第357話「ファイヤーバードの駆除」

 その日はなんだか暑いような気がする日だった。強く日が照っているわけでもないのになんだか周囲の温度がいつもより僅かに高くなってしまったような気がする。気のせいならいいのだが大きなトラブルの始まりでなければいいな。


 朝食を食べながら自分の周囲を僅かな魔力で冷やしていた。氷結魔法も使えなくはないのだが得意ではない。なのでこの程度の事しか出来ないのだが、根本的に解決してもらわないと魔力を出し続けることになって疲れてしまう。総魔力量からすれば僅かなものだが、魔力を体表から安定して出し続けるというのは精神力を使うのだ。出来れば使わないにこしたことはない手段を使用しているというわけだ。


 朝食を食べてギルドに向かった。炎の魔人でも出現したのではないだろうかと思えるほど屋外は暑かった。もちろん冷却はしているので汗はかかないのだが、魔力コントロールのために精神をすり減らしていく。


 ギルドに着いたのだが、ギルドでは冷却魔法がかかっており、自身の魔法を解除しても何ら問題無い程度の気温になっていた。ただしそのせいか、ギルドにただ単に涼みに来たやつも多いせいだろう、食事用テーブルの上に『ご注文をお願いします』と札が立てられていた。


 クエストボードを見てみると大々的に依頼が貼ってあった。


『近辺に出現したファイヤーバードの討伐もしくは排除、報酬金貨三千枚』


 景気のいい話だな。ファイヤーバードか、大したことのない相手だが討伐すればそこまで稼げるのか。


「あ! クロノさん、その依頼を受けたいですか? 受けたいですよね?」


「なんですかネリネさん……確かに受けてもいいですけどこんな割の良い依頼ならもう受注したパーティがいるんじゃないですか?」


 共同受注という形で貼り出しているのだろうと思っていたのだが違うのだろうか?


「いませんよ! ファイヤーバードなんて面倒な相手を討伐してくれる人はそうそういませんって」


 そうか? 強力な魔法で吹き飛ばせばいいだけじゃないか? 勇者だって倒したことがあったぞ、辺り一面を吹き飛ばして倒したので何度も被害が少なくなるように指示して時間遡行を繰り返していたがな。


「他に受ける人がいないなら受けてもいいですけど、何か裏があるんじゃないですか? 報酬高いですし」


「実はですね……ファイヤーバードが巣を作ろうとしているらしく気が立っているらしいんですよね……普段なら氷結魔法を何度か打ち込んでいれば逃げ出す相手なんですけど、今回は作りかけの巣を壊されないように攻撃してくるらしいんですよ」


 ネリネさんがさも重大そうに言ったが大した相手ではないので攻撃くらいかわせばいいのでは?


「討伐だけでこの金額がもらえるんですか? 随分と豪気ですね」


「この町でファイヤーバード相手にしては安い方だと思いますよ。あと討伐しなくても追い払ってくれれば報酬は出ます」


 ふむ……簡単に倒せてそれなりの報酬、そしてファイヤーバードの素材買い取りもあるだろう。結構いい話じゃないだろうか? もう少し詳しく聞いてみよう。


「ファイヤーバードは特殊個体だったりしますか? 通常の個体ならそれほど脅威はないと思いますが」


「通常がどのようなものを指すのかはよく分かりませんが、魔物図鑑に載っているような個体と差は見受けられない個体ですね。クロノさんは討伐経験があるのですか?」


「まあパーティ組んでいた頃ですけどね」


 パーティ組んでいない方が効率よく倒せるんじゃないだろうかと思ったが、それは黙っておいた。時間遡行を繰り返して倒したので一般的な倒し方はよく分かっている。


「では是非討伐をお願いします! ギルドの空調代もバカにならないんです! 町の暑さも酷いものですし、討伐して頂けると大変助かるのです!」


 ファイヤーバードは周囲の気温を上げると言うが結構な熱気を出している様子だし、ギルドもその被害を被っているのだろう。それは俺には関係のないことだけれど、純粋に報酬がいいと言うだけでその依頼を受ける理由にはなるだろう。


「分かりました、その依頼を受けましょう。ちなみにファイヤーバードの出現地帯は何処ですか?」


「この町の南の砂漠です、そちらの方から熱波がやってきています」


「なるほど、さっさと行って片付けてきますね!」


「あの……お一人で倒せるのですか?」


 俺はネリネさんのその質問に頷いて『もちろんです』と答えてギルドを出た。途端に暑さが襲ってくるので冷却魔法を身に纏う。日陰を歩きながらよくもまあ面倒な事ばかり起きるものだと思ったが、おかげさまでそこそこの金額をもらえるのだから文句は言うまい。


 町の出口の門に着くと門番さんが通信魔法で俺の事は聞いていたのだろう、近寄ってきて握手をしてきた。


「クロノさん、どうかあの忌ま忌ましい鳥を追い払ってくれ! この暑さじゃ屋外で働いている連中が皆へばっちまう。頼むよ!」


「ええ、討伐しますので安心してください」


「それは助かる、是非頼むぞ!」


 そう言って門を開けてくれた。門を出ると直射日光と熱波から多少なりとも身を守っていた壁がなくなり、暑さが直接俺を襲う。身に纏っている冷却魔法を少し強めにして、砂漠の方へと向かっていった。


『クイック』


 加速魔法を使用して砂漠まで駆けていく。徐々に気温が上がっていくので冷却魔法も徐々に強力なものにしていく。幸い本来は敵を氷漬けに固める魔法なので気温を下げる程度ならほとんど魔力の消費はない。


 そして砂漠に着くと遠くの方にファイヤーバードの巣が見えた。砂を盛った上に卵が数個乗っている。卵に罪はないのだが、これが孵ると餌を取りにファイヤーバードが暴れ回るのは目に見えている。


『ストップ』


 時間停止をかけてストレージに放り込んだ。そしてそこにあった熱を絶やさないために燃やしている枯れ木を消化して後は待つだけだ。


「クエエエエエエエエ!!!!」


 大声を上げて大きな炎を纏った鳥が空中から襲いかかってきた。加速魔法を使っている俺からすればおそいにも程がある攻撃だ。吐き出した火炎のブレスをひょいとかわして『ストップ』を使用した。


 ぱりん


 音を立てて魔法が解除される。流石に時間停止に耐性くらいは持っているか。


 空を飛んでいるのでとりあえず落とそう。


『グラビティ』


 ドサリと音を立ててファイヤーバードは地に落ちた。空気と違って熱をよく吸い取る地面にその体温をどんどんと奪われていく。


「クエエエ……」


 俺はファイヤーバードの眉間にナイフを刺して依頼を完了した。命を刈り取った途端に寒気がするほど気温が下がったので冷却魔法を解除した。ストレージに体温を失ったファイヤーバードの死体を入れて終了だ。


 町に帰ると変わり身が早いのかすっかり人通りが復活していた。入る時は門番さんに大層感謝されたものだ。それらを適当に流してギルドに向かった。


 ドアを開けてギルドに入ると、人は一気に減っており、酒を飲んで談笑している数グループしか残っていなかった。空調も必要無くなったのか解除されていた。


「クロノさん! 追い払ってくれたんですね! 本当にありがとうございます!」


「いえ、大した相手ではありませんし……」


「ところでファイヤーバードが巣を作っていると噂になっていたのですが、巣も破壊してくださったのですか?」


「ええ、再発しないように完全に駆除しておきましたよ」


 ファイヤーバードが人間にとって迷惑なだけで、悪いことをしようとしていたわけではないので気の毒だが、俺は人間として駆除しなければならない。


「クロノさんならやってくれると思っていましたよ! はい、報酬の金貨になります!」


 そうして大量の金貨をもらった俺はこの町の金払いの良さに感謝をしたのだった。

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