05-06 『と或る探偵助手の休日①』 Side:Asuka

 「いらっしゃい!おっ、飛鳥君じゃないか!」


威勢のいい声が僕を呼び止める。

振り向くと、八百屋のおじさんがピーマンを片手にこちらに向かって手を振っていた。

もう70代前後になるのだろうか、シワの深く刻まれた顔は田舎のお爺ちゃんを彷彿とさせる。


 「お久しぶりです、お元気ですか?」

 「もちろん、元気がなきゃ商売やってけないよ。今日は何か買ってくかい?」

 「えぇ、じゃあそのピーマン1つ下さい」

 「まいど!ハーゼちゃんのためにオマケも付けとくわ。あの子は肉詰めにすると喜ぶんじゃないかい?」

 「あはは、ありがとうございます」


そんな会話を繰り広げながら、僕は行き交う人々に視線を向けた。


平日の昼間だというのに、商店街は今日も、というか来る日も来る日も賑わっている。

毎日こんな感じなのだろうか。だとしたら商店街の人達は相当大変そうだ。

しかし疲れた素振りは一切見せないほど、いつ来てもこの空間は活気に溢れていた。


ここで育った師匠が明るい性格になった理由も、今なら何となくだが分かる。

今日僕がここに来たのは、情報収集の為……ではなく、単に暇つぶしの為だった。

誰にだって休息は必要だ。それに、師匠にはきちんと許可を取ってある。


あとは夕飯のための食材を買えると一石二鳥なのだが。


 「……ん?」


ふと、異常なまでの人だかりに囲まれたお店が視界に入る。


十字路の角に位置するあのお店は、たしか……

お店に近づくと、「飛鳥くん!」と誰かの叫び声がする。

あまりにも唐突すぎて、声の主が僕を呼び止めているという事を理解するのに数秒かかってしまった。

人混みの視線が僕に向く。

その合間を縫って、僕に向かって手招きしている店主――肉屋のおばちゃんが見えた。

こっちに来いという事だろうか。恐る恐る近づいてみると、美味しそうな匂いが肺いっぱいに吸い込まれる。

コロッケでも揚げているのだろうか、カウンターの奥からはパチパチという音が聞こえる。


 「え、えっと……お久しぶりです」

 「ちょうど良かった!ちょっとだけでいいから手伝ってくれないかい?」

 「手伝うって、何を?」

 「後で説明するから、早く!」


そう急かされ、言われるがままに僕は厨房へと上がった……いや、半ば引きずり込まれた。

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