第22話 未解決事件〚殺人現場?〛
* * *
――ちょっと、可哀そうだったかな。
山城を振り切った俺は、しょげた彼女の表情を思い出すと少しだけ胸が痛んだ。
しかし、藁人形くらいなら神社で処理ができるはずだし、場所が場所なだけに過去にも同じような事例があったはずだ。
俺の出る幕はない。
それに。
俺は、家――不動産屋である父――が扱っている物件で、非常に気になるものがあり、それのことばかり考えていた。
なかなか入居者が決まらない、いわゆる、“事故物件” ってやつだ。
先日の日曜日。
俺は父さんと、母さんの誕生日プレゼントを買う為に車で出かけていた。
父さんは記念日だとかを大切にする節があり、この日も、「銀婚式にちゃんとできなかったから」と、プラチナのアクセサリーを購入予定だったようだ。
俺は、きっと、これが母に贈る最後のバースデイプレゼントになると思い、むしろ形に残らない花を買おうかなどと考えていた。
「千尋、この近くに俺と母さんの結婚指輪を買った店があるんだ。一緒に来てみるか? いつかの日の為に参考になるかもしれないぞ」
父さんがからかうよな目つきで俺を見る。
俺を、奥手のシャイボーイだとして心配してることの裏返しだ。
「いつかの日ってなに? それより、俺、角の花屋に行きたいんだ。近くで降ろしてくれる?」
俺はそれをも、淡々とした口調でぶった切る。
「あ、あぁ。駐車場は……あ、うちのマンションの所に停めるか。あそこは空き部屋多いから平気だろう」
「入居者、少ないの?」
「ん。ワケアリのマンションだからな」
父さんが軽く溜息をついて駐車したそこには、ドンヨリとした氣が溜まっていた。
あまりの重さに息苦しさを憶える。
「……ここ、何か事件あった?」
車から降りて、少し近寄るとマンションのある場所に霊のたまり場を見つけた。淀んだ暗さに加えて、すえた死臭のようなものも仄かに感じる。
これは霊感のある者しかわからないだろう。
父さんもあえて見ないようにしてるのか、視線をモール街の方に向けたまま答えた。
「……何年も前のことなんだけどな。遺体が見つかったんだ。殺された女性の」
「部屋で?」
「いや、非常階段の踊場だ」
そこも含めて、マンションの裏側には浮遊霊や地縛霊たちが数体集まっている。
「ま、そんなこと気にしてたらこっちは仕事にならんからな。一時間後を目安にこの駐車場で落ち合おう、じゃあな」
老舗の宝石店へと向かう父さんを見送った後、俺は、そのマンションへと近づいた。
気のせいではなく、女の悲痛な泣き声が聞こえたからだ。
霊を見ても怖さなど感じない俺は、今までも散々、向こうから近寄ってきた。
その度に結界を作り、関与しないようにしてきたけれど――
なぜか、今日は自ら近寄った。
頼まれもしないのに霊の為に動くなんて、霊能者でもやらないだろう。
しかし、このマンションから漂う、無念に近い悲壮感を放ってはおけなかった。
俺は遺体のあったと言われる現場の前で、先ほど聞こえた泣き声の主を探した。
そこには声とは関係のない霊体が蠢いていたので、心の中で尋ねてみた。
″ここで泣いていた人、どこに行ったか知らない?″
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