タイムカプセル―ヒマワリの花言葉―
植原翠/授賞&重版
◆序章
夕方の空に入道雲が浮かんでいる。ツクツクボウシの悲しげな声に混じって、カラスが鳴く。帰り道を急ぐ僕らは、ヒマワリ畑の一本道を、四人でかけっこした。
帰る家が近づいてくると、ふいに、倉田が立ち止まった。僕らも足を止めると、彼女は言った。
「大人になっても、またこうして遊べるかな?」
お転婆な倉田らしくない寂しげな声に、面食らったのだろう。お調子者の相川が、わざとおどけた声で言う。
「どうかな、俺、将来は総理大臣になってる予定だから、忙しくて遊んでる余裕ないかも」
「相川くんがその夢を叶えられるかどうかはさておき、大人になったら皆、この村を出てばらばらになっちゃうかもしれないよね」
倉田が苦笑で返す。と、俺の横でひらりと、黄色いスカートが翻った。
「じゃあ、タイムカプセル、埋めようよ」
彼女の提案に、倉田も相川も、俺も、そちらを振り向く。彼女は、はにかみ笑いで言った。
「大人になったら掘り返しにくるって、約束しよう。どこにいてもなにをしてても、その日は必ず、四人でここに集合するの。そうすれば、また会えるでしょ?」
真夏の夕焼けが彼女の頬を照らす。こだまする蝉の声、夏の匂い。あの日の君の笑顔は、やけに脳裏に焼き付いて消えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます