第33話 白と黒 〚彷徨う理由〛
雑誌を閉じスマホを確認したら、堀の件で顧問から再びメッセージが送られていた。
【後輩の家に嫌がらせをする犯人を説得しようと、夜中に神社に行ったかもしれないと情報が入りました。神社にも協力してもらい、明日、警察に被害届と捜索願いを出すとのことです。堀くんの目撃情報、引き続き宜しくお願いします】
山城が顧問に連絡したんだろうな。
神社なんて言ったら、皆、彼女の家だってわかってしまう。
堀の安否より、二人の関係のほうが噂になるだろう。
そもそも、堀はなぜ、神社に行った?
あいつは、山城リリのことが好きなんだろうか?
だから、危険を冒してまで夜中に″丑の刻参り″するものを戒めようと行ったのか?
いや。
あいつにはそんな度胸はない。
藁人形で呪いをかける人間の掟も知らないのだろう。
やっぱり、馬鹿だ。
そして、そんな奴を気にして眠れない俺も、相当の馬鹿だ。
「千尋の友達の堀くんが行方不明なんですって?」
保護者にも連絡が回って来たのか、翌朝、母さんが心配そうに尋ねてきた。
「ただ、遊びに行ってるだけかもしれないけど」
「しかし、無断外泊するような子じゃないだろう? あそこの家庭はちゃんとしてる。夫婦揃って公務員だし」
父さんも新聞から目を離して割り入ってきた。公務員って関係あるのかな? と思ったが何も言わず、朝食のトーストをかじった。
「母さん、俺、主食は米がいい」
「こんな時に呑気な子、前は″朝はパン!″って言ってたのに」
「それ中学生の時だろ」
「そうだった? 貴方の中学生の時がどんなだったかあんまり記憶がないのよね。あまりにデキすぎた子だったから」
その時すでに己の運命を感じ始めて、皆が通る反抗期も素通りした。
思えば、親の手を煩わせたり、感情をむき出しにして訴えたこともない。
“朝はパン”くらいだ。
「千尋も気をつけろよ。どんなに治安のいい国とはいえ拉致や誘拐はあるからな」
父さんがやや険しい顔になった。
不動産業を営んでいれば、表沙汰になってない住人の蒸発や行方不明事件なども耳に入ってるのかもしれない。
A子のことをそれとなく訊いてみた。
「この前、教えてくれたマンションの、遺体で発見された若い女の人って、子供いなかった?」
「なんだ、そんな前の事件が気になるのか?」
珈琲を啜った父さんの顔が渋くなった。
「だって、あのマンション、人が入らないと大変なんだろ?」
「あ、そうそう、あの被害者の女性は元々あのマンションには住んでなかったんだ。近くの古いアパートに娘さんと暮らしてたようでな」
「アパート?」
近くにあったか?
もし、あったなら、何故、俺は何も感じなかった?
よほど難しい顔をしてたのか、父さんが俺の顔を覗きこんで言った。
「今はないぞ、数年前に取り壊されて更地になってる」
「そう……」
だから、A子は彷徨ってるのか?
娘がいたアパートを探して。
「じゃあ、子供は誰か引き取ったのかな」
ボソッと言ったつもりだったが母さんには聞こえていて、「そんな見ず知らずの子供より堀くんのこと心配しなさいよ」と、俺を窘めた。
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