タイムカプセル―ヒマワリの花言葉―

植原翠/授賞&重版

◆序章

 夕方の空に入道雲が浮かんでいる。ツクツクボウシの悲しげな声に混じって、カラスが鳴く。帰り道を急ぐ僕らは、ヒマワリ畑の一本道を、四人でかけっこした。

 帰る家が近づいてくると、ふいに、倉田が立ち止まった。僕らも足を止めると、彼女は言った。

「大人になっても、またこうして遊べるかな?」

 お転婆な倉田らしくない寂しげな声に、面食らったのだろう。お調子者の相川が、わざとおどけた声で言う。

「どうかな、俺、将来は総理大臣になってる予定だから、忙しくて遊んでる余裕ないかも」

「相川くんがその夢を叶えられるかどうかはさておき、大人になったら皆、この村を出てばらばらになっちゃうかもしれないよね」

 倉田が苦笑で返す。と、俺の横でひらりと、黄色いスカートが翻った。

「じゃあ、タイムカプセル、埋めようよ」

 彼女の提案に、倉田も相川も、俺も、そちらを振り向く。彼女は、はにかみ笑いで言った。

「大人になったら掘り返しにくるって、約束しよう。どこにいてもなにをしてても、その日は必ず、四人でここに集合するの。そうすれば、また会えるでしょ?」

 真夏の夕焼けが彼女の頬を照らす。こだまする蝉の声、夏の匂い。あの日の君の笑顔は、やけに脳裏に焼き付いて消えなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る