1:今日までの話


昨日の学校帰り、俺は疲れていた。というか多分貧血だったんだと思う。周りの人からしたら多分、くまのすごい学生がふらふらと歩いて苦しそうに見えたと思う。こんな今にも倒れそうな学生を誰も助けてくれないという事実に泣きそうになった。俺だからだったかもしれないが。

その帰り道、私服姿の女子高校生がとても苦しそうに屈み、苦しそうな(苦しい)俺を見ていた。

「……水、」

何か言おうとしていた。

「ね…………水」

何か言おうとしていた。

「…………くださぃ」

「は?俺?」

「…そう………水ぅ……」

「水が飲みたいのか?なら自分で買えば―」

俺だって誰にも助けて貰えなかったんだ。

「…動けない…」

「って言っても俺の飲みかけしかないぞ?」

ここで助けようとする辺り自分の優しさを感じる。

「…いい、」

「いい?」

「…それでいいから、」

「いや、でもな」

「…いいから!」

学校指定品のバッグから水筒を取り出し、渡した。すると勢いよく飲み始めた。ゴクゴクゴク、ふわぁ(?)

「ありがと…」

言うと、水筒を渡してきた。

「いや、別に」

彼女は立ち上がると覚束ない足取りで去っていった。

このときの俺はこの重大さに気づかなかったようだが…これ、間接キスだよな?

*

昨日彼女と出会った場所で彼女と会った。昨日と同じく私服姿だった。

「昨日、私助けたね」

なぜか少し片言に聞こえた。

ところで、俺は何処で人を助けるということを学んだのだろうか。

全く、常識とは都合のいい言葉だ。

「常識でしょ」とか「常識的に〜」とか「なにそれキモ。常識知ってる?亅とか。最後のは友達が言われたらしい。(俺じゃないから。ホントだよ!)

例えばアインシュタインはこんなことを言う。

「常識とは十五歳までに身に着けた偏見である」

もし彼が天才(常識)でなかったとすれば、果たしてその言葉は今にまで残る言葉になっていただろうか。いや、それは屁理屈であると片付けられたであろう。それにしても、こういうふうに言ってしまうとアインシュタインが天才だということはただの偏見になってしまうな。いや、アインシュタインは天才だなんて称号は求めていなかったのかもしれない。なんていうのも現代を生きる人間の理想でしかないのだろうか。

「なんか変?」

変って何が?俺?俺だったら泣くんだけど。

「間接キスまでした仲なのにそんなこと言うのか」

「間接キスって言うなっ」

「何歳?」

単純に年下に見えたからだ。

「いいよ」

そう言うと彼女は学生証を取り出した。てか、いいよって答えになってないだろ。

学生証にはえーっと

氏名:胡桃 奏(クルミ カナデ)

在籍学年及びクラス(年齢):第2学年7組(17)

年下じゃなかった。ちなみに俺も2-7。

住所:ほにゃらりゃ

ほにゃりゃりゃりゃりゃ

上記の生徒を尚武高等学校の生徒として認める。

同じ学校かよ…

こんなやつ見たことないぞ。

「ね、いわゆる不登校なんだよね亅

なんて急展開。

「いつから?」

「去年の夏」

結構前からだな。

「不登校の理由は?」

「言わないけど、」

「けど?」

「なんでもない」

「はぁ」

「名前。名前は?」

「あぁ、」

こっちは名乗らずじまいだったな。俺は彼女と同じように学生証を取り出して、見せた。

氏名:如月弥生

(以下略)

それにしても俺の名前適当すぎないか。

「ふーん、"ジョツキ"か」

「は?」

「いやだから、名前」

「は?」

「だからここに書いてある……キサラギって…まあ、うん…」

「お前マジか」

馬鹿だった。

「いやっ、別に忘れてただけだし」

「お前さあ忘れたって言ってもふりがな振ってあんだろ…」

馬鹿だった。

「如月…嫌い」

理不尽すぎるだろ…あとそんな可愛く言われちゃうとあれだろ、うん。(真顔)

「まああれだ…確かにかっこいい(?)な…ジョツキの方が、多分…」

「そうっ、そうなの!かっこいい!から!私!ジョツキって呼ぶ!かっこいい!」

いや、もう誤魔化しきれてないって…

しかも俺の名前ジョツキになっちゃってるよ…誰だよ…

「ところで、ジョツキは、さ、学校、行ってる?」

「行ってるぞ。しかもお前と同じ学校同じ学年同じクラスでな」

「えええぃ、そうなの?」

えええぃなんて驚き方するやつ初めて見たわ。えええぃ!(驚き)

「どんな人がいる?学校」

「どんな人、ねぇ」

「どんな人っ!」

「えええぃ、急に大声出すなよ…」

あと、言い方。一歩迫ってくる感じ。

「なにそれっ、ジョツキ、驚き方変!」

あれー?同じ驚き方したはずなんだがなあ。

「どんな人っていわれてもなあ。お前が学校来れば、わかるんじゃねーの」

「………ジョツキがそう言うなら、行ってみるのもありかな?」

「かな?って聞かれてもな―」

「決めた。一日だけ、学校行く」

「無理すんなよ?」

「だいじょぶ、」

ちなみに次の日、彼女は学校に来ていない。(正確には入れていない)

-the end of episode1-

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