第41話「ラヴァドラゴンの討伐」

 宿に泊まって朝だというのに惰眠を貪っていると、ドアがノックされた。


「はーい」


 朝から何の用だ? くだらない用事じゃないだろうな……


「町長様がお待ちですので準備してロビーにお越しください」


 そう言って足音は去って行った。火山の噴火は止めたはずだがまだ何か問題があるのだろうか。


 冒険者用の装備に着替えてロビーに向かう。こういうときの話は厄介ごとと決まっているので油断は出来ない。


「どうも、ホイスト町長。何かご用でしたか?」


 俺に名前を呼ばれた町長は狼狽しきった顔で俺にいきなり土下座をした。


「クロノさん! あなたを見込んで頼みがあります!」


「と、とりあえず顔を上げてください! 目立ちますから!」


 町長も少しして落ち着いて椅子に座ってくれた。俺の評判に関わることを突然するのはやめて欲しい。


 落ち着いた町長が俺に依頼の内容をようやく話し始めた。


「実は火口近くにラヴァドラゴンが観測されまして……」


「要はそれを討伐して欲しいと?」


 重々しげに頷く町長。やはり簡単に全てが上手くいくようなことはないらしい。


 正直やってできないことはない、やる気が猛烈に起きないだけでドラゴンの一匹くらい倒すのにそう苦労はしない。ただ気が進まないのは、人間の都合でただ住み着いただけのドラゴンを自分の手を汚さず討伐して欲しいというこの町長が気に食わないだけだ。


「じゃあ金貨二百枚で受けますよ、払えますか?」


 小規模なギルドなら一月ほどに当たる予算だ。こんな額を一般の町長が払えるはずがない。ま、自分で頑張れって話だな。


「二百枚ですね? 少々お待ちください」


 そう言って部屋の奥の扉を開けて引っ込んでいった町長を見送りながら、まさか払う気か? という疑念が消えてくれなかった。


 そうしてしばし待っていると町長が大きめの袋を持ってきた。


「金貨二百枚です、コレで受けていただけますね?」


「え、まあ受けます」


 思わず受けてしまった。ドラゴンの討伐なんて気の進むことではないが、この金額を差し出されると受けるしかない。まったくもって面倒な話だが言ってしまったことを取り消すのはあまりにも格好悪い。そもそも火山全体の時を戻せるのにドラゴン一匹倒せないというのは沽券に関わる話だ。しょうがない、ちょっと倒してきてやるか。


「受けていただけるのですね! では概要をご説明します」


 そう言って町長はラヴァドラゴンの生態や生息しているであろう部分を地図に示した。町としてもドラゴンが近くにいると安心できないので討伐して欲しいらしい。


「本来なら町のギルドで処理する話なのですが……いかんせん噴火に備えて戦闘訓練の時間を割いていたもので……」


「分かりましたよ、今回だけは受けますから、次からはギルドに発注してくださいね」


「申し訳ない」


 そんなわけでドラゴンの討伐に向かうことになったのだが、気が向かなかった。戦闘で負けるとかそういう心配をしているわけでもないのだが、こちらに襲いかかってきたわけでもないただそこにいるだけの魔物を倒すのは気が進まなかった。


 しかし報酬をもらった以上依頼はこなすのがプロというものだ。俺は火山の登山ルートを上ることにした。目的地は中腹の崖っぷち、以前そこから噴火したらしく荒れているらしいが、それがラヴァドラゴンにとって居心地の良い地形になってしまったらしい。


 都合がよかったのは山頂まで登る必要が無いことだろう、比較的なだらかな場所に営巣してくれて助かった。これが山頂に生息された日には戦闘より登山の方に苦労するところだった。


 中腹まで来たら脇にそれ、ドラゴンの巣まで向かう。浮遊魔法が必要かと思ったが、崖と言っても勾配がきつめの坂程度の地形だったので普通に歩いて向かうことが出来そうだ。


 ソレは歩き始めてすぐに目に付いた。木々が何本も絡み合ってボウル状に組み上げられ、そこはいかにも巣であると言った風に存在していた。


 そこには寝ているドラゴンがいた。出来ればこのまま永眠していただきたいところだが人間の気配を感じたのだろう、起き上がった。


「何用だ? 小さきものよ」


「お前をぶっ潰しに来たんだよ、態度だけは大きいもの」


 俺の皮肉に露骨に嫌そうな顔をしたものの、ドラゴンが人間相手に本気でキレるのはみっともないという見栄があるのだろう、ブレスを吐こうとして息を止めた。


「人間、貴様ごときに竜たる私が倒せるとでも思っているのか?」


「よゆーよゆー! トカゲごときに後れをとるほど耄碌してないさ」


 さすがにトカゲ煽りは聞いたのかブレスが飛んできた。


『ストップ』


 時間を停止してブレスの射線上から離れ解除する。


「な!? 今のは完全に当たっていたはず!?」


「分かったろう? トカゲに人間が負けるわけないんだよ」


「人間ごときが」


 そこで『ストップをして俺はその場を離れ、その巣の上に移動して適当に良い感じのサイズの岩を転がす、押して動かすのは難しいが球状の石を選んだので案外簡単に転がせる。ドラゴンの巣の上にもってきて落ちそうになったところでストップをかける。


 そしてドラゴンの目の前に移動してからリリースした。


「調子に乗るなよにんげ……ぐあああああああ」


 巨岩に押しつぶされたドラゴンはあっけなく潰れた。雑魚だなと思いながら、町へと帰還することにした。


 ドラゴンは確かに強いのだが、意識していないところからの不意打ちには弱い。力を入れないと重いモノが動かせないように、不意に強い力がかかると筋肉に力を入れていないので骨がポキリと折れる。この知識は勇者達のドラゴン討伐に付き合わされて得た知識だ。


 町へ帰るとそこそこ歓迎された、ギルマスや町長は面倒事が減って助かったと言い、ちゃんと説明通りの報酬をもらえた。あの程度人数がいればどうとでもなる相手のような気がするが、やはり練度が低いとそうもいかないのだろう。


 宿に帰り、少々高めの酒を出してもらって本日の成果を確認した。ドラゴンが思った以上に弱くて助かったなと思いつつ酒に溺れてしまうことにした。

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