第45話 美依の親族
「那知も、乗って~!」
レストランの駐車場には、運転手が乗っている黒い車が1台止まっていた。
「そういう事だと思った! 僕は戻るから!」
呆れたような口ぶりで、美依から離れようとした那知。
「えっ、戻るって、あの、もう誰もいなくなったレストランに? 止めといたら~? だって~、何か出そうじゃん!」
「縁起でも無い事、言うなよ! 何も出ないって!」
そう言いつつも、夜のレストランの休憩室に、自分だけ1人で一晩中残っている事を想像し、少し怖気づいた那知。
「私の家に来てよ~! 那知の事、私の家族に紹介したいの~!」
「紹介も何も、そんな仲じゃないし......」
車の中の運転手が、外で会話している2人の様子を伺っているように見えて、気になる那知。
「紹介する必要有るの~! 私が大好きな人だから!」
美依の恥じらいの無い告白と強引な口調に、戸惑った那知だったが、ふと自分を慕う美依に澪の姿を重ね、つい言われるまま、車の後部席に2人で乗っていた。
車に乗った途端、美依はさっきまでと態度を一転させ、黙りこくった。
それに対し、疑問が湧いてきたが、敢えて尋ねる事もせず、那知も言葉を発する事はしなかった。
以前、那知の自転車で送り届けた事の有る美依の家までは、車で向かうと、ものの5分もかからなかった。
レンガ造りの威圧感の有る構えの邸宅に、自分が容易に足を踏み入れていいものか迷う那知。
「車の中で話さないでくれてありがとう、那知! 説明してなくて悪かったけど、私の部屋とか両親の部屋以外は、あちこちに盗聴器や監視カメラが有るから、そんなので会話を拾われたくないの!」
美依の言葉に驚かずにいられない那知。
「それって、どういう家なんだよ?」
「気になる~?」
那知の気持ちを試す様な美依の言葉や、盗聴器や監視カメラの件で、美依に誘われるまま、のこのこと家に足を運び、悔やんだ那知。
「別に!」
「素直じゃないよね~、那知って! 来て!」
美依は那知の腕を取り、家族の待つ、教室くらいの広さの有る居間に案内した。
ゆったりとコの字に並べられたソファーには、美依の両親と思われる40代くらいの男女の他に、もう一組の同じくらいの年齢の男女がいて、その4人の視線が一気に那知に注がれた。
「おかえり、美依! 待っていたよ」
2組の夫婦を見比べ、少し温厚そうに見える夫婦が、美依の両親と認識出来た那知。
「ただいま! 遅くなってごめんなさい! 伯父様と伯母様も来ていたのね!」
「おかえり、美依ちゃん! また一段とキレイになったわね~!」
美依の伯母である目付きの鋭い女性が、美依を褒めて来た。
「久しぶりだね、美依ちゃん。一緒にいるのは、彼氏かな?」
美依の伯父が、那知を上から下まで観察してから尋ねた。
「あっ、そうな......」
「いいえ、友人の園内です! 夜分遅くすみません」
美依の返答前に強く言い切った那知。
「まあ、最初は友達からのスタートの方がいいわね! ママも安心したわ~! あっ、そんな所に立ってないで、座って座って!」
美依の母親は、愛想が良く、盗聴器を仕掛けているようには感じさせられなかった。
母親に勧められるまま、美依とは30㎝くらい間隔を開け、ソファーに座った那知。
「美依は一人っ子だから、ワガママなところもあるが、園内君のようにしっかりした友達なら安心だよ!」
父親からも、子煩悩そうな雰囲気しか漂わなかった。
「でしょう~? 那知って、イケメンだし~、しっかりしているし~、安心よね~?」
まるで、自分の恋人を
「ほう、なち君という名前なのかね? 那智の滝のようだが、どういう漢字で書くのかな?」
伯父のメガネの奥の鋭い視線が、那知へと向けられている。
自分の名前の漢字について問われるのは初めてで、伯父に対して、尚更、緊張する那知。
「那智の滝の『那』と『知る』方の知という漢字です」
「へぇ~、そうだったの~? てっきり、那智の滝の方の漢字だと思っていた!」
初めて知った様子の美依。
「なんだ、美依ちゃんは、そんな事も知らないでいたの~? それは、彼氏じゃなくて、友達と言われても仕方ないわね~!」
オッホッホに近い響きの高飛車に思える笑い声を発した伯母。
「もしかして、那知君は、お母さんの名前に、『那』が含まれていたのかな?」
再び伯父から、興味津々に尋ねられた那知。
その時に生じた、那知の違和感。
(どうして、知ではなく、那の漢字の方を聞くのだろう......?)
「あ~っ! 私も、那知の名前の由来知りたい~!」
那知の方にさり気なく近付いて座ってから、甘え声で言った美依。
「いいえ、母の名前には『那』は入ってないです......」
少し間を置いてから、那知は返事した。
伯父に返答しながら、2年前に目にしていた戸籍抄本に書かれていた母親の名前を蘇らせていた。
美依の伯父が、那知の実母を知っている事に対し、猜疑心が込み上げる那知。
(どうして、実母を知っている......? この男は何者......? まさか、実母が不倫していたという男性で、僕の父親の可能性も有る......?)
敢えて、実母の名前を口にしなかった那知だが、家や車など至る所に盗聴器を仕掛けるような一族だ。
那知の出自を疑った場合、探偵などを雇って身辺調査し、バレるのは時間の問題のように思えた。
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