Season 02

02-01 『時計塔①』  Side:Hyde

超小型の無線イヤホン越しにうおーっとジキルが高ぶった声を上げる。


『やっぱ真下から見ると迫力あるな!』

『はいはい、それ言うのもう何回目だと思ってんの?』

『えぇ、えっと…一、二…』

『って、数えなくて良いから、とりあえずハイドが作戦に集中出来るように黙ってくれない?』

『仕方ねーな…』


無線越しの喧嘩にクスッと笑いがこみ上げてくる。こんな時でさえ元気を渡してくれる二人は、やっぱり最高の仲間だ。


気を取り直して、コホン、とアイヴィーが咳払いをする。


『ハイド、もう一度作戦内容を確認するからよく聞いて。』


返事の代わりにコクリと頷く。彼女に、俺の様子は見えていないと思うが。


『今から潜入するのは、グラフィア市の時計塔。高さは約八十メートル』

『データの解析結果、一つ目のパスワードがここに隠されている確立が高いって事が分かったんだよな?』

『そ。よく分かってるじゃない』

『俺も解析手伝ったからな』


えっへん、という得意げなジキルの笑みが脳裏に浮かぶ。


『とにかく、内部はエレベーターと螺旋階段が張り巡らされていて、時には観光客向けにツアーが行われたりすることもあるみたいね』


アイヴィーの話を聞きながら目の前にそびえ立つ塔を見上げる。ジキルの言う通り、真下から見ると普段よりも迫力が桁違いだ。


『普段は管理人と呼ばれる人物が一階に居住しているのだけれど、もうすぐ保全工事が行われる事もあって、今は居ないみたい』

『丁度良かったな』

『ただ、その分老朽化が進んでいると考えて。今回は建物にいかに損害を与えずに遂行できるかが重要になってくるでしょうね』

「あぁ、分かってる」


時刻は真夜中。とはいえグラフィア市のど真ん中にそびえ立っている時計塔の周囲には、二十人ほどの通行人が居た。


なるべく彼らに怪しまれないように、工事作業員のユニフォームを着て歩く。背中は伸ばして、堂々と。


公共施設とはいえ歴史的文化財である時計塔では、夜間に保護団体のコンピューターシステムによる施錠がされている。


しかしそれも既にチェック済みだ。アイヴィーから貰ったUSBを鍵穴に差し込み、4桁のパスコードを入力する。


カチャッと音がする。そっと扉を押してみると、ギギッ…ときしんだ音をたてながら開いた。


一応待ち伏せされている可能性も切り捨てられない。充分に周囲を警戒しながら扉をくぐると、ヒンヤリとした湿った空気が頬に触れた。


「今の所敵の姿は無い。このまま上まで登る」

『了解』


駆け足で時計塔の狭い階段を登る。夜中とはいえ、エレベーターを使ってしまっては流石に何らかの痕跡がのこってしまうと踏んだ結果だ。


「はぁ……はぁ……」


こういうとき、後方支援役とはいえ体力づくりをしていて良かったと感じる。

二百段を超える階段を駆け上がるのには流石に息が切れるが、滅多に外に出ないアイヴィーだったら数十段目……いや、もしかしたら十数段目でギブアップしていただろう。


『……ねぇ、何か失礼なこと考えてない?』


何かを感じ取ったのか、尖ったアイヴィーの声が右耳から響く。


「い、いや、何も考えてないよ?」

『そう?なら良いけど』


なんとか落ち着いたアイヴィーの声色に、俺はホッと胸を撫で下ろした。

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