第7話「熟成料理(3分)」
俺は宿の厨房を借りて料理を作っていた。町で美味しいと評判の料理のレシピが流出したからだ。
もっとも、料理人達はそれを重大に受け止めていない、それは調理にかかる時間ゆえだ。
しかし……
「俺に作ってくれと言わんばかりだな……」
当然俺のように時間に干渉できる人間がいないなら問題無いって思うよな……
「クロノさん、厨房の使用は三十分まででお願いしますね?」
そう、レンタルキッチンではとても作れない程度には手間のかかる料理だ。
「分かりました、時間内に終わらせます」
レシピは下準備に半日かかるようなものだが、スキルを使えば圧倒的時短が出来る。熟成も漬け込みも端から見れば一瞬だ。
「さてとじゃあ作るか」
レシピと共に流出していた肉を漬け込む出汁をお椀に出して肉を放り込む。後はスキルで……
『オールド』
一瞬で肉に出汁の味が染みこむ。念のため時間稼ぎをしておくか。
『ディレイ』
これで時間の流れをゆるやかにして効率を上げる。
肉に小麦粉をつけて油に入れる。レシピによると中温で朝から夕方までじっくり揚げろと書かれている。ここが一番面倒で、一般家庭では作れないと考えられているゆえんだ。
油の温度の調整が出来たら時間を加速させる。
『クイック』
一瞬で肉が色づき、黄金色の揚げ物の完成だ。
出来上がった肉から鼻腔をくすぐる香りがする。
せっかくなので食べてみよう、美味しそうな香りを放つ肉を一つ口に入れる。じゅわあと肉汁が口の中に溢れてきた。
じゃあスキルを解除して……
厨房を出ると時間はわずかしか経っていなかったので管理人が駆け寄ってきた。
「クロノさん? もういいんですか? まだ三分くらいしか経ってないですよ?」
「大丈夫です、『これ』がもう出来ましたから」
肉の入った箱を見せてそう言った。
「はあ……? もう済んだんですね?」
「ええ、完璧に終わりました」
「では、またのご利用をお待ちしています」
俺はそれから酒屋によって肉に合う酒を一本見繕ってもらった。
宿に帰り、酒と肉を開けて口に入れていく。いくらでも酒が飲めそうだ。
その日飲んだ酒は非常に美味しいものとなった。食事を楽しめるっていい事なんだな……
その日、蒸留酒の小瓶を一つ空にして、翌日の二日酔いには苦労する羽目になったのだった。
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