04-02 『私の日常③』 Side:Ivy

 「っていうか、ジキルもハイドも、そんな事出来たんだ?」


ドシン、ドシンと地響きを立てながら走るゴーレムの上で、私は尋ねた。


真下を覗けば、人も車も、まるでビデオの停止ボタンを押したようにピタリと身動き一つしない。


冷たい風が心地よく吹き付ける。しっかりとゴーレムの肩を握っていないと、振り落とされてしまいそうだ。


 「一種の必殺ワザみたいなもんだ。代わりに体力が大幅に減るけどな。」


 「へぇー、なるほど……」


つまり、私を助けるために多大なリスクを犯してくれたのか。


その事実に何だかウルッときて、目元を拭う。


やっぱり、彼らの能力は未知数だ。


もうそう思うのも何度目だろう、と感じながら私は爽快感に身を委ねた。



 「……急いで帰るぞ。」


人目につかない路地裏で、通信機を耳から離したジキルは言った。


乗っていたゴーレムは、少しずつ小さくなって、最後には土の塊になった。


 「どうかしたの?」


 「基地の周りで、怪しい奴らがうろついているらしい。必殺ワザを使ったせいでハイドの体力もそろそろ限界だ。万が一襲われるような事があったら、あいつだけじゃ対処しきれないだろ?」


心臓がバクバクと縮む。


万が一とはいえ、もしも拠点が襲われて、ハイドが怪我をするような事があれば……

それは、完全に私のせいじゃないか。


 「まぁまぁ、心配すんなって」


ジキルが優しく私の肩を叩く。


 「名前も知らないような奴らにやられるほど、アイツは弱くねぇよ」


誰よりもハイドを近くで見てきたジキルの言葉。それは一見とても頼もしく見えたが、同時に、一抹の不安が隠されている事を私は感じ取った。


 「そうだね、帰ろう、早く」



 「あぁおかえり二人とも……ってどうしたのその表情?」


帰ってきた私達を見て、ハイドが素っ頓狂な声を上げる。


彼の周りには倒されたのであろう屈強な男たちがバタバタと床に伏している。


ハイドを中心として紅い血がそこら中に広がっているが、ハイド自身が怪我を負っている様子は無かった。


視界のグロテスクさに、思わず両手で口を塞ぐ。


 「やりすぎだって、ハイド」


 「大丈夫、全員命までは奪ってないから」


 「違う、そっちじゃなくて、俺が心配してるのはお前……」


ジキルが文章を言い切るよりも早く、突然ハイドが膝をついて倒れ込む。


素早く脇の下に入り込んだジキルが彼の体を支えた。


 「そうだね、ちょっと休もうかな……」


彼の意識がプツリと切れると同時に、項垂れた両腕がジキルの肩の上でダラリと垂れた。

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