第2話
うち2機は、大きく左右に迂回すると速度を上げると先行する。
残った1機は、速度を落とし高層ビルの脇へ身を潜める。
レーシングカーを思わせるコックピットで、濃紫色のパイロットスーツ姿の男が、正面下部のコントロールパネルに表示された四肢のバランサーの数値を一瞥する。
濃紫色のヘルメットの空いたバイザーから覗いた赤髪に隠れるように、額の傷跡が見える。
「……応急措置は問題ないようだな……むッ!?」
ふと、正面モニター内の右下に『Emergency』というラベルが点滅しているのに気付く。
クリックし、『Sound Only』と表示されたサブウィンドウが表示される。
『こちら、旗艦『モスクワ』CCRです。』
「どうした?」
『はッ!露西亜連邦側の接収部隊の再編を待たずに、中華大国側が第二派の先遣隊を派遣した模様です。グレゴル中尉。』
「何だと!?」
『哨戒ドローンの情報から中華大国の新型
CCRからの報告にグレゴル中尉……もとい『赤狼』は眉を顰める。
「……現在、露西亜連邦の第一波は
『ご認識の通りです。露西亜連邦の第一波が引いた後、中華大国が
「……完全に露払いだな……
『接収後……ですか?』
「判らんか?」
『恐れながら……』
「
『あ……』
「駐留部隊の維持は中華大国との合意が前提だが……中華大国に兵站を依存している時点で中華大国の意向は無視できないだろうな……」
『……仮に1個大隊を駐留させようとしても、中華大国から1個中隊分の物資しか準備できないと通告されれば……不足分は露西亜連邦側で確保する必要がありますね……』
「……補給物資を本国から
『……今から露西亜連邦独自で補給線の構築は不可能……詰んでますね……』
「……我が軍が中華大国に良いように使われている現状からの脱却は、容易ではないだろうな……」
眉を顰めた時、アラートが鳴る。
「なんだ!?」
『照会ドローンからのアラートです。情報解析します……10分……いや3分でやります。』
「頼む」
『『赤狼』、前方に展開している中華大国の新型機群が交戦しているぞ。』
「『銀狼』……それは本当か!?」
『どうやら、1個中隊を相手取れる戦力が、まだ
「『黒狼』からも確認できる規模か……」
『少なくとも、この戦闘で確認出来る戦力から
「仮に大兵力が残存している場合、露西亜連邦側の
『分析結果、でました!』
「報告してくれ。」
『はぁッ!?……こ、こんなことが……』
「どうした?」
『先行した中華大国の第二派先遣隊の1個中隊ですが……ぜ、全滅した模様です……』
「なんだとッ!?……それほどの大戦力が残っているのか?」
『いえ……どうやら
「2機だと!?……何かの間違いではないのか?」
『いえ。哨戒用ドローンからの映像を解析したところ、濃蒼色の装甲をした
「濃蒼色の装甲だとッ!?……まさか……『
『ちょっ……ちょっと待ってください!『
「……第一波の先遣隊である我々が引いたのも『
『……』
ごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。
「『銀狼』『黒狼』……早々にリベンジができそうだな」
『……そうだな』
『ああ……本領を発揮した俺達の敵ではないことを示す良い機会だ。』
『お、お待ちください。ズーバルト閣下から今回の任務は、あくまでも偵察と聞いて……』
「偵察は偵察でも、威力偵察だ。多少の戦闘は発生する。」
『しかし……』
「『ケルベロス』の名誉挽回の機会でもある。ズーバルト閣下には、任務遂行中と報告してくれ。」
『……承知……しました……』
「『銀狼』『黒狼』いくぞ!」
『おおよ!腕が鳴るぜ!』
『……中華大国の1個中隊との戦闘直後だ。この機を逃さず仕掛けるぞ。』
「『銀狼』了解だ。」
コックピット正面のコンソールを操作し、通信回線の設定を表示する。
「作戦行動への移行に伴いオープンチャネルから専用回線へ切り替える。」
タッチパネル上の設定を『Open Line』から『Private Line』へ変更する。
『赤狼』の宣言の後、オープンチャネルでの音声が途切れる。
『……健闘を祈ります……』
オープンチャネル上では、オペレータの声が虚しく響いた。
◆◇◆
◇◆◇◆
黒い
たなびく黒煙が徐々に広がっていく様子が、全天周囲モニターに映し出されている。
「……まるで煙幕だな……」
『否定はしませんが、周辺に敵影は確認できないので無視していいかと……』
「ふむ……俺なら、この機に乗じて仕掛けるがな。」
『……オーレン大尉……フラグを立てるのやめてもらえますか?』
「おいおい……フラグって言うほどのことか?フレディ中尉」
『戦場では、くだらないジンクスほど馬鹿にできない……オーレン大尉の
「……そんなこと言ったっけな……」
『欧州での
「わかった。わかった。一旦、この場から退くぞ。」
『奇襲を警戒するなら障害物が多い、市街地への後退ですか?』
「いや……見晴らしのいい丘陵地帯だ。」
『……意外ですね。』
「
『なるほど……市街地はゲリラ戦に特化した……例えば先般の特務仕様ASULT GRIFFONの方が有利ってことですか。』
「そういうこった。
全天周囲モニターに『Enemy Encounter Alert』というラベルのサブウィンドウが表示される。
サブウィンドウに周辺マップとともに赤いマーカーが3つ表示される。
「……と言ってる傍から手遅れってか……」
『えっ……それは、どういう……あッ……』
「そっちも表示されたか?」
『Deva systemからのフィードバックだと、接近する敵機は3機……』
「……まだ生きている
『承知しました。』
◇◆◇◆
遠目に黒い
たなびく黒煙が徐々に広がっていく様子がレーシングカーを思わせるコックピットの正面モニターに映し出されている。正面モニター右下に『zoom 200%』と表示されている。
「1kmまで接近したな……各機、光学迷彩機能を有効にしろ。」
『おおよ!』
『了解だ。』
「まるで煙幕だな……熱源が多すぎるな。赤外線センサーは意味がないか……」
コックピット正面のコントロールパネル横に配置されている、各種センサーへの切り替えボタンを見ながら独り言ちる。
『手っ取り早く、光学迷彩を有効にしたまま突貫をかけるってのはどうだ?回避のために飛び出してきたところを『赤狼』と『銀狼』で仕留めるってのは『短絡すぎるな……黒煙が光学迷彩を無意味にする。』」
「……市街戦に持ち込めればいいが……」
と、たなびく黒煙を散らしながら2機の濃蒼色の
「ッ!?……動いたか……しかしこれは……」
『罠だな』
『……俺でも罠だと分かるぜ……』
「……」
『……追わない訳にはいかないのが辛いところだな……』
『……市街地手前の丘陵地帯での戦闘になるな』
「……三方向から囲むように接近後、仕留めるしかないか……」
『こちらが取り得る選択肢を狭める戦術を取れる奴が敵ってことだな……『赤狼』『黒狼』覚悟を決めるしかないようだな……』
「市街地手前で仕掛ける。あくまで一撃離脱のみだ……深追いはしない」
苦虫を嚙み潰しながら『赤狼』が方針を示す。
『承知した……ではお互い健闘を祈る』
『おうさ!』
「では、仕掛けるぞ!」
コントロールパネル横に配置されている、表示されているエネルギーゲージを拡張するボタンを押し込む。8段階あるエネルギーゲージのうち、現在3段階目にあるものを6段階に引き上げると両腕で持つ操作レバーを引く。
鈍い駆動音が徐々に甲高い金属音に変わっていく。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥン キィィィィィィィィィ
直後、アスファルトで舗装された道路を陥没させる大きな音が3つ続き、静寂さが訪れた。
◇◆◇◆
2機の濃蒼色の騎士型機動兵器アーム・ムーバーが市街地へと通じる6車線の幹線道路を疾走する。その巨体に似合わない速度での移動にもかかわらず、地響きは意外なほど発生していない。
「……丘陵地帯は、幹線道路から離れた場所にあるか……」
『あからさまですが……誘いに乗ってきますかね……』
「こちらの残存戦力を測る威力偵察なら、乗らざるを得ないだろうさ……」
『だといいのですが……あ、敵機の反応がLostしましたね。』
ちらりと『Enemy Encounter Alert』というラベルが上部についたサブウィンドウを見やる。
周辺マップのみが表示され、赤いマーカーが消えている。
サブウィンドウ右側のペインに『Enemy Losted』というレコードが表示されている。
「……第3勢力による迎撃……だと嬉しいが……光学迷彩とか使ったんだろうな……」
『
「光学迷彩使われていると、赤外線も意味ないからな……
オーレンは『Arm-Claise Extra-Function Activated』というラベルが上部についたサブウインドウの『Menu』から『
『
『
『
『
『
続けて、オーレンは『Arm-Claise Extra-Function Activated』というラベルが上部についたサブウインドウの『Menu』から『Option』を選択後、表示された機能一覧から『Sonar Search』を選択する。サブウインドウに順次ログが出力されていく。
『
『Defaultで60秒間隔でのSonar探査を行います』
『Sonar探査の結果は、『Enemy Encounter Alert』にフィードバックされます』
ちらりと『Enemy Encounter Alert』というラベルが上部についたサブウィンドウを見やる。
周辺マップのみが表示され、赤いマーカーが3つ表示される。
「あ、囲まれてるわ……フレディ中尉、3時の方向から突貫くるぞ。迎撃よろしく。」
『えっ!?オーレン大尉が対処するんじゃないんですか?』
「いっつも俺が対処しているとフレディ中尉の見せ場がないからさ……よろしく!」
『……はいはい。わかりました。やりますよ。』
棒読みで応答するフレディ中尉にむかって、オーレンが苦笑する。
「
言いかけたとき、全天周囲モニターに映し出されている僚機が濃蒼色の光の弓で矢を番えていた。言い切る前に、濃蒼色の光の矢が続けざまに5本放たれる。
「あ、被弾したっぽいな……他の2機は、侵入コースを変更して距離をとったか。」
フレディ中尉の
「光学迷彩が解けたか……コックピットに直撃でもしたか……」
『そのようです。他2機はどの方向ですか?』
「あー……各々、逆方向に俺達を取り囲むような動きで移動してるな……」
『……流石に警戒しますからね。
「まあな……情報を持ち帰られる前に……」
言いかけたとき、アラームが鳴り響く。
『Enemy Encounter Alert』というラベルが上部についたサブウィンドウを見やる。
周辺マップのみが表示され、赤いマーカーが2つに加えて新たな赤いマーカーが近づいているのが視界に入る。1つの赤いマーカーを先頭に、無数の赤い点の集合体が近づいている。
「あ……新手みたいだな……」
『……これは……どうしましょうかね……』
全天周囲モニターを見ると、接近する巨大な
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