第23話 未解決事件 [デリヘル嬢殺人事件]
俺の問いに反応したのは、おばあさんの霊だった。
ただ、そこに居座ってるだけの無害な霊。
建物と建物の間の湿った薄暗い場所や階段には、こういう霊が溜まりやすい。
「そう、今はここにはいないんだね、どっちに向かったかわかるかな?」
おばあさんが繁華街の方を指した。
「ありがとう」
無気力な手が、不意に俺の腕に触れた。
――冷たい。
そこから体温を奪われていくのがわかる。
「喉、渇いたの? 水でいい?」
しかし、おばあさんはお酒が良いと言った。そして、頭が痛いと。
「あぁ、ごめんね。俺の持ってるお札のせいかな」
俺が持ち歩いてる護身用のお札は、それなりに効果があるようだ。
「俺、まだ未成年でお酒、買えないんだよ。おばあさんが生きてた頃と違って法律が厳しくなったんだ。代わりにエナジードリンクで我慢してな」
俺は、マンション敷地内にある自動販売機から一番量の多い飲料を買って、タブを開けておばあさんの前に置いて行った。
繁華街に向かいながら、リンゴジュースにしとけばよかったかな、と思った。
繁華街は迷路のように込み入り、そして広い。
先ほどの泣いていた霊を見つけるのは、なかなか困難を極めた。
なぜ、死んだ場所から離れてこんな所をさ迷っているんだ?
俺を誘い込んでいるのか?
先ほど少しだけ霊視したマンションの殺人現場から、壮絶な惨殺シーンは見られなかった。
ということは、泣いていた女は、あそこで殺害されたわけではない?
時間があれば、あの場所での過去の事件を検索し検証することも出来るが、本来、今日の俺の目的は母の為に花を買うこと。
時間は限られていた。
なので、その時は、女の霊を見つけられずそのまま買い物の方へと移った。
家に戻って、母さんの和やかな誕生日祝いを終えた後、ネットであのマンションであった事件をパソコンで検索してみた。
――これだ。
およそ、今から九年前。
当時の新聞や週刊誌の記事がまだ多く残っていた。
【迷宮入りか――デリヘル嬢殺人事件 】
あの場所で遺体で見つかった二十代前半の女性。
名前はA子さんと伏せられている。
彼女がデリバリーヘルスで働いていた為、あまり事件はメディアで取り沙汰されてなかったようだが、彼女を絞殺した犯人は未だに捕まっていないという。
事件後、彼女が接客した男が逮捕されているが、誤認であったとして直ぐに釈放。
その事もあり警察が本気を出して捜査しなくなったのではないか、と記事に書かれていた。
俺は、あの時に感じた女の ″悲しみ ″ から、犯人は逮捕されることもなく、のうのうと生きてるんだろうな、と思った。
ただの行きずりの犯行なのか。
それとも、計画的にA子を狙ったものなのか。
そして。
なぜ、この事件にこんなに関心を持ってしまうのか。
それも探求すべく、当時の新聞記事に載ったマンションの写真を霊視してみる。
しかし、何も感じられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます