第二幕

第1話

 四足歩行の漆黒の起動兵器アーム・ムーバーと騎士型起動兵器アーム・ムーバーがオフィス街の道路上で対峙している。濃蒼色の騎士型起動兵器アーム・ムーバーの後方には、円錐型の巨大な騎槍ランスを下段に構えたもう1機の騎士型起動兵器アーム・ムーバーが控えている。


 漆黒の起動兵器アーム・ムーバーは鷲の上半身をかがめ、青白く輝く4対の巨大なブレードの後ろの2対を折りたたむ。折りたたむ際に青白い光が消える。

 

 濃蒼色の流線形のプレート・メイルのような装甲を装備した騎士型起動兵器アーム・ムーバーは、右腕に持つ円錐型の巨大な騎槍ランスを前方に向ける。


 西洋騎士鎧の兜のような頭部の額部分から角のような1本のアンテナと、目のようなデュアルカメラが特徴的だ。

 両腕には横長の八角形の厚みのある手甲を、両脚には脚を覆うように円錐形の脛当てが装備されている。両脚の外側には両刃の剣が鞘ごと取り付けられている。


 5本爪のバックラーが装備されている左腕を前面に構える。

 濃蒼色の手甲を2周りほど包み込むような流線形のバックラーに描かれている羽根のような模様が漆黒の起動兵器アーム・ムーバーに向けられる。

 

「……何故に人工幻夢大陸ネオ・アトランティカで露西亜連邦の主力機動兵器ASSALT GRIFFONと遭遇戦せにゃならんのか、意味わからんのだが……」


 騎士型起動兵器アーム・ムーバーのコックピット内で濃蒼色のパイロットスーツに身を包んだ鳶色の髪の男がぼやく。バイザーを上げたヘルメットから覗く無精ひげを右親指で弾く。

 全天周囲モニターの前面に映し出されている、鷲の上半身を持つ漆黒の機動兵器アーム・ムーバーを鳶色の瞳でねめつける。


「とは言え、こいつすばしっこいんだよな……まずは牽制に兼ねた攻撃で削るかな。隙があれば一気に畳み込むが……」

 

 リクライニングシートの肘掛に実装されたマニピュレータを操作し、自身が駆る蒼虎騎兵アジュール・アームに円錐型の巨大な騎槍ランスを構えさせる。

 騎槍ランスを持つ右腕を引かせ、バックラーが装備された左腕で騎槍ランス前方をつかませながら蒼虎騎兵アジュール・アームの上半身を右にひねさせる。

 

 前面モニター中央下部に『Sound Only』と表示されたウィンドウがポップアップで表示される。

 

『オーレン大尉、ぼやくのはクライアントからの依頼達成後にしませんか?』


 見ると、『フレディ=サイ』というラベルがウィンドウ上部で確認できる。

 

「……フレディ中尉、お小言は、こいつを無力化した後にしてくれ。」


『では、実務的な話を……過去の戦闘記録アーカイブと照合したところ、目の前のASSALT GRIFFONは威力偵察用の機体だと判明しました。』


「ん?……偵察用の機体だったらなんか問題あんのか?」


 言いながら、オーレンはリクライニングシート前方の両脚を乗せているペダルを踏み込み、乗騎を前方へ加速させる。

 騎槍ランスの間合いに入ったところで、前面のモニターに映る漆黒の機動兵器アーム・ムーバーの鷲の上半身にパーセンテージと共に赤いマーカーが複数表示される。


『28%』『24%』『23%』『13%』『12%』


「有効な攻撃箇所を提案する『ARES』の機能だったか?あんまり、参考になんねぇなこれ。」

 

 ぼやきながら、右にひねった蒼虎騎兵アジュール・アーム上半身を左回転させる。

 同時に、構えた円錐型の巨大な騎槍ランスを勢いに任せて、赤いマーカーが表示されていない漆黒の鷲の頭を目掛け突き出す。


 直線的な騎槍ランスの軌道に対し、漆黒のASSALT GRIFFONは一瞬身をかがめ、最小限の動きで左に避ける。


「フッ……かかったな。」


 オーレンは、ニヤリと笑みを浮かべリクライニングシートの左右のマニピュレータを器用に操作する。と、躱されたはずの騎槍ランスが螺旋を描くように突き出される。


 ギギギギギギギギギギギギギギ


 見切った騎槍ランスとの距離が急に変わり、ガラスを鋭い刃物で引っ搔いたような音を立てながら漆黒のASSALT GRIFFONの首から背中にかけてを削る。

 オーレンが駆る蒼虎騎兵アジュール・アームの重量を騎槍ランス越しに受けた漆黒のASSALT GRIFFONがバランスを崩す。


 ギギギギギ……ガンッ

 

 騎槍ランスで削るために最接近した状態で、漆黒のASSALT GRIFFONを蒼虎騎兵アジュール・アームの左膝で蹴り上げる。

 

『あー……そう言えば、オーレン大尉は見かけによらず技巧派でしたね。通常の8割増しの機動力を備えた目の前の機体ASSALT GRIFFONに初見で対処されると注意喚起しがいがないですね……』


 フレディの呆れた声に含まれる無視できない言葉へオーレンは目を剥く。

 

「はぁッ!?通常の8割り増しの機動力だぁ!?」


 マニピュレータを操作を操作しつつリクライニングシートのペダルを踏み込み接近し、膝蹴りで態勢を崩したASSALT GRIFFONの脇腹に騎槍ランスを打ち込む。


 が、騎槍ランスが打ち込まれる直前でASSALT GRIFFONは四肢で道路を蹴る。

 無理やり中空に浮かぶと同時に青白く輝く2対の巨大なブレードを羽根の様に広げ、撃ち込まれた騎槍ランスを逸らす。その反動でオフィスビルに前脚と後脚を突き立て、即座に後方へ飛ぶ。

 道路へ着地の衝撃で亀裂を穿ちながら器用に左右ジグザグに移動し、オーレンが駆る蒼虎騎兵アジュール・アームと距離を取る。

 

『まあ……今のような回避不能な攻撃もその馬鹿げた機動力で、回避出来るわけでして。はい。』


「何だ今のは!物理法則無視してんだろ!反則だろ!なんなんだこいつは!?」


 思わず激高するオーレンにフレディは、努めてマイペースで応える。

 

『あー……だから威力偵察用……つまりRUCIA露西亜連邦中央情報部の専用機です。』


「はあ!?……RUCIA露西亜連邦中央情報部だあ!?」


『ええ……まあ……機体照合データと比較すると、更に強化されてそうですね。これ。』


 淡々と受け応えるフレディに、オーレンは毒気を抜かれる。

 

「……ところでなんで、RUCIA露西亜連邦中央情報部が極東まで出張ってきてんだ!?」


『……私に言われても困りますが、我らの参謀が言うにはRUCIA露西亜連邦中央情報部は、中華大国の企業の用心棒的な活動と要人暗殺を請け負っているそうです。』


「……出稼ぎでもしてんのか?」


『出稼ぎですか……面白い解釈ですね。』


「面白くねぇよ……」

 

『……個人的な感想ですよ……まあ、今回の睦月グループの代表権保持者の暗殺防止依頼を我々が請け負ったのも、先々に想定されている対露西亜連邦戦の情報収集の一環でしたから好都合ではありますがね。』


「作戦行動前のブリーフィングでも聞いたが……我らが参謀の予想は当たんのか?」


原国家体制連盟フェストゥーン合理的国家の巨大同盟および関連議会ギャラルホルンに宣戦布告する件ですか?』


「ああ……あまりにも現実離れしすぎてないか?対魔獣戦でそれどころじゃねぇと思うが……」


『表面上の情勢だけみれば、その通りですよ。』


「表面上?」


『ええ……中華大国は、幻想洞窟ダンジョンが発生する以前に進めていたゴビ砂漠緑化計画で偶然、とある鉱物資源の鉱脈を探り当てていたそうです。』


「中華大国?鉱物資源?……宣戦布告とどう関係するんだ?その話。」


『まあ、聞いてください……中華大国の探り当てた鉱物資源が機動兵器アーム・ムーバーの性能を飛躍的に向上させる動力源として使えると、近年の研究結果で証明されたそうです。』


「はぁッ!?」


『我々が駆る機動兵器アーム・ムーバーの性能とほぼ同等に近いものを開発・量産可能な埋蔵量があると試算されたことが判明しているそうです。』

 

「……その話が事実だとすると……」


『ええ。開発された試作機は、中華大国国内の対魔獣戦を通じて十分な性能テストがされているはずですから、そのテストデータを基にした量産機が既に多数ロールアウトしている場合……』


「……既に原国家体制連盟フェストゥーンは戦力的に合理的国家の巨大同盟および関連議会ギャラルホルンを上回ってるから宣戦布告して勝利するだけの根拠があるってか?」


『……プロパガンダ的には、一昔前の南北問題のように合理的国家の巨大同盟および関連議会ギャラルホルンが不当に集積・独占する富によって国家間の格差が発生していると謳ってはいますがね。』

 

「もし、中華大国の技術や動力源となる資源が露西亜連邦側へも渡っているとなると……」


『今、我々がが対峙しているこいつASSALT GRIFFONは、蒼虎騎兵アジュール・アームを上回る性能を有していることになりますね。』


「はっ!おもしれじゃねぇか!」


『……オーレン大尉、クライアントからの依頼を達成することが優先です。『睦月グループ』の代表権保有者の暗殺を防ぐことが目的であってこいつASSALT GRIFFONの無力化は目的ではりませんよ!判っていますか?』


 オーレンの口調に不安を覚えたフレディは、若干、合わせたように強調する。


「……判ってる……判ってますよ……」


『……絶対、判ってないでしょう?』


 何処か気もそぞろに応えるオーレンの口調に対し、前面モニター中央下部に『Sound Only』と表示されたウィンドウから、フレディの呆れた声が聞こえた。


 ◆◇◆◇

 ◇◆◇◆◇ 


「……やってくれるじゃねぇか……」


 レーシングカーを思わせるコックピットで銀髪の男は、正面モニターに映る濃蒼色の騎士型機動兵器アーム・ムーバーを睨む。


 正面下部のコントロールパネルからは、四肢のバランサーの数値が異常値を示しており、異常を訴える警告音や機体の損傷個所を伝える画像が表示されている。

 

「……たしか、蒼の騎士団の主力起動兵器アジュール・アームだったか?」


 呟きながら、正面下部に機体の損傷個所が表示されているコントロールパネルを見やる。コントロールパネル上部の『Auto Adjust』というボタンを押す。

 正面下部のコントロールパネル上に表示された四肢のバランサーの数値の自動補正され警告音が消える。

 コントロールパネル横に配置されている、表示されているエネルギーゲージを拡張するボタンを押し込む。8段階あるエネルギーゲージのうち、現在3段階目にあるものを5段階に引き上げると両腕で持つ操作レバーを引き、機体を立ち上がらせる。


『『銀狼』聞こえるか!?『蒼の騎士団プリメーラ・クロイツ』は後回しだ。先に標的を「判ってる!!」』


『赤狼』の声を途中で遮るとつづける。


「標的優先なのは判っている。だが……こいつがそう易々と道を譲ってくれそうに見えるか?」

 

『……見えねぇな……』

 

 少しの間を置いて『赤狼』が応答する。

 

「……蒼虎騎兵アジュール・アームを撃破することを目的とはしねぇよ。適当なところで切り上げて、標的の暗殺に向かうさ。」


『……判っているならいい。』

 

「まあ、個人的には原国家体制連盟フェストゥーン合理的国家の巨大同盟および関連議会ギャラルホルン機動兵器アーム・ムーバーのどっちが強いかには興味があるがな……』


 言いながら、ニヤリと犬歯をむき出しにて嗤うと、両手で握る操作レバーを外側に押し込む。

 これまで操作レバーを動かしていた『Gear2』という表記がある可動域を『Gear5』という表記がされた可動域へ動かす。『Gear1』から『Gear8』の表記がある可動域の溝から濃紫色の光が漏れる。

 それに合わせて、漆黒の機動兵器アーム・ムーバーの背に展開されている、2対の巨大なブレードの輝きが青白色から濃紫色の光へと変わる。同時に漆黒の機体が薄紫色の光を放ち始める。

 

「さて、ここからが本番だ。このASSALT GRIFFON HELLの本当の力を見せてやる。欧州最大の幻想洞窟ダンジョンを討滅したという『蒼の騎士団プリメーラ・クロイツ』の機動兵器アーム・ムーバーの性能で足掻いてみな!」

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