我が儘な私の最後の我が儘

神崎 紗奈

*

「ごめん、私たち別れよっか。」

 唐突にそんなことを言いだした私に、私の恋人いっくんこと東条とうじょう郁也いくやくんは、心底驚いたような顔をした。それもそうだ。今まで私たちに別れの予兆など微塵も感じられなかったのだから。誰がどう見ても仲の良い、幸せカップルの私たちがまさか別れるなんて、誰が想像できただろう?別れを切り出した私が言うのもなんだが、私たちがまさか別れるだなんて思ってもみなかった。しばらく返答に困っていたいっくんも、ようやく言われたことの意味を理解したようで、一言。

「なんで?」

 まあ、それが普通の反応だよな。でも、何でと言われると、少し難しい。うーん、単純に言うならばこう。

「いっくんは、多分私じゃない人といたほうが幸せになれるよ」

 しかし、それを聞いていっくんは訝しげな表情を浮かべた。

「意味が分かんない」

 わかんなくったっていい。そもそもわかってもらおうだなんて思っていないのだから。これは私がいっくんに言う最後の我が儘。本当は別れたくなんかないし、今でも大好き。もっとずっと一緒に居たいし、なんなら結婚して、子供も作って、幸せな家庭を作っていきたい。しわしわのおじいちゃんおばあちゃんになるまで、死ぬ時までずっと一緒に居たい。…だけど、きっといっくんは私といたら幸せになれない。だから私は、別れを選ぶ。

『貴方の為に私は別れを選ぶ』だなんて言えば聞こえはいいが、実際はただの私の自己満足。だけどそれでいい。例えそうだったとしても、いっくんには私を忘れて、他の人と幸せになってほしいんだ。私じゃあ、いっくんを幸せにすることはできないから。寧ろいっくんを苦しめてしまう。…いつ死んでもおかしくない私なんて。

 いっくんは私のことを一途にとても愛してくれていて、本当に私にぞっこんだから、きっと私が突然貴方の前から姿を消したら、貴方はいつまでも私を引きずってしまうでしょう?いっくんはとっても素敵な人だから、こんな私なんかで一生を無駄にしてほしくないんだ。貴方はもっと幸せになれるよ。私よりも可愛くてもっと性格もいい子が絶対にいるはずだから。いっくんに私は勿体ないよ。かっこよくて優しくて面白くて気が利いて、本当に完璧ないっくんだから、もっと完璧な女の子とお似合いのカップルで今よりずっと幸せになれるはずなんだ。こんなことを言うと、いっくんはきっと「俺の幸せを勝手に決めつけるな」って怒るんだろうけど。でも大丈夫。いっくんの頭の中から私がいなくなれば、必然的に別な人との幸せを見つけられるから。だから早いうちに私は、いっくんから離れないといけないんだ。いっくんがこれ以上私を好きになる前に。…なんて、自惚れ過ぎかな。でもあながち間違いじゃないと思ってるんだ。これでもいっくんとずっと一緒に居たから何となくいっくんのことはわかるんだよ。だからね、ばいばい、いっくん。私のことは忘れて、別な誰かと、幸せになってね。


 …大好きだった、いや、いつまでも大好きだよ。

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我が儘な私の最後の我が儘 神崎 紗奈 @kanzaki_03s

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