幕間4

 上部にある薄緑色のタブに『Video Conference System』という白字が表示された透明な表示板ディスプレイに、くすんだ金髪をオールバックにセットした初老の男性の顔が映し出されている。

 強い光を宿す蒼い瞳と彫りの深い容貌、映像越しに写るスーツの上からも筋骨隆々とした体格が伺える。額に横一文字の生々しい。


『Mr.本田。我が国は、今、未曾有の危機に瀕している。睦月グループによるホーイング社への資本参加に北米連合が同意した意味を考えてもらいたい。』


「それは、十分に理解していています。大統領プレジデント


『結構だ。では、ダンジョンシフト・シフトプランの試金石ともなる、北米連合東海岸に位置するワシントンから魔獣共の支配より奪還する『オペレーション・サンライズ』への参加を認めよう。』


「ありがとうございます。閣下。」

 

『以降の作戦遂行については、双方から出し合った担当者間で進めるとしよう。』


「承知しました。」

 

 映像が黒に変わり、薄緑色のタブに『Video Conference System』という白字が表示された透明な表示板ディスプレイが消える。

 

 同時に、本田はマホガニー製の椅子に深く身体を預ける。

 

「ワシントンからの魔獣共の駆逐……そして、ワシントンを含む北米連合の主要都市の奪還が作戦の骨子か……」


 マホガニー製の机の天板に設置されているルービックキューブのような形の箱から機械音的な声が発せられる。


『秘書室からのボイスメールが届きました。再生しますか?』


「再生」

 

『本田北米連合支社長……先ほどの議事メモを所定のフォルダへ格納いたしました。ご確認をお願いいたします。』


 少し、舌足らずな声が用件を本田に伝える。


『もう一度、再生しますか?』


「いや。終了」


『ボイスメールの再生を終了します。』


「……通常であれば、無謀な作戦計画になるのだろうな……」


 独り言ちながら、マホガニー製の重役机の天板に置かれたタブレット端末の画面に掌を乗せる。


 5本の指を乗せた画面上に5つの円が表示され指紋をスキャンする。

 5つの円がランダムで濃緑色に変わり、画面上部に『Authentication : OK』の文字が表示されると開いたままの電子報告書が切り替わった画面に表示される。


 タブレット端末の画面から『議事録確認用』という名前のフォルダをクリックし、秘書から連絡のあった議事録を見返す。


「……この内容で問題ないな。」


 嘆息し、目を閉じる。


「……檜山……ようやくここまできたぞ。もう少しだ……」


 独白めいた呟きの後、目を開くと、タブレット画面を操作し、最小化していた電子文書のアイコンをクリックし、再表示させる。

 

『TAT-X-007G』というタイトルの報告書には、人型の起動兵器アーム・ムーバーの正面と背面図とともに、装着可能な兵装の種類が記載されている。

 サングラスのようなメインカメラが実装されている頭部は、三角錐に似た形状をしている。胸部から腰に掛けては、流線形のプレート・メイルのような装甲が装備されている。両腕には横長の八角形の厚みのある手甲を、両脚には脚を覆うように円錐形の脛当てが装備されている。


「この量産型1機でさえ、北米連合の技術では製造はおろか開発さえできない……か」


 タブレット端末の画面をスワイプさせながら、報告書の頁を捲っていく。

 

「接近戦用の兵装は……高周波ブレードを鞘ごと両脚の脛当ての外側に装備。追加兵装として、左腕の手甲に5本爪型のブレードを備えたバックラーを装備可能……オリジナル蒼虎騎兵アジュール・アームの基本設計のみを継承した指揮官機か……」


 タブレット端末の画面をスワイプさせながら、報告書の頁を捲っていく。


 『TAT-X-007S』というタイトルの報告書には、人型の起動兵器アーム・ムーバーの正面と背面図とともに、装着可能な兵装の種類が記載されている。

 サングラスのようなメインカメラが実装された頭部は、半球に似た形状をしている。

 胸部から腰に掛けては、流線形のハーフプレート・メイルのような装甲が装備されている。両腕には横長の六角形の厚みのある手甲を、両脚には脚を覆うように円錐形の脛当てが装備されている。


「接近戦用の兵装は……高周波ブレードを鞘ごと右脚の脛当ての外側に装備。追加兵装として、両腕の手甲に3本爪型のブレードを備えたバックラーを装備可能……こちらも、オリジナル蒼虎騎兵アジュール・アームの基本設計のみを継承した汎用型か……」

 

 タブレット端末の画面をスワイプさせながら、追加兵装の説明が続く報告書の頁を捲っていく。


「指揮官機と汎用機で構成された1個大隊分……1000機をOEM提供可能か……」

 

 そして、報告書を捲る手を止め、報告書の最初の頁に戻ると表示された記述を見つめる。


『タイトル:北米連合への軍事物資および戦力のOEM提供に関する提案』

 

『提案元:セトニクス・エレクトロニクス』


『提案先:睦月グループ 北米連合支社 PMC事業本部』


「『セトニクス・エレクトロニクス』……確か、昨年までホーイング社のチーフエンジニアをしていたカルラ=マンリオ=加藤が在籍していたな……」

 

 少し、思案気な表情を浮かべるとマホガニー製の重役机の天板に載っているスピーカーに向けて声を掛ける。


「『セトニクス・エレクトロニクス』の現状をまとめた報告書があれば、閲覧許可を」


『承知いたしました。検索後、お持ちのタブレットへ報告書のリンクを送付いたします。』


「……確か、タイムーンコーポレーションの完全子会社だったな……」


 呟きが消えようとした時『セトニクス・エレクトロニクス』に関する報告書リンクが送付されたことを示す通知がタブレット端末の画面に表示される。


 通知されたリンクから開いた報告書を開く。


「これは……」


 セトニクス・エレクトロニクスの組織構成と顔写真付きで表示された関係者の名前がまとめられた報告書の一部に視線が釘付けになる。


「久間……だと?……本当に……お前……なのか?」

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