■■-■■ 『アイヴィー』 Side:Ivy

 「これから俺たちと過ごすんなら、コードネーム、決めなきゃな」

 「コードネーム?」


錆びついた匂いのする地下室の中、右手を机に突いたジキルが話を切り出す。


 「本名より、そっちの方がなんかカッコいいだろ?」

 「は、はぁ……」


普通は、本名がバレないようにとかじゃないのか、コードネームって。


少年のようにはしゃぐジキルに私は半分呆れる。


でも、先程までの真面目な空気よりも、彼にとってはこっちの方が性に合っているのかもしれない。


かくいう私も、嬉しそうな彼の前では気楽に過ごせている気がした。


 「何が良いかな……」


ふむ、と腕を組んでジキルが考え始める。


彼の口からは、ブツブツと『パソコン』やら『プログラミング』やらの単語が溢れてくる。


ゲーミングチェアに腰掛けて、じっと彼が思いつくのを待つ。


真剣に考えてくれている彼にわざわざ口を挟む必要性は感じなかった。


数秒して、彼の顔がスッキリしたようにパッと輝く。


もしかして思いついたのかと、彼の方に視線を向ける。


 「……アイヴィー、でどうだ?」


 「アイヴィーって、蔦の?」


 「そうだ」


これは自信作だ、とでもいうように満足気にジキルが頷く。


 「蔦は自分よりも大きな木に絡みつき、栄養分を奪って生活する。敵に絡みついて、持続的に苦しめるハッキングだって、そうだろう?」


 「……なるほど」

 「たかが蔦一本だけでは、強大な敵に致命傷は与えられないだろうな。でも、俺たち二人が加わったら、人一人の人生なんてひっくり返せる程の強さを得られると、俺は信じている」


驚いた。ジキルにこれほどのネーミングセンスがあったとは。


驚きに目を見開いて彼の表情を見つめる。


 「……嫌だったか?」


しばらく私が黙っていたせいか、彼の表情がしゅんとする。いやいや、そんな事無いって、と言いながら慌てて首を横に振る。


 「逆に、凄いなーって、ビックリしてただけだから」


 「そうか」


安心したようにジキルの表情が緩んでから、彼は背筋をピッと伸ばした。


何が始まるのか、とつられて私も背筋を伸ばす。


 「改めて、今日からお前は白愛じゃない。アイヴィーだ。これまでの人生で何があったかは知らないし、俺たちも探る気はない。ここでは全部捨て去って良い。よろしくな」


 「よろしく。ジキル。」


伸ばされた手を握る。


大きくて、ごつごつした手。


白愛としての人生は捨て去って、これからはアイヴィーとして太く、強くなるために

生きて行くんだと、私は今一度決心した。

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