「今日も遅いって」

 夏海はカレーを少し味見して、これでよし、と納得する。

「お兄ちゃん。夕食の準備、よろしく」

「ああ…」

 言われるままにスプーンなどを準備する翔也。

 あとは、夏海が切って盛り付けた野菜の皿をそれぞれのところに並べる。

 炊飯器のご飯の炊けた音が鳴り、夏海は大きな皿にご飯を載せ、カレーをそのままかける。

「いい匂いだな」

「まぁ、出来立てだからね…」

「でも、春でも寒い時期のカレーはいいからな」

「そうだね」

 七海は自分の分まで注ぎ終わると、翔也は自分の皿を両手で受け取り、零れないように両手で支えて、テーブルに持って行く。

 席に座り、翔也は夏海が座るのを待つ。

 夏海は、二人分のコップを洗い、冷蔵庫からお茶を取ってテーブルに並べた。

 その後、カレーを載せた皿を自分の席に置き、席に座る。

「いただきます」

「はい、どうぞ召し上がれ」

 翔也が手を合わせて言うと、夏海は笑顔で返す。

 二人はそろってカレーを食べる。

 ご飯とカレーが絶妙に混じりあって、それぞれの味を生かしている。

「なぁ、夏海」

「何、お兄ちゃん?」

「もしもだ、もしもの話だぞ」

「あ、うん…」

 翔也は念を押して訊いてみる。

「仮にお前に彼氏ができたら、今頃どうしている?」

 カン、カラ——

 と、夏海はスプーンを落とす。

「お兄ちゃん、彼女でもできたの⁉」

「おい…。誰が、誰に、彼女が出来たって言った?」

「え、ああ…。そうだね…」

 夏海はスプーンを拾い上げ、ティッシュで床とスプーンの汚れをふき取る。

「でも、私に彼氏が出来たらお兄ちゃんはどうする気?」

「あ? お前に彼氏なんてできないだろ…。まず、俺と倒産が認めん!」

「どういう意味よ! って、お父さんだったら想像できるかもね」

 夏海は呆れて、ため息を漏らす。

「でも、学生時代に付き合うカップルって、大抵が別れるらしいよ」

「へぇー、やっぱり、甲斐性がないと無理みたいな感じか?」

「……」

 夏海は黙ったまま、じっと見る。

「な、なんだよ…」

「いや、あまりにも夢を見ない人だなぁと思って、私が言いたかったのは、大人の恋と子供の恋は違うってことだよ。まぁ、お兄ちゃんの場合、相手はあの三人の中にしかいないんだけどね…」

「あの三人って…三咲達の事じゃないだろうな? 分からないだろ? 他の女子を好きになるかもしれないし…」

「三咲?」

 夏海は翔也の言葉を聞き逃さなかった。

(これって…もしかして……)

 夏海はカレーを食べながら、今日の翔也の言葉や態度を振り返りながら、自分なりに推理してみる。

(なるほど…。おそらく、今日は三咲ちゃんと一緒にいたのね)

 夏海は、言葉にはしなかった。

「それでも私には、あの三人の内、誰かがお兄ちゃんの彼女になってくれたら、私的には楽なんだけどな…」

「さーな。もう何年も、まともに会話していないのに、今更はないだろ…。俺、食べ終わったから先に部屋に戻るわ」

 翔也は席から立ち上がる。

「え⁉ はやっ‼」

 夏海はびっくりする。

「いやお前がぼー、として食べているからだろ?」

 夏海は自分の皿を見る。

 まだ、半分以上も残ったカレーが少し冷めていた。


 部屋に戻った翔也は、お風呂に入る準備をし、再びリビングに顔を出す。

「先に風呂入るわ」

「うん。いいよ……」

 夏海は振り返らず、テレビを見ながらカレーを食べている。

 翔也は扉を閉め、洗面所を通り、脱衣所で服を脱いでお風呂に入る。

 体を洗い、お湯につかる。

「はぁああ……」

 熱いお湯は、翔也の体を包み、湯気で視界が見えにくくなる。

 今日の事、これからの事、頭の中は空回りするようで、すぐにのぼせてしまいそうになる。

(やっぱり駄目だな…)

 翔也はすぐにお風呂を上がり、寝間着に着替え、自分の部屋に戻り、そのままベットに潜り込んで眠りについた。

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