第377話「町の違法薬物組織を潰した」
本日、ギルドに入るなりネリネさんが強い圧で迫ってきた。
「クロノさん、町の治安維持への協力をお願いします」
「突然何を言い出すんですか? 俺は自警団に入っているわけでもないんですよ? そういうのは治安維持専門の部隊がいるものじゃないんですか?」
普通の町なら無いことも多い自警団だが、この町の規模なら間違いなく存在しているだろう。この町はその程度の人材を雇えるほどには金があるはずだ。
「それが……今回の相手は組織なのですが、結構な武闘派らしく自警団だけでは死者が出かねないのでクロノさんにご助力願いたいとのことです」
「面倒くさいですねえ……町で遺恨を買いそうな依頼は受けたくないんですけどね」
「犯罪者からの遺恨なんて誇りみたいなものでしょう?」
ネリネさんは簡単にそう言うが、俺は関わりたくないなと思う。面倒な相手だったら粘着してくるからな。敵を増やすのはいいことではないだろう。
「俺は平和に生きたいんでね、町の中のトラブルは避けたいんですよ」
「ですが……」
「とにかく今回の依頼はお断りしますよ。そういうことに関わり合いになりたくないんでね」
「ですが、町にその組織が禁制品の薬物を流しているらしく、結構な数の子供が犠牲になっているらしいんですよ」
「知りませんよ、俺とは関わりの無いことなのでね」
ネリネさんも語気が強くなってきた。知ったことではないが子供くらいは助けてやるか。
「クロノさん! 協力してくれないのは冷たいですよ!」
「俺は人との協調性がないんでね、多分討伐班に入ったらお邪魔になりますから。そう言ったわけで俺は人とチームを組みたくはないんですよ」
「だってクロノさんが主戦力なんですよ?」
やれやれ、勝手に人を戦力に数えるのはやめてほしいものだ。
「とにかく、俺は参加する気はありません。まあ話くらいは聞いてもいいですがね」
「やる気は無いのに話は聞くってなんですか……まあいいでしょう。組織のアジトは地下の下水道を改造して密造から売人の管理までしているようですね。まだそこまでしか分かっていないんですがね……」
「なるほど、それでは俺は関わりたくないのでさようなら」
「クロノさんのケチ……」
まったく、犯罪組織だかなんだか知らないが迷惑な話だ。
「では、俺は宿に帰りますので、町が平和になる事を祈っていますよ」
それだけ言ってギルドを出た。俺にだって人情が無いわけではない、ただギルドの一部として働くのが嫌なだけだ。手の内は隠しておきたいものだしな。
宿に帰ってから部屋に入り、探索魔法を町全域に使用した。
「おやおや、随分とスラムで売りさばいているようだな……下水道の入り口は……あそこか」
全て筒抜けになってしまうのだが、探索魔法にも限度がある、最後の手を下すのは俺がやらなければならない。放っておくとギルドの連中が犠牲者も覚悟の上で戦いかねないからな、さっさと倒しておくに限る。
探索魔法で調べたかぎりだと大勢が地下のアジトに集まっているので夜間に襲撃を駆けるのが適当だろう。夜襲をかけるプランを考えてみる。集まっているところに空間圧縮を使用して消し飛ばすことはもちろん出来る。出来るのだが……
「町が大騒ぎになるよなあ……」
下水道が崩壊するのは避けられない。そんなことをして大騒ぎになって大勢に迷惑をかけるのは本意ではない。俺は目立たずにこの事件を片付けるつもりだし、町を混乱させるのは悪の組織だけで十分だ。
よし、やはり深夜にあれを使うのがベストだな。
手段は決定したのでその晩の食事をとったあと、深夜に目が覚めるように目覚まし魔法をセットして寝た。
パチパチパチパチ
やかましくて眩しい光と音で目が覚めた。時計に目をやると現在は日が変わる頃だ。おあつらえ向きだし、探索魔法を使ってみる。
「おー……いるいる、獲物が大量に地下に籠もっているな」
カモが固まってくれているので手間が少ない。
『ストップ』
時間停止で町全体の時間を止めた。これをやると魔力を消費するので勘弁してほしいものだ。目立たないように事をすませるのも簡単ではないということだ。
宿の窓から飛び出して町の中をコソコソと歩いて行く。いや、堂々と歩いてもいいのだがなんとなく隠密をしているという雰囲気のためだ。その方が大変なことをやっているという感覚が出る。
さて、地下アジトの入り口は……あそこだな。
マヌケなことに地下へ潜ろうとして蓋を開けたところで止まっている族がいた。そいつを持ち上げて縛り上げ、ポイとその辺に転がしておいた。
そして中に侵入していったのだが……
サクリ、サクリと犯罪者たちを始末していく。雑魚ではあるし時間停止に耐性など持っていない。しかし子供にまで手を出すような連中にかける慈悲は微塵も無い。下水道の歩道部分を歩いて行くと、扉がついた部屋を見つけた。壁を壊して掘り開けて作ったのであろう部屋に続いている。
『オールド』
時間加速で鉄扉を錆び付かせて崩壊をさせた。鉄なら大丈夫だとでも思ったのだろうか? 滑稽な話だな。
そして扉をガンと蹴ると劣化しきっていた扉が向こう側に倒れた。こじ開けた扉の中では違法な薬草が大量に加工され、人に害をなすような調合をされていた。
なんとなく昔、勇者のやつが『気持ちよくなりますぜ』と売人から声をかけられていたのを思い出した。あんなのでも勇者を出来るのだから世も末だ。俺が止めていなかったらどうなったことか……
それを思い出すとイライラしてきたので内部にいた犯罪者たちの胸をナイフで突き刺していった。ぬるりとした感触が手に伝わる。
そうして最後の一人、この組織のボスが残ったわけだが、俺はコイツを直接殺さず手も足も縛り上げた。そしてその男を担いでアジトを出て下水道に放り込んだ。この男には綺麗に死ぬことなど許されるはずは無いのだ。
こうして一通り片付いたので、下水道を出て宿に帰った。
――翌日
「クロノさん……何かしましたね?」
ネリネさんも勘がいいようで俺が何かしたと思っているようだ。
「さて、何の事でしょうね? 俺はなにもしていませんよ?」
「そうですか、犯罪組織は何かがあったらしく全滅していたのでクロノさんに頼むことは無くなったわけですが……偶然だと主張するわけですね?」
「当然でしょう? 俺はなにもしていませんよ、なにもね」
「クロノさんが正直に全部話してくれるとは思っていませんがお礼は言っておきますよ、ありがとうございます」
「なにもしていないのにお礼を言われるのはおかしい感じですね」
ネリネさんも肩をすくめてクスリと笑った。
「まあ、そういうことにしておきますよ」
こうしてこの町の平和は守られたのだった。なお、その後しばらく、『悪いことをすると悪人狩りが殺しにやってくるぞ』と噂の種になったことは気にしないことにした。
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