

「今度は部の後輩だってよ、夜中に出掛けるとかどんだけ」

「神社の娘って可愛いのか?」


 やっぱり、皆、色恋の方を話題にしている。


 帰りのHR前、山城リリが俺の教室を訪ねてきた。


「橋本先輩ちょっといいですか?」


「あぁ」


 そんな彼女を周りの連中が好奇に満ちた視線で刺す。


「あれが神社の娘って」「え、フツー、てか地味」


 それを気にした様子もなく、山城が難しい顔をして話した。


「朝から父が警察に被害届け出したようなんです。堀先輩のご両親も捜索願いも出されたみたいで」


「ラインで顧問が言ってたね」


「で、父から連絡があって」


「なんて?」


「警察は藁人形や、灯油が撒かれたくらいじゃ動けないと言ったそうです」


「脅迫の文書もあっただろ?」

 

「それ、父が撤去した藁人形と一緒にお焚き火にあげちゃったんです」


 おいおい、と言いたかったが、その時点で神主は事が大きくなるとは思ってなかったのかもしれない。


「じゃ、堀が見張って事件に巻き込まれた可能性については?」


 山城が首を横にふる。


「せめて防犯カメラでもあったら良かったんですけど、それはお賽銭箱の所にしか設置してなくて」


 今にも泣きそうな彼女は恐らく眠ってないのだろう。顔色が悪い。


「そうか。そのお賽銭箱のカメラに何か映ってないのかな」


「一応、警察にそのデータは渡してます」


「それ、俺も見れる?」


 山城が顔を上げた。


「もっと、親身になって山城の話を聞いていれば良かった。今日は部活ないし学校終わったら神社に行ってもいいかな」


 我ながら呆れる。

 また、厄介な事に足を突っ込んでしまいそうだ。




 境内に行き、まず、藁人形が打ちつけてあった木の所へ霊視に出掛けた。

 神聖な木に無残な釘跡がいくつもあった。


「藁人形はもう全て処分したんだっけ?」


「はい」


「それに、ターゲットの写真とか名前を書いた紙とか一緒に打ち付けてなかったのかな?」


「父が見たのは髪の毛だったようです」


「で、もう昨日からないんだな?」


 山城が頷く。

 七日通しで出来たのか、それとも堀に見られたからやり直すのか。

 生霊でも死霊でもない。

 ここに残っているのは、怨念と執念のみだろう。

 それでどれだけのことが感じ取れるのか。

 一番、真新しい被害樹に手を当てて、何か視えないか探ってみることにした。


 しかし、思ったほど怨念は感じない。

 藁人形も処分したからか?

 俺は目を半開きにして、脳をスクリーン状態にする。

 堀の消息の手掛かりになるものが視えないか神経を集中させた。


 堀 賢吾――彼は無事でいるのか?

 もし、事件に巻き込まれたなら、誰が彼を行方不明にしてるのか?


 俺は離れている彼の守護霊に話しかける。

 本来、霊視とは守護霊にヒントを貰うものなのだ。

 生年月日や、姓名や字画で何かを言い当てるなんて、それこそインチキくさい。

 ようやく。


 ――視えてきた。


 堀を取り囲む複数の手。

 奴を拉致したのは、一人じゃない。

 しかも皆、同じような白い着物を纏ってとても気味が悪い。何かのカルト集団か?

 おまけに、


「蛇……」


 不意に、山城リリの声が聞こえてハッとする。


「そういえば、脅しの紙に、赤い蛇の絵が描かれてました」


「そうか、俺も今それが視えてた」


 蛇に何の意味が?

 確かにボンヤリと木に巻き付く赤い蛇が視えた。


「堀先輩は無事なんでしょうか?」


「あぁ、奴が暗いどこかに閉じ込められてる姿が見えた、今のところ生きてるみたいだ」


 奴がここから連れ去られたのは間違いないようだ。







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