Ⅷ
「今日も遅いって」
夏海はカレーを少し味見して、これでよし、と納得する。
「お兄ちゃん。夕食の準備、よろしく」
「ああ…」
言われるままにスプーンなどを準備する翔也。
あとは、夏海が切って盛り付けた野菜の皿をそれぞれのところに並べる。
炊飯器のご飯の炊けた音が鳴り、夏海は大きな皿にご飯を載せ、カレーをそのままかける。
「いい匂いだな」
「まぁ、出来立てだからね…」
「でも、春でも寒い時期のカレーはいいからな」
「そうだね」
七海は自分の分まで注ぎ終わると、翔也は自分の皿を両手で受け取り、零れないように両手で支えて、テーブルに持って行く。
席に座り、翔也は夏海が座るのを待つ。
夏海は、二人分のコップを洗い、冷蔵庫からお茶を取ってテーブルに並べた。
その後、カレーを載せた皿を自分の席に置き、席に座る。
「いただきます」
「はい、どうぞ召し上がれ」
翔也が手を合わせて言うと、夏海は笑顔で返す。
二人はそろってカレーを食べる。
ご飯とカレーが絶妙に混じりあって、それぞれの味を生かしている。
「なぁ、夏海」
「何、お兄ちゃん?」
「もしもだ、もしもの話だぞ」
「あ、うん…」
翔也は念を押して訊いてみる。
「仮にお前に彼氏ができたら、今頃どうしている?」
カン、カラ——
と、夏海はスプーンを落とす。
「お兄ちゃん、彼女でもできたの⁉」
「おい…。誰が、誰に、彼女が出来たって言った?」
「え、ああ…。そうだね…」
夏海はスプーンを拾い上げ、ティッシュで床とスプーンの汚れをふき取る。
「でも、私に彼氏が出来たらお兄ちゃんはどうする気?」
「あ? お前に彼氏なんてできないだろ…。まず、俺と倒産が認めん!」
「どういう意味よ! って、お父さんだったら想像できるかもね」
夏海は呆れて、ため息を漏らす。
「でも、学生時代に付き合うカップルって、大抵が別れるらしいよ」
「へぇー、やっぱり、甲斐性がないと無理みたいな感じか?」
「……」
夏海は黙ったまま、じっと見る。
「な、なんだよ…」
「いや、あまりにも夢を見ない人だなぁと思って、私が言いたかったのは、大人の恋と子供の恋は違うってことだよ。まぁ、お兄ちゃんの場合、相手はあの三人の中にしかいないんだけどね…」
「あの三人って…三咲達の事じゃないだろうな? 分からないだろ? 他の女子を好きになるかもしれないし…」
「三咲?」
夏海は翔也の言葉を聞き逃さなかった。
(これって…もしかして……)
夏海はカレーを食べながら、今日の翔也の言葉や態度を振り返りながら、自分なりに推理してみる。
(なるほど…。おそらく、今日は三咲ちゃんと一緒にいたのね)
夏海は、言葉にはしなかった。
「それでも私には、あの三人の内、誰かがお兄ちゃんの彼女になってくれたら、私的には楽なんだけどな…」
「さーな。もう何年も、まともに会話していないのに、今更はないだろ…。俺、食べ終わったから先に部屋に戻るわ」
翔也は席から立ち上がる。
「え⁉ はやっ‼」
夏海はびっくりする。
「いやお前がぼー、として食べているからだろ?」
夏海は自分の皿を見る。
まだ、半分以上も残ったカレーが少し冷めていた。
部屋に戻った翔也は、お風呂に入る準備をし、再びリビングに顔を出す。
「先に風呂入るわ」
「うん。いいよ……」
夏海は振り返らず、テレビを見ながらカレーを食べている。
翔也は扉を閉め、洗面所を通り、脱衣所で服を脱いでお風呂に入る。
体を洗い、お湯につかる。
「はぁああ……」
熱いお湯は、翔也の体を包み、湯気で視界が見えにくくなる。
今日の事、これからの事、頭の中は空回りするようで、すぐにのぼせてしまいそうになる。
(やっぱり駄目だな…)
翔也はすぐにお風呂を上がり、寝間着に着替え、自分の部屋に戻り、そのままベットに潜り込んで眠りについた。
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