テーブルの上にチューリップ
ソウカシンジ
テーブルの上にチューリップ
私は夫と仲が悪い、離婚寸前だ。いつからだろう、夫の事をなんとも思わなくなっていた。昔は一緒に夜ご飯を食べていたのに、夫の仕事が忙しくなり、帰りが遅くなって一人で食べるようになった。テーブルの上に忽然と残るラップのかかった晩御飯、私は一人でご飯を早々に済ませ、自分の食べた食器を洗う。そんな生活に慣れた頃、夫も自分の食べた食器を自分で洗うようになった。私の仕事が減るのは間違いなかった筈なのに、何処か切なかった。私にとって二人の笑顔が消えた家庭には思い入れなど微塵もなく、家計が苦しくなり、手離すことになっても悲しくも寂しくもなかった。恐らく夫も同じだっただろう。思い出を振り返ることなどなく、私達は家であった場所を出た。
そして小さく古いアパートに引っ越した私達は、またしても空虚な生活を始めた。洗濯も、掃除も、ご飯も、それぞれがそれぞれの為にやるようになっていった。私達は仲が悪い、と言うより互いに興味を持っていないのかもしれない。
ある日、夫が離婚届を持ってきた。実物を見るのはそれが始めてだった。テーブルの上、向かい合う二人の間にやけに重々しく存在する離婚届、それを前に私達は重く閉ざされていた口を開いた。
「貴方の事、昔は大好きだったのに今は何とも思わないわ。」
「奇遇だね、僕もだ。」
それだけ言うと二人は、離婚届に氏名を書き、判を押した。
すると夫は、一言こう言った。
「僕と離婚して下さい。」
「はい。」
私は続けて返事をした。
その時、テーブル上の小さな花瓶には白色のチューリップが咲いていた。
テーブルの上にチューリップ ソウカシンジ @soukashinji
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