輝煌
キザなRye
第1話 転入
「お前ら、席着け」
先生の言葉の後で私は教室に入った。
今日から新しい学校での生活だと私はワクワクしていた。
お父さんの仕事の関係で急遽転校を余儀なくされて少しだけ不満もあるが、新しい場所での生活が楽しみという気持ちの方が強かった。
先生が私のことを説明している間、教卓の隣に立って教室全体を見ていた。
そのときに
目が合った瞬間に私の胸の奥がぎゅんと締め付けられるような感覚がした。
その子のことならいつまででも見ていられる気がした。
私の一通りの説明が終わり私は席に着いた。
私の胸の奥を締め付けてきた彼は斜め前の席にいる。
隆史くんというらしい。
彼の近くに来ると鼓動が速くなってしまう。
何か余計な緊張感がある。
私がこの時期の転校生ということもあって周りには人集りが出来ていた。
知らない人が見たら私がグループを束ねる長のように見えなくもない。
どこから来たの、何人兄弟か、好きなものは何か、私のことをあれこれ聞かれる。
着実に私の新たな友達が誕生し始めているのだと感じて嬉しい気持ちになった。
最初は女の子ばかりが集まってきていたのだが、代わる代わるで人が変わっていくうちにぽつぽつと男の子も現れてきた。
そこに隆史くんはいないかなと無意識のうちに探していた。
ただ隆史くんは自席で本を読んでいた。
残念だ。
あれ、何でそんな風に思ったのだろう。
まだ教室に来て十分も経っていない。
現時点では数少ない名前と顔が一致している人のうちの一人というだけに過ぎないはずだ。
“一人だけ特別”とか出来るほどクラスの人を知らない。
それでも隆史くんは目が合った後から頭のどこかにずっと残っている。
授業が始まるとクラスは急に静まり返り、私の周りに集まってあれこれ聞かれたのが嘘みたいだった。
どうやらオンとオフの切り替えをしっかりとする人ばかりで構成されたクラスらしい。
前の学校ではこれの数倍から数十倍程度はガヤガヤとしていた気がする。
皆が黙々と授業を受けているが、隆史くんはそれを凌駕するくらい真面目に授業を受けていた。
後ろから見ていても分かるくらい真剣な眼差しで授業に参加している。
物事に真剣に取り組む人って良いなと隆史くんの方を見る。
そうやって見ていると授業の内容が左から右にそのまま抜けていってしまう。
ダメだ、聞かねばともう一度授業に私の意識を戻すが、再び視線が隆史くんの方へ行ってしまう。
授業後には私の近くの人から授業に集中出来てないことを指摘されてしまった。
私だって授業をちゃんと受けたいのに私の脳裏に隆史くんがちらついてしまう。
そのせいで隆史くんの方に視線が向いてしまって授業どころではない。
何だか本能的に隆史くんを見てしまっているようにも感じられる。
結局、朝から放課まで授業中は隆史くんに視線が行ってしまって授業を受けていられなかった。
しかも一日の終わりに近づくほど隆史くんの方ばかり見てしまっている。
授業を受けるという本来の目的に邪魔されなければずっと見ていたいとまで思えてくる。
いつまでだって見ていられる気がする。
「今日来た転校生の子、朝は真面目そうな子だなって思ってたのに全然授業聞いてなかったんだよね。」
「えっ、そんな子がうちのクラスにいるの。ただの迷惑だよな。」
「ほんとにそういうのやめてほしい。」
私には聞こえないようにしていたつもりなのだろうけど聞こえてしまった。
私だって出来ればちゃんと真面目に聞いていたい。
私は前の学校では嫌われるくらい真面目ちゃんだったのに私の奥の何かが、多分胸の奥を締め付けてきたのと同じのが私を不真面目な人に変えてしまった。
でも隆史くんをずっと見ているときは幸せな気持ちになれる。
いつまでだって見ていたい。
今日はもう見れないのかと思うと何だか悲しくなってしまった。
明日も学校に来れば会えるよねともう既に明日の学校が楽しみになっていた。
輝煌 キザなRye @yosukew1616
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。輝煌の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます