第425話「ゴブリンの大量発生が起きた」

 美味しい朝食を食べているが、幸い村の中は平和そのものだ。口止めをこの前ポーションを売った後でしっかりとしておいたので、無事それ以上買い取りの依頼が来ることは無かった。


 うるさい商人連中に煩わされず食事ができるのは有り難い。ただし、商人持ちでタダ飯が食えないのは少しもったいないかなと思ってしまう。


 まあそんな贅沢な悩みにとらわれるのは良くないことなので、美味しい食事を黙々と食べる。何かと頼まれごとの多い最近だったがオークの巣を破壊してからそれほど大きな騒ぎは起きていない。まあオークの巣と一緒に崩れてしまった跡地で『ここで一体何が起きたのか』を熱心に調査している連中もいるようだがな。まあそういう連中に真実にたどり着く能力など無いだろう。


 朝食のガーリックステーキを食べた後にギルドに行こうか考える。冷静に考えるとこの前商人にギルドを通さず直売したので文句の一つも言われるかもしれない、しかしいずれは行かないとならないものなので顔を出しておくか……人間関係とは至極厄介なものだな……


 重いのは身体か心かは分からないが、宿を出てギルドに行く足取りは重い。しかしリースさんに文句を言われようが、比較的報酬のマシなこの村で依頼を受注することを放棄する気にもならない。


 ようやくギルド前についたのでそっとドアを開ける。入った時に面倒なところに来たなと判断出来るほどギルドの空気は重かった。その理由を探るためにクエストボードを見る。


『ゴブリンの大量発生、駆除を大至急お願いします、報酬金貨五百枚』


 なるほど、報酬の額からいって結構な数が発生したんだろうな。しかしそれほど申告に受け取るようなことだろうか? 所詮は数が多くてもゴブリンではないか。何をそんなに恐れることがあるのだろうか?


「クロノさんじゃないですか! この依頼を受けてください! 是が非でも受けていただきますよ!」


 リースさんに早速目をつけられてしまった。まあ大規模破壊をやれるとバレてしまった以上、この手の依頼を押しつけられるのは想像に難くないことではある。


「なんか随分と辛気くさいですけど何でですか?」


「なんでって……ゴブリンが大量発生したからに決まってるじゃないですか!」


 元気よく大声を上げるリースさん、この村にはゴブリンに勝てるやつがいないのか? 単体なら弱いし数の力でゴリ押すことだって可能だろうに。


「所詮はゴブリンでしょう? ホブゴブリンがいたところでたかがしれているじゃないですか?」


 リースさんは重い口を開く。


「たとえそれが目測千匹以上の集団でも、ですか?」


「ほう、千匹ですか。結構な数ですね」


 俺の余裕の姿勢を見てリースさんはギルマスの顔になって俺に話を持ちかけた。


「なるほど、クロノさんにとっては大した相手ではないと仰るわけですね? でしたら是非この依頼を受けていただきたいのですが……」


「俺である必要性は分かりませんが、もらうものをもらえるなら、このくらいの依頼は受けてもいいですよ」


 そう答えるとギルマスは大きく驚いて胡乱なものを見る目で俺を見てくる。失礼な人だな。


「クロノさんはお一人でこの依頼を受けるつもりですか? パーティを組んだり傭兵を雇ってはいかがです? 報酬から経費分は特例で先払いしますよ」


 そんなに心配されるようなことでもないだろう。まあ俺も本気を出していない以上実力を知られていないのだから仕方ないな。この依頼を受けるか、どうしたものか、こなすのは余裕だがリースさん……ギルマスにいいように使われているような気もする。まあ出来るといってしまった以上は……


「しょうがないですね、受けますよ。ちなみに参加しようと思っている人はいますか? 命の保証くらいはしてあげますよ?」


 周囲を見渡すと全員が目を背けた。ゴブリンという雑魚を狩るだけで金になるというのに逃げるのか。もったいない奴らだ。


「では俺が一人で行きますね。発生源はどこですか?」


「森の奥ですね、多数のゴブリンの観測例があります。始めは小さな集団が見られただけだったので放置していましたが、次第に手に負えないほどの集団になってきたそうです」


 早めの対処、とっても大事。


「それって集団になる前に討伐依頼を出しておけば、安全に倒せたんじゃないんですか?」


「ギルドの経済事情はお察しください……」


 悲しいギルマスの吐露だった。村としても大きくないからギルドに依頼を出さなくてもいいと思っていたのだろう、手遅れになる前に対処するのは基本だろうに、こんな事になるまで放置していたのか。


「お察しします。それはそれとしてクソだと思いますがね」


 それだけ聞いたリースさんが、俺の手を取って上目遣いで見てきた。


「お願いします、本当に参加してくれる人がいないんですよ」


 まあこの村にいる荒事を得意にしている奴らはこの村に来た連中の警護が目的だからな、この村に帰属意識なんて無いってことだろう、無理もないか……


「行ってきます、朗報をお待ちください」


 それだけいってギルドを出る。


『クイック』


 早速加速魔法を使って風のように森の中に突っ込んで探索魔法で目的の相手を探す。探索魔法は全力で魔力を流しておいた。魔物の集団が塊のように反応して数匹は強力な魔力にあてられて反応が消えてしまった。大多数もこれで弱体化しただろう。


 そして加速したままゴブリンの集団までたどり着いた。大量のゴブリンがそこにはおり、ゴブリンキングが集団を指揮していた。さすがはキング王様、魔力の波程度では倒せないか。


 ひとまず周囲の有象無象を倒すために魔法を使用する。


『グラビティ』


 全力で発動したので普通のゴブリンたちは地面にめり込み身体が潰れて死んでいった。これで八百数十匹を討伐した。残りはホブゴブリンやゴブリンメイジなど魔法耐性があったり、単純に身体が丈夫だったりする個体だけだった。


「まあ、上出来かな。残りは手動か……」


 二百匹足らずを殺すのを面倒に思いながらもナイフを取りだして瀕死同然のゴブリン共の生き残りを倒していった。重力魔法で意識がぼんやりしているところを一気に解除して俺が切りつけたものだから、一体ずつが綺麗さっぱり死んでいく。


「ニンゲン……キサマハ……ダレ……ナノダ」


 哀れにもゴブリンキングは恐怖を感じているようでゴブリンの何倍もの身体の大きさをしていながらビクビクと哀れに震えていた。


「まあなんだ……集会していたようだが人間の邪魔なんだよ、死んでくれ」


 トスとナイフをゴブリンキングの心臓に突き立てる。引き抜くと血しぶきが飛んでリーダー個体は死亡した。


「さて、全部きっちりしたいになったな……」


 一応探索魔法を使って生き残りがいるかどうか確かめてみる。一体たりとも生存反応は無かった。


『オールド』


 死体の時間を加速させて死体を土に還す。一応聖水を撒いてアンデッド化しないようにする方法もあるが聖水の必要量と手間が現実的ではない。


 あたりが草原になったところで時間加速を停止させて村に帰った。少し派手にやってしまったが詳細を教えるつもりは無いので問題あるまい。


『リバース』


 身体についたゴブリンの血肉を時間遡行で綺麗に落としておく。あのギルドは清潔だったからな、血なまぐさい身体で入るようなものではない。


 ギルドに入るとギルマスではなくリースさん個人として俺に頭を全力で下げてきた。


「ありがとうございます! クロノさんのおかげで町が救われました!」


「それはどうも、俺にまたこんな高報酬な依頼を受けさせることにならないように、村の財政担当には、しっかり人材育成の資金を出してもらえるようになるといいですね」


 チクリと公務をしている連中に嫌味を言うがまあ無駄だろう。しかし俺は大量の報酬をもらってギルドを出た。後ろから大歓声と宴会の声を聞きながら宿に帰り、一人で村の名物だというエールを別料金で注文してあおった。その苦味はまるで、あの報酬を出してギルドに依頼を出した連中の、懐の痛み具合を味わっているようだった。

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